まぼろし
TheBirthdayの歌詞を若干パクってます。御了承下さい
三月十二日
氷のアスファルトに朱色の花が狂い咲く
舞い散る花びらに囲まれて夜の空に消えた
星になった君へ
虫の知らせって奴かな
どうしても眠れなかったんだ
名前も知らない甘い酒を口にしながら
ブルースロックに耳を傾けていると携帯に一通のメールが
時刻は午前4時
信じられないまま黒い列の最後尾へ
死に花で飾られた大切な人の名前が目に入る
不快な漆黒で埋め尽くされた式場
俺も相変わらずの黒
頭は真っ白
いつかの約束は彼方に消えてしまったのか
目に映る限り白い服はなかった
これは現実なのか
声が心を薙ぎ払った
深い深い重低音
エッジの効いた高音
入り乱れて
心臓の彼方を響き揺らすような
慟哭
のっぽな男が泣く
泣く
泣く
泣く
瞳はまるでウサギ
顔は泣き腫れて
声は途切れ途切れ
それでも枯れる事のない
涙
目の前には一つの箱
木でできた箱
暗い棺桶
覗き込むと
彼女はいなかった
彼女ではなかった
もはや彼女ではなかった
鼻は潰れ
歯がとびだして
まるで面影がない
目を背けたくなる
取り囲む美しい花々がムカつく皮肉に思えた
どこかに置いてきて忘れちまったのか
声も
表情も
温もりも
身体の動かし方も
命も
魂も
心も
たった一つ遺った肉体も
壊れちまってるじゃねーかよ
馬鹿だな
こんな事なら
覚めなきゃ良かった
悪夢のままで良かった
空っぽの彼女を見て
さらに酷い現実に引き戻された
心が痛い
悲しみじゃない
形容できないわけわかんねぇ何かが俺を切る
ノコギリみたいなギザギザな刃
消えない傷
痛ぇよ
だけど涙は出ない
祈る
周りに倣って
手を合わせて
意味は解らないけど
何に祈るの?
何を祈るの?
冥福?なにそれ
彼女はまだ二十四
結婚が決まっていて
それから俺の大切な大切な友達で
いつも真面目で
周りに気を使ってばかりいて
意外に気が強くて
ゆるいパーマをあてた黒髪の彼女
やっぱり神様なんていないよな
いたとしても彼女を殺した神様に祈りなんて捧げるわけがないだろ
彼女はもういない
だから
何に祈るの?
何を祈るの?
虚に手を合わせる俺
涙は出ない
誰かが話しはじめた
声に震えはない
強い瞳
決して潤まない揺るがない
俺は
涙が溢れてくる
涙が止まらない
なんだこれ?
くそ
心が痛ぇんだよ
誰かの声も震えた
言葉が止まる
一筋だけ涙が零れた
誰かもつられるように涙を流す
のっぽな男は泣き崩れた
夢を見た
夜空から一片の星屑が降ってきて
桜並木を美しく彩って弾けて消える
いつものみんなで花見をしながら
笑い合う
俺はいつも通り酔っ払っていて
彼女もそこにいた
苦笑いして俺から酒を取り上げる
俺が駄々をこねると代わりにファンタを渡しておどけてみせる
夢は唐突に覚めて
涙が零れそうだ
夢はまぼろしで
掻き消えると悲しみだけ遺った
だけど
だけどそれでもいいんだ
まぼろしだってそれは現実だろ
確かに俺は見たんだから
まぼろしだってそれは本当だろ
確かに君はいたんだから
まぼろしでもいいんだそれで
君がまぼろしでも
悲しくてもかまわないから
まぼろしでもかまわないから
かまわないから
いつでも君のままでいてよ
三月十二日
氷のアスファルトに朱い花が狂い咲く
舞い散る花に囲まれて夜の空に消えた
星になった君へ