番外編第一話:占いとお嬢様 (後編)
はい後編です。前編を読んでいただいた方が話がわかりますよ~。
―俺は真壁翔。普通の高校一年生だ。なぜか今、黒塗りのベンツに乗って北条家に向かっている。うん、まあこういうこともたまにはあるよな、たまには……。
「あるか!!」
「一体どうしました、突然叫ばれて?」
「そりゃいきなり連れ出されてこんな車にずっと乗せられてたら叫びたくもなるって。ところで、北条家ってどこにあるの?あとどれくらいかかるの?」
「岡山なので空港まであと20分、そこから特別機で1時間といったところでしょう。」
「俺は今日中に家に帰れるのか?」
「要件しだいでは無理でしょう。」
「明日からの授業は?」
「問題ありません。明日は必要なら相互通信でリアルタイムで受けれる用意をしております。」
「うわ、よく松ちゃん許したな。」
「担任の方なら、面白そうだと言って、二つ返事で許可されましたよ。さらに上のほうにも圧力をかけましたし。」
「松ちゃん……。」
―飛行場には北条家専用の超音速旅客機が既に待機していた。黒服は一時間と言っていたが、実際のところは三十分足らずで着いた。
「……ここは日本ですか?」
空の上から北条家全体を見渡そうしたが、あまりの広さで視界に入りきらなかった。
―「いやー、上から見てもでかかったけど、下りるとさらに際立つな。……なあ執事さん、これからあの正面の豪邸に向かうのか?」
「翔様、あれはお嬢様のペットのポチと白の家ですよ。」
「でか!じゃああっちか?」
「あちらは、たまとミケの家にございます。」
「……もう言葉もでない。」
「ではこちらの御車に。」
―車で飛ばすこと数分。そこには先程の家など比較にならないほどの豪邸が建っていた。
「お嬢様は既にお待ちしております。さあこちらへ」
ようやく俺をここまで連れて来た人と御対面か。
「お待ちしておりましたわ。」
「あ、あなたは。」
そこに居たのは昨日俺が助けた女の子だった。
「ご機嫌よう、翔様。改めて自己紹介します。私は、北条時羽。先日は、誠にありがとうございました。」
「何であなた見たいな方が、俺を呼んだのですか?」
「ふふっ、単刀直入に申し上げます。私と交際してください。」
「……はい?」
「貴方に助けられたあの時から、私の胸はずっとドキドキし続けているのです。」
……返事に困った俺は、少し考えさせてくれと言って客室を借りた。
―「俺の勇気ある行動に惚れた、ねぇ。……小説じゃあるまいし。」
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」
出てみるとそこには俺をここまで乗せて来た黒服が待機していた。
「一体どうしたんだ。」
「翔様に一つお話が。」
「あんた、名前は。」
「俺は、速水小九郎といいます。」
「小九郎さんどうぞ入ってください。」
「失礼します。」
小九郎の話は時羽についてのことだった。
「ふーん、初代の遺言でねぇ。で、あなたはお嬢様の幼なじみとして仕えてきたと。でもって大切なお嬢様のためにもぜひ俺にお嬢様と付き合ってほしいと。」
「はい。そうなんです。そうだ、そろそろ遅いですし、お風呂に入られてはいかがですか?この家のお風呂は凄いですよ!」
「風呂?」
「はい。この家にはお風呂は一つしかありません。その分かなりの大きさなんです。」
「マジ!こんなに広いのに?」
「裸の付き合いこそ、真の絆が生まれる!というのが初代の考え方でしたので、親方様も使用人も皆同じお風呂に浸かっているんです。」
「男も女も一緒なのか?」
「いえ、それはまずいので一応時間は別れています。が今はもう決められた時間は過ぎたので、どなたでも入れます。」
「小九郎さんはもう入ったの?」
「いいえ、私はまだですが。」
「じゃあ、一緒に入らないか?まだ聞きたいこともあるし。」
「そちらがご迷惑でなければ、是非。」
「よっし、決まり!そうと決まれば行こうぜ。」
―「えーっ!小九郎さんって俺と同い年なの?」
「はい。ですから、小九郎と呼んでくれた方がしっくり来ます。」
「じゃあ俺は翔でいいしタメ口でもいい。そういえば小九郎は高校は?行ってないの?」
