第五話:ファフニール始動!
‐翔達が訓練という名の地獄を見ていた頃、月の辺りにカール・トリプトンの艦隊がドライブアウトしてきた。
「全艦、ドライブアウト完了。提督、どう致しますか?」
「このビック・ロード以外の全艦隊は、ここに待機。以後暫くは完全に休息とする。」
《イェーイ、提督、太っ腹!》
「…我々は?休息は?買い物は?」
カールの副官が悔しそうに聞いて来た。
「地球に行って偵察だ。」
「そんな、そろそろ化粧のストックが…。」
ビック・ロードが転移した。
‐その頃、地球
「ぜーはーぜーはー。」
「情けないぞ、おまえ等。」
「た、隊長。あ、朝からっ、80kmもっ、走らされればっ、誰でもっ、こ、こうなるでしょう。フルマラソン二回分ですよ。」
「…元気そうだな、真壁。もう一度行くか?」
「…ごめんなさい、それだけは勘弁してください隊長。」
「フッ、午前はこれまで、午後からは機体を使って訓練だ。」
「り、了解〜!」
‐地球の衛星軌道にビック・ロードが転移した。
「転位完了。提督、指示を。」
「あー、俺の機体を用意しておいてくれ。」
「はぁ?」
「いや、降りて挨拶してくる。」
「ふぅ…もう好きにしてください。」
「おいおい、いきなり愛の告白かい?」
カールは笑顔で言った。しかし、
ゴシャ!
腰の入ったいいパンチが、カールの顔面を捉えた。
「セクハラですよ。提督。」
「ごめんなさい。そんな笑顔で殴らないでください。私が悪かったです。」
副官に土下座するカール。すると格納庫から連絡がきた。
「提督!バズロス・ストライカーの準備が整いました。って、何してんですか?」
「…提督、許してあげますから、早く行きなさい。」
「ありがとう、ユンファ、恩に着るよ。」
「…怪我に気をつけてね。」
「分かった、行ってくるよ。」
ちゅっ
「へっ?」
ユンファが不意にカールにキスをした。
「お守りです。」
少し照れながらユンファがカールの背を押した。
‐格納庫では、バズロス・ストライカーが既に起動状態で待機していた。
「ごちそうさまでした、提督。さぁ、行ってください。…キスはありませんよ。」
「誰も男にそんなの求めとらんわ。」
「カタパルト接続、システムオールグリーン。バズロス・ストライカー発進どうぞ!」
「了解!カール・トリプトン、バズロス・ストライカー出る!」
「目標は一カ所に集まっているようです。」
「了解した。」
バズロス・ストライカーが大気圏に突入した。
‐地上では、刀撃神によって沈黙した連中の山ができていた。
「…残ったのは、光姉弟だけか。」
「どうしたの、隊長?」
「ちょっとやり過ぎたな。二人とも、敵が来た。迎撃するぞ。」
「ええー。」
ひゅー…ドゴーン!
何かが地表に激突した。
「………」
「あいたたた。」
「…なんか出て来たよ、優香。」
「…こいつが敵なの?優太。」
「いや、僕に聞かれても。」
クレーターからバズロス・ストライカーが這い出して来た。
「し…死ぬかと思った。おっと、はじめまして地球の皆さん。自分はザザーン軍、高速戦闘艦隊提督のカール・トリプトンです。」
「はじめまして。私は、未確認機体運用実験部隊隊長の轟政隆中佐だ。」
「ここってそんな部隊名だったんだね、優香。」
「ダサいわ、ダサ過ぎるわ、はぁ…最低。」
「そこっ!少しは黙ってろ!それとも特別メニューが欲しいか?」
「………」
「よし。…部下が失礼した。Mr.カール、あなたがここに来た理由は?」
「それは、アヤガン軍のOTZマシーンへの仕上げ具合を…」
「提督!」
「うわっ!どうしたのユンファ。」
「試練のことは秘密でしょ?」
「そうだった…。いけね。」
「仕上がり?何のことだ。」
「まあ戦えばわかるって。」
「…優香、優太、手を出すな。一対一で勝負する。」
「はっ、はい。」
「いい度胸だ、さあ、殺し合おうぜ。」
バズロス・ストライカーが刀撃神に急接近した。
「抜刀術一の型、飛燕斬!」
「おっと。」
ガキィン。
バズロス・ストライカーが肩の巨大な両刃剣で防いだ。
「む、やるな。」
「伊達で提督やってないさ。」
「なら、第二の太刀、鎌鼬!」
キィイン!
