番外編第四話:クリスマスパーティー!
今回の更新は番外編です。
では、どうぞ~。
―珠香達がファフニールに入隊した最初の夜。ささやかに歓迎パーティーが行われ…。
「乾杯!」
「…。」
「乾・杯!」
「……。」
「か・ん・ぱ・い!」
「………。」
「皆ノリが悪いなぁ〜。」
どこかで見たノリだな〜。と思いながら、珠香は辺りを見回した。
「まぁ…普通はこうなるよね。」
乾杯の音頭をとっているのは勇一郎つまりスポンサーであり、総指令である。
「簡単な歓迎会じゃなかったっけ?」
行きなりの出来事に辺りもざわついているが、無理も無い。大ホールを貸し切り、見たことも無いような豪華な料理が並んでいるのだ。
―しかし、数分後…。
「何でこんな事に…?」
辺りは死々累々だった。
勇一郎が持ち込んだ料理に時羽の手作りが混ざっていたのだろう、屈強なはずのパイロット達も大半が力尽きていた。
「そういえば、あの時も…。」
不意に痛みだしたお腹を押さえながら珠香の意識は闇に落ちた。
―「……。た…。…か!」
「んっ…。」
「珠香!」
「わわっ!?」
翔の怒鳴り声で珠香は目を覚ました。
「…あれ…翔?何でここにいるの?」
「はぁ?ここは俺の家だぞ?いるに決まってるだろ。」
「えっ…だって…翔はあの時に…。」
「俺が…どうした?」
珠香が恐る恐る両手を伸ばし、頬をつねった。
「痛いっ!止めてくれっ!?」
確かに翔の感触がする。
「翔!」
珠香が翔に抱き着く。
「なっ…おい!珠香っ!?」
「あれは…夢だったんだよね?」
「はぁ!?」
もう、何が何だか分からないと言った感じである。
「…何でもないよ。」
「しかしお前、いつの間に寝てたんだ?」
「ん〜…さぁ?」
「このざまをクラスの連中に見せてやりたいぜ…特にカイトとかな。」
翔はクラスでも特に珠香を崇めている悪友を思い浮かべた。
「別にいいも〜ん。」
「はぁ…さっさと涎拭いて、飾り付け終わらせないと凜達が来るぞ。」
「わっ!?わわっ!…何で?」
慌てて口元を拭いながら疑問を口にする。
「まだ寝てるのか…。」
翔は溜息をつきながらカレンダーを指差した。
「今日はクリスマスパーティーだろ?」
「えぇっ!?」
日付は確かに12月24日になっている。
「本当だ…。」
「まったく…。」
翔がさっきのお返しとばかりに珠香の頬をつねった。
「ふにゃっ!?」
珠香はもがいて振りほどく。
「何をするかー!!」
翔のボディに強烈なブローを叩き込む。
「ドリムッ!?」
綺麗なアーチを描いて飛翔した翔は、勢いを殺せないまま廊下を滑走し、玄関に激突した。
がちゃっ
タイミングよくドアが開かれ、気が強そうな少女と執事服に身を包んだ少年が入ってくる。
「こんにちは、翔様。」
「よう、翔。いる…な。」
目の前で俯せになって倒れている翔を見ながら、珠香は二人に声をかけた。
「あら、遅い到着ね。」
珠香の敵対的な一言に少女…時羽が言い返す。
「私と翔様のためにご苦労様でした。」
負けじと思いっ切り天空目線である。
「ふふっ。あなた何かに任せたらあれみたいに大災害を起こすだけだもんね〜。」
軽くあしらい鼻で笑う。
「なっ、なんですって!!」
流石にこう言ったことでは珠香に利が有るらしい。
「まぁまぁお二人ともそこまでにしておいた方が…。」
執事服の少年がたしなめる。
「んっ…。」
「おっ、翔。目が覚めたか?」
「小九郎…お前か…。」
「ああ。」
執事服の少年…小九郎が、膝枕をしたまま笑った。
「どうせなら女の子の方がよかった…。」
「はぁ?」
「何でもない。」
「さぁ、手早く仕上げよう。時間も迫っているしな。」
「ああ。そうだな。…例のものは?」
「その辺りは抜かり無い、後で回収に向かう。」
「わかった。」
「「?」」
珠香と時羽は顔を見合わせて頭を捻った。
―そして夜…。
「お兄ちゃん、ただいま〜!」
「翔ちゃん、もう準備終わっちゃった?」
元気よく凜と由紀子が帰ってきた。
