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「ふ・ら・い・ど」  作者: 名無しさんの投稿
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公安特務機関「Flied」


クラスメイトの男子達からは優しく肩を叩かれ、女子達からは遠巻きにヒソヒソ話をされながらも、あっという間に時間が過ぎた放課後。


忠臣は吹奏楽部の部活があるためその場で別れた。

部活動を一切していない俺は一人で学校を出ることに。


ただ今日は真っ直ぐに帰宅するのではなく、樫葉原市駅とは逆の南方向。岸部町へと足を運ぶ。


学校からおよそ15分歩いて辿り着くとあるアパートの一室。


「203号室」に今日は用がある。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ピンポーン――

古びた呼び鈴を鳴らした。

年季の入った抹茶色の扉に付いた覗き穴をなんとなく眺めながら開くの待つ。

その見た目とは違って、オートロック式の開錠音が中から漏れ出るとすかさず扉が開いた。


「お・ま・た・せ〜!お土産は?」


中から白衣に身を纏った女性が出てきた。

ご自慢の編み込まれた前髪赤み掛かったロングヘアーが特徴。

少し上目遣いで見てくる程度に小柄だ。


「……ないですよそんな物。お疲れ様です、うららさん。皆さんは?」


「うん、もうみんな来てるよ〜。ささ、中に入って〜」


「お邪魔します」


そう言って中に入ると、玄関から見える狭い通路。その右横の部屋には洗面台が置いてあった。


足元には紐で束ねた新聞紙が置かれ、通路正面奥に磨りガラスの扉。


扉の上には、おばあちゃんの家で見かけたジャラジャラとしたのれんの様な物が飾られていた。

生活臭漂うどこにでもある光景だ。


ただその全ては、あくまでカモフラージュに過ぎない。


奥の扉を開けると雰囲気がガラリと一転する。

壁はコンクリートの材質を剥き出しにした、いわゆる「打ちっ放し」に統一され、少し暗めの照明が空間を照らしていた。


シックな雰囲気の中に普段ではお目に掛かれない精密機械が、部屋の周りを囲むように設置されて室内を圧迫していた。


その部屋に先客が3人。

この拠点には俺を含めて6名がいる。


「あ、おはよう木江君」


楕円形のテーブルに置かれたパソコンの前でカップを片手に真っ先に声をかけてきた人物。

黒縁眼鏡と白髪を後ろで束ねた白衣の男性。

一年前に出会った幽体少女の父親――果敢無 民生。その人だ。


「おはようございます。果敢無博士」


ここでは昼夜問わず挨拶は「おはよう」で統一され、俺は同じように挨拶を返した。


「全員揃ったようだな。会議室に行くぞ」


部屋の中央に牛革の真っ赤な二つのソファ。

そこに鎮座している黒服スーツを纏った黒髪無造作ショートヘアの女性――橘 才(たちばな さい)は皆に合図した。


橘さんと向かいあう形で足を組んでいる男性は微笑みながら首だけで会釈をした。

その足は長くモデルのようなスタイル。

爽やかでに糸目の――猿渡 凪(さわたり なぎ)

そして扉を開けてから後ろをテクテクついてくる――三浦 麗(みうら うらら)

壁際にもたれて俺が入室してからで睨み続けてくる女子高生――木乃美屋 静音……!


「ケッ!」


「……チッ!」


木乃美屋が顔を背け、俺は舌打ちをした。


「相変わらず()()()()ね~君達」


「「どこが!?」ですか!?」


俺の後ろからひょっこり顔を出してはやし立てたうららさんに、俺たちの反応は被ってしまった。


コンッ!コンッ!


音に反応して振り返ると、橘さんが会議室の扉の前。

ノックした動作のままこちらに視線を注いでいた。


「時間が惜しい。早く中に入れ」


……その通りだ。時間が惜しい。木乃美屋に構っている時間などない。

気持ちを改めて、会議室に俺は向かった。

ここが、俺の職場。公安特務機関「Flied(フライド)」だ。


【会議室】


「本日より実践的な検証に入る。今回は外での検証となるため、本件に関わるスタッフ及び被験者に対して改めて概要を再認識していただきたい」



果敢無博士と橘さんを対面に、俺と木乃美屋。側面両隣にうららさんと猿渡さんが着席している。

橘さんが切り出したことで、会議室の雰囲気はより重厚で張り詰めた空気へと変わった。


「私達、公安特務機関「Flied」は公安警察の監視化のもと、法令遵守で活動しなければならない。

よって守秘義務違反や犯罪行為を行った場合、私の権限により違反者は逮捕・捕縛する。くれぐれもこの中に犯罪者がでないことを望む……というのが公安警察(うえ)からのお達しだ」


仰々しく話していた橘さんが少し肩をの力を抜いて俺たちの緊張を解した。相変わらず、無表情に関しては変わりはない。


「実際のところ、スタッフはともかく被験者の君達を罰する刑法など今の法律には存在しない。刑法230条で処罰できるかも怪しいところだ。何故だかわかるか?」


「幽体の存在……ですか?」

と俺は橘さんの問いに答えた。


「ああ、まず幽体の存在の証明から始めなければならない。だが、そんな事をしてみろ。例え証明できたとしても行き着く先は迫害・排除となるに決まっている。」


「人知を超えた存在……という事でしょうか?」

質問した猿渡さんの表情はいつになく重々しく、陰っていた。


「ああ、一般人から見れば幽体能力を持つ人間など……言葉は悪いが「怪物」「化物」と呼ばれてもおかしくはない。」


化物……。果敢無博士の心情はテーブルに置いていた右手を握りしめたことでわかった。


「そこでだ。私達の主たる目的についてだが、現段階では「幽体」つまり「フライド」化した民間人の保護と存在の隠ぺい。またフライド化の原因究明を目標と断定。スタッフ及び被験者はそれに遵守してことにあたれ。異存はないな?」