「うお!強烈ぅ。そろそろこっちも、食らえ!」
「なんのっ!」
激しい打ち合いが続いた。そして、戦局が動いた。
「甘いね。そろそろ終わりだ!」
だが、不意にバズロス・ストライカーの左足が折れた。
「なっ!しまった。」
「甘いのはそっちだな。第三の太刀、雷光斬!」
刀撃神の斬城刀がバズロス・ストライカーの左脇を斜めに切り上げた。
「まだだ、まだ頭部と左手を持って行かれただけだ。」
「ならとどめを刺してやろう。さらばだ、カール・トリプトン!」
「くっ。」
「緊急退避システム起動!」
「へ?」
カールの間抜けな声を残して、バズロス・ストライカーはその場から消えた。斬城刀は空を虚しく切った。
「…ふぅ、取り逃がしたか。」
「後一歩のとこでしたね。」
「ああ、そうだな。じゃあ、二人ともそろそろやるか。」
「え?」
「まさか…、これから続きですか?冗談ですよね?」
「私が冗談を言う人に見えるか?」
「残念ながら見えませんね。」
「そういうことだ。諦めてかかってこい。」
「優香、どうせならあれ、試してみようよ。」
「いいわね、それ。じゃあ行くわよ。荒れ狂う水流よ!」
「そこだ!ギガファイヤー。」
フェアリスが放った水流をボスタヌフの炎が蒸発させていく。
「む!視界を塞ぐ気か、小癪な。」
「違いますよ。こうするんです、ライトニングボルト!」
「なにっ。」
その瞬間その辺り一帯を電気が走り抜け、大爆発を起こした。
「…魔力防壁を張っても危なかったね。辺りに電流を流した後、魔力干渉で爆発を起こす。理論としては悪くなかったと思うんだけど。」
「うん、ちょっと制御に難ありかな。」
その時、爆心地から何かが姿を表した。
「おまえ等私を殺す気か。」
刀撃神だった。至る所が焦げていたり、煙をあげている。
「えっと、半分ぐらい。」
優香が冗談混じりに言った。
「後で追加メニューだ。」
「嘘っ!冗談ですよね。」
「私が冗談をいうたちに見えるか?」
「優太〜。」
「自業自得だよ、優香。」
「誰か助けて〜。」
「誰かって、誰もいないじゃん。ん?…誰もいない?」
刀撃神が築き上げた死体の山が無くなっていた。
「もしかして、さっきの爆発に…。」
『ああ、そのまさかだ!』
ちょっと焦げた機体達がフェアリスとボスタヌフを囲んでいた。
「俺達まで巻き込んでくれるとはいい度胸だ。」
「あの、これは不幸な事故でして他意があったわけでは…。」
『問答無用!思い知れ!』
多数の機体がフェアリスとボスタヌフを襲った。
『うわぁ!』
壮絶なリンチは十分間にも及んだ…。
‐ビック・ロード内では緊急退避してきたバズロス・ストライカーの中からカールが出てきた。
「すんません、おやっさん。これ直りますか?」
「はっきり言って無理だな。あの高さから落ちて、しかもこれだけ大きく切り取られてたらフレームからしてもう使い物にならんだろう。」
「どうしようもないですか?」
「ないな!強いて挙げれば生きているパーツを量産型に移植するぐらいだな。もちろん性能面ではかなり落ちるが…。」
「提督!」
一般兵が急いでやってきた。
「なにごとだ?」
「アヤガン軍からの連絡です。や、奴らが。デバステーターが接近しているそうです。」
「くそ!本隊の仮設ゲートの準備は?」
「そちらは間もなく終わります。あと、アヤガン軍はこれを最終試験にするようです。」
「なら、我々は本体と合流するぞ。場合に寄っては、デバステーターとやり合うことになる。おやっさん、すんませんがさっきの話よろしくお願いします。」
「さっきの?ああ、改造の件な、わかった、完璧に仕上げておこう。この腕によりをかけてな。何なら、フルチューンでもしておこう。」
「よろしくお願いします。」
ビック・ロードが再び転移した。
‐後日、優香の提案で、部隊名を決めることになった。
「はい!」
「何だ、翔。ゴーバトラーと愉快な仲間は却下だぞ。」
「…何でもありません。」
「隊長。」
「何だ大地、撃銃夫でも却下だぞ。」
「流石にそれは恥ずかしいです。…ファフニール何てどうでしょうか。」
「たしか宝を守るために竜に姿を変えた巨人だったかな。ニーベルングの指輪に出て来た。」
「はい、宝は地球。それを護るために、龍の如く戦うという意味を込めて。」
「それでいいんじゃない。」
みんな納得していた。たた一人を除いて。
「…愉快な仲間。」
「まだ言ってるのか!」
大地は翔に飛び蹴りをした。
次回予告。
翔です。今回、出番がなかったのでこんなことしてます。
さて次回は、遂に本当の敵が現れる。その時俺は…。
次回、天翔の逢翼。第六話、試練と帰還者。
今度こそ大活躍するつもりなんで、よろしく!
今回も読んでいただきありがとうございます。何とか今月中に仕上がりました。ですが、昔のストックがなくなったので、これからは書き下ろしになりますので、少し文体が変わるかもしれませんがあまり気にしないで下さい。
ちなみに、ニーベルングの指輪では、ファフニールは殺されてしまいますが、これも気にしないで下さい。