「個人的に学んでいますが、高校へは通ってません。」
「凄いなぁ。」
「執事として当然です。」
カラカラ
「なあ、小九郎。」
「今って確か男女どっちも入って来れるんだよな…?」
「はい……。」
「逃げる?」
「そうしますか。」
がらがらっと。俺たちの願い虚しく、中に人が入って来た。そこに居たのは、ナイスミドルなおっさんだった。
「やあ、君か!時羽が選んだ漢とは!」
「社!社長!?」
「なにぃ!」
「おっと、自己紹介が遅れたね。私は、北条勇一郎。時羽の父親だ。」
「はっ、はじめまして、お、俺は真壁翔と言います。」
「まあまあそんなに畏まらなくてもいい。」
「はあ。」
「なぁ、少年。風呂は良いと思わないか?これもまた、日本人が生んだ文化の極みだ。風呂の中では誰もが裸。権力や地位といった衣もなに一つ無い。」
「そ、そうですね。」
「ところで、“カポーン”と言う擬音を始めて言った人って素晴らしいと思うのだが、少年はどうかな?」
「へ?あっ、えーっと……、なあ、小九郎、おまえはどう思う?」
「……。」
「小九郎?」
「反応が無いようだが。」
「うわ、逆上せて気絶してる。すいません。勇一郎さん。彼を介抱しないといけないので、失礼します。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
ズルズル、がらがら。
「ふむ、いい青年だ。それに、もう小九郎君と仲良くなっている。彼なら、任せられるかな。だが、何か引っかかるんだよなぁ……。」
-「うっ、うーん。社、社長。……はっ!」
「おーい。目、覚めたか。」
「翔様。私は一体?」
「だから翔でいいって、あんた勇一郎さんが入って来たときに緊張かなんかして逆上せちゃったんだよ。」
「面目ない。」
「まあ、気にするなって。」
「ありがとう、……翔。」
「よし。そろそろ寝ようぜ、まだふらふらだろ。」
まぁ、俺は眠れなかったが。
―次の日、
「すいませんがあのお話はお断りします。」
「そんな……。」
しゅんとする時羽に罪悪感を感じつつ俺は続けた。
「俺達は互いのことをほとんど知らない、そんな状況で付き合うことなんて出来ないだろ?」
「う……。はい、わかりました。それが貴方の答えなら。」
「小九郎君、彼を送ってやってくれ。」
「はい。」
パタン。
「あの、お父様。お願いが……。」
「ふむ、予想通り過ぎるな。ああ、書類は今取り寄せているよ。」
「えっ?分かってたんですか?」
「彼とは昨日会っていたからね。これでも人を見る目はあるつもりだ。それにお前のことだ、一度であきらめきれるとは思ってない。"やるからには全力"それが北条だろう?」
「ありがとうございます。お父様!」
「ただし、彼のいる共学部ではなく、女子学部の方に入ってもらう。」
「そんな!何故ですか?」
「ただの親心だ。」
「あの高校の総校長は私の古い知人でね。便宜ははかってるから安心してくれ。」
「わかりました。では荷造りするので、失礼します。」
「ふふ。あんなに喜んで。……速水!ちょっと来てくれ。」
「御呼びしましたか?御主人様。」
「おまえのところの末っ子の小九郎君をあの子の連れとして、男子学部に入れたいのだが。」
「あの子を高校に?それは願ってもいない幸運です。嗚呼、あの子には悪いことをしたと思います。幼い頃からお嬢様の使いとして育てようとしたばかりに、人との関わりが全くありませんでした……このご恩は必ず!」
「うれしいのは分かったから、少し落ち着け。」
「はっ!!……はい、申し訳ありません。では、我々も。」
「ああ。」
おっさん二人はニヤニヤしていた。
―「ありがとう、小九郎。」
「礼には及ばないよ。」
「また、会えるよな?」
「勿論さ!」
俺達は再開を誓い、固く握手をした。
―また、次の日
「よう!おまえ昨日はすごかったな。」
いつものようにカイトが話しかけて来た。
「なぁ、知ってるか?昨日の晩の内に山に大豪邸が建ったらしいぞ。」
「へー。」
「しかもだ。女子学部の方に転校生、しかも美人らしい。」
「……そ、そうなんだ。」
なんだ、この嫌な予感は……?