橘さんは周囲を見回し、皆が反応がないことを了承と取ったようだ。


「果敢無先生」


「うん。今回の検証は引き続き、私が作った幽体離脱支援装置「Oobead(オービード)」を使用する。君達も知っての通り、僕の娘……。果敢無 蛍(はかなし ほたる)はフライド化の存在を目撃された第一号だ。その存在は娘であろうと見過ごす訳には行かない。」


話し手は、果敢無博士へと替わる。眼鏡の奥のその眼は、決意を持った眼をしていた。

少女の目撃した時からもうすでに1年が過ぎている。ここに至るまであまりにも時間を浪費しすぎてしまった。今、どこにいるか……。未だに俺たちは、少女の行方を掴めていない。


「今回の検証はフライドの発見・追跡を目的とした重要な実験になる。木江君、木乃美屋君はそのフライドの視認、及び擬似フライド化能力を用いてこの検証に協力してほしい。ただ、親御さんの許可を得ているとはいえ、未成熟・未成年の学生だ。健康状態の維持を考慮して今後ともあくまで被験者の立場として参加してくれ。スタッフの方々も、その旨を理解して被験者をサポートしてほしい」


「もちろんですとも~」

場を和ますようにうららさんが返答し、木乃美屋以外は頷き合った。


……さっきから気付いていたが、木乃美屋の頭からプスプスと煙のような幻視が見えていた。

これは実験の後遺症というやつか?


「あかん!全然頭がついていかん!」

木乃美屋の関西弁が会議室に響き渡った。

そういえば、こいつバカだった。

木乃美屋はテーブルに倒れこんで突っ伏してしまう始末。

その間、俺はムニュっとテーブルに挟まれた物体に目が泳ぐのを必死に抵抗中。


「……話が進まん」

橘さんはため息を吐いて頭を抱えた。


「姉御すんません……。なんかちょっと引っ掛かって、それから頭に入らんくて……」

突っ伏したまま木乃美屋がぼやくようにそう呟いた。つか、橘さんを姉御ってよく言えるな……。


「何が気になる?」

姉御のイラつきが表情でもわかるほどに変わり、木乃美屋の疑問を急かした。


「博士……娘さんに会いたないんですか?」


一瞬、空気が凍る感じがした。だが、意に返さず木乃美屋の言葉は続く。


「あんまし難しいことはわからんけど、博士が娘さんのこと言った感じがなんか突き放したみたいで、会いたないんかな~?って……でも、あの機械作ったのもそうやし、眼に隈作ってまで頑張ってんのも娘さんのためじゃないんか思って……」


……俺も気になっていた。

失踪してから1年も経って、一番焦っているのは俺ではなく果敢無博士のはずだ。

だけど、博士が心配するのはいつも俺たちの方で、健康面を理由に実験が長引いていることも本当は……。


すると、バン!とテーブルを叩いて果敢無博士が立ち上がり、その音で驚いた俺たちは博士の次の行動に注目した。


「……皆、すまない。木乃美屋君の言う通りだ。君達にまで心配かけていたなんて、僕はやはりダメな大人だね。学生がいる。子供たちがいるからって強がっていたよ……。お願いです皆さん!どうか娘を見つけてください!本当は会いたい。会って家に帰ってきてほしい。それだけなんだ本当は。木乃美屋君。木江君。猿渡君。三浦君。そして、橘君。どうか、僕に力を貸してほしい」


そう言って博士は深々とお辞儀をした。


「いいで博士!うちが参加する理由なんかそれだけでええから!蛍さん?の(けつ)叩いて何としてでも(うち)に帰らすわ!」


屈託のない笑顔で豪語した木乃美屋を、俺はほんの少しだけ羨ましく思えた。


「いや、できれば蛍とは感動の再会にしたいから、娘の尻を叩くのはない方向でお願いするよ」


博士は苦笑いながらも、いつもより良い意味で力が抜けた感じがした。

……つか、俺もなんかいわないと!


「は、博士!俺も一緒です!」


「……君は蛍の裸を見た挙句、尻をも叩こうとするとは……。どういう了見だね?」


いやそこじゃねええよ!急に結婚申し出の時の父親みたいな表情するなよ!


「ハァ……会議もあったものじゃないな。もういい。検証を始めるぞ」


終始、こめかみ抑えたまま目を瞑っていた橘さんはそう言って立ち上がった。


「猿渡。検証前の木乃美屋と木江のバイタルチェックを始めろ。準備出来次第「Oobead」の使用を許可する。皆、準備しろ」


「了解です。木乃美屋さんは三浦さんと。木江君は僕が健康チャックするから付いてきて」

いつも通り、優しい口調で猿渡さんは接してくれた。

今回だけは木乃美屋のおかげだ。どことなく皆の顔がいつもより晴れやかに……あれ?


うららさんの微笑みがどこか悲しい表情に見えた。


「静音ちゃん良かったよ~。」


「ん?なにが?ウラウラ」


「会議が早く終わらせてくれたこと~」


「三浦……」


ヒッ!橘さんの眼が血走っている!


「冗談で~す」


橘さんの脅しに屈せず、うららさんは飄々と受け流してみせた。

……どうやら俺の見間違いのようだ。



懸念していたことも無くなり、少し遅れて俺は猿渡さんの後を追った。

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