「二人ともお帰り。バッチリ…かな?」
「あっ、由紀子さん。お邪魔してます。」
「こんばんは、由紀子様。今日はお招きいただき本当にありがとうございます。」
広間からテープやクラッカーをもった珠香と時羽が出てきて挨拶した。
「ふふっ、珠香ちゃんいらっしゃい。時羽ちゃんもそんなに堅苦しい挨拶は抜きにして楽しんでいってね。」
「義姉さん、料理もそろそろ届くし急がないと。」
「はいはい、了解よ。」
皆がバタバタと準備続ける。
―「なぁ、珠香。」
「何?」
「本当に良かったのか?」
「お母さんのこと?」
隆盛と竜也はフランスに居るという天音の元に遊びに…呼び出しを受けて行っている。
「ああ…。」
「いいの…。」
「俺が言うのも何だけどさ…。」
「いいの!私が…選んだんだから!」
ちなみに天音が選ぶ権利を与えたのは珠香だけである。
「そ、そうか…。」
「うん。」
「翔!料理が届いたぞ。」
玄関で小九郎が人手を求めている。
「じゃあ、行ってくる。」
「分かった、こっちは任せてね。」
「ああ。」
翔が急いで玄関に向かう。
―「さて…皆グラスは持ったかな〜?」
「オッケーだよ、お義姉ちゃん。」
「では、コホンッ…メリークリスマス!」
『メリークリスマス!』
皆がグラスをカチンッと合わせる。
「こういったささやかなパーティーも悪くありませんね。」
「そうか?」
「ええ、翔様が隣に居る…。私はそれだけでも幸せです。」
「ぶっ…!お、おい…。」
「あの…翔様…。このあと二人っきりで…。」
「駄目ですよ〜。お兄ちゃん、今日は私と一緒に居るんだから。」
「翔ちゃん争奪戦?なら、私も立候補しようかしら。」
次々と立候補者が現れる。勿論珠香も…。
「わ、私も立候補!」
クリスマスパーティーは最早戦場に変わりつつあった。
「…すごい空気だな。小九郎、どうする?」
「うむ、あれを使うときだろうな。」
にやりと二人が笑う。
『???』
小九郎が別の部屋から謎の料理を運んできた。
「ロシアン卵焼き〜。」
青い猫型ロボットのような口調で小九郎は形の崩れた卵焼きを出した。
「この中にお嬢様が失敗した卵焼きが一つ入ってます。」
一気に皆の顔が青ざめる。
「ちなみに、当たった人と居ることにするな〜。」
『えぇー!?』
「…。」
珠香が意を決して卵焼きを取る。
「私は…やるよ…!」
他の皆が何かを言う前に一口で食べる。
「…。」
『ゴクリ…。』
皆が絶句する。
「……。」
「た、珠香…?」
「………。」
笑顔のまま微動だにしない。
「き…気絶してるよ…!」
凜が物凄い勢いで焦る。
「悪運強いとはこの事ですわね。」
「何か違う気がするぞ。」
「それよりも、翔ちゃん…。」
「な、何?義姉さん。」
「責任持って、珠香ちゃんを看病しなさいね。」
「はーい…。」
「分かったら早く行きなさい。」
渋々と珠香をおぶって翔は退席した。
―「ん…んっ…?」
「やっと起きたか…。」
「あれ?ここは…?」
「俺の部屋。全く、無茶しやがって。」
「むっ…翔にだけは言われたくない。」
「うわっ、酷いな。」
「ふふっ。」
「ははは。」
「もう、皆のところに戻ってもいいんだよ?」
「ばーか、お前を一人にするわけには行かないだろ。煽ったのは俺なんだぞ。」
「…そっか…。」
「ちなみにな、時計見てみろ。」
「ん?」
時刻は既に次の日を示していた。
「もう、皆寝たり帰ったりしてる。」
「えっ!本当?」
「嘘を言ってどうする…。」
「ずっとここに居たの?」
「ん…まぁ、そう言っちまったし。」
「あ、ありがと…。」
「気分は大丈夫か?」
「うん、平気だよ。」
「うっし、ならこれを食べようぜ。」
翔が中くらいの箱を取り出した。
「なにそれ?」
「ケーキだよケーキ。」
「食べなかったの?」
「おいおい?一人で食べたいか?」
「…一人は寂しいよね…。」
珠香が少ししょんぼりする。
「そうだろうな。」
箱を開けるとそこにはホールケーキが丸々一