「何だ、調子でも悪いのか?」
「いや……何でも無い。」
「おはよー、ねぇ、翔。」
「嫌だ。」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「いつものことだろ?悪い。ちょっと、疲れてるから、パス。」
「それって昨日のあれ?」
「ああ、ちょっと訳ありで岡山まで。」
「ふーん。」
―放課後
「終わった!さあ帰ろう。じゃあな。」
「あー!こら、まちなさーい!」
翔がチャイムと同時に教室を飛び出す。
「絶対待たん!……おっすごい人込み、だが、俺の安息のためにも。退け退け、邪魔だぁーっ!」
次々と人ごみを掻き分けて進む。しかし、
「ようやく見つけましたわ、翔様!」
黒服に首根っこを掴まれた。
「い、痛いって。」
「翔!また会えたな。」
「えっ、小九郎?」
いや確かに再開を誓ったけど……早過ぎだろ。
「ああ、今日、お嬢様とここに転校してきた。よろしくな。」
そこで珠香も追いつく。
「…ねえ、翔、その女の子は誰?私、ちょっと気になるなぁ。」
拳をグーにしながら、ゆっくりと近づいてくる。
「待て、話を聞くのに、拳は要らないだろ!」
「私は翔様に会いに来たのです。お互いを知らないから付き合えないのなら、貴方に私のことをもっと知ってもらえば宜しいのでしょう?」
「何なのよ!あんたは。今、私が話してるの。邪魔しないで!」
「私は翔様に用があるのです。引っ込んでいなさい。」
互いに睨み合ってるうちに、小九郎を引っ張って俺は訪ねた。
「一体何があった?」
「何があったもなんも、さっきお嬢様が言った通りだよ。」
「翔、あなた、昨日この子に会いに行ってたそうね。」
「会いに行ったというか連れられたというか。」
「問答無用よ!この裏切り者!馬鹿!節操無し!」
フックからボディーブロー、膝蹴り、踵落しのコンボが綺麗に入り、一瞬で俺のHPは0になった。
薄れ行く意識の中で、俺は思った。
「成る程、予言は確かに当たったな。バッドスポットは学校か。それに多分、占いのほうも当たったんだね。少しは信じておけばよかっ……た。」
-その日は、時羽達に家に送ってもらったらしい。勿論、小九郎が背負っていたとか。
「いてて、ここは?」
「君の家だよ、翔。」
「お前がここまで?」
「ポケットからに鍵を拝借してな。だがここに居るのは俺だけでは無い。」
どかーん!
「うひゃー!」
「時羽様!」
「なにぃー!」
今爆発したぞ!?
「ゴホッ!ゴホッ!大丈夫です。あら、翔様!お目覚めですか?もうすぐ、お食事が出来ますので、もう少しお待ちください。」
「……小九郎〜。」
「済まない、一応止めたのだが。」
「小九郎!味見してみなさい!」
「従者の宿命だ……。じゃあ逝ってくる。それとこれを。」
「……胃薬か。」
「気休め程度だがな……。」
小九郎が部屋から出る。それからまもなく…
「……ごふっ!!」
断末魔の叫びがした。
「まあ。あまりの美味しさに、気絶したのかしら?」
違う!絶対違うよ!時羽さん。
「さあ、召し上がってくださいな。」
目の前に出された物体はお粥だった。あれ?以外と普通の見た目、小九郎はどうして倒れたんだ?
「いただきます。」
ぱくっ、がりっ!
「?」
がりっ!がりっ!
お米のまま?それに甘い。そのうえこの口に残る感じは…磨いでない?
「あの、おいしくなかったですか?」
祖父さんが言っていた……男には意地を貫かなければならない時がある……と、多分、今がその時なのだろう。
「い、いや、そんなことないよ。」
まぁ、取りあえず逝けそうです。
「よかった、私が料理するとなぜかみんな気絶するんです。お父様なんて泡を吹いて白目になりましたし。」
「あの人も……。がく。」
「やっぱり、色々無理したのかしら?……えい。」
ぱくり
「むぐむぐ、……うっ!」
ばたり。
病名、食中毒。騒ぎが気になって見に来た珠香の連絡で運ばれた三人は、病院で一夜を過ごした。
しかし、翔の受難はまだまだ続く。
……また、別のお話だが。
またもや読んでいただきありがとうございます。いろいろと盛り込み過ぎて長くなってしまいました、。次はもっとコンパクトにまとめたいと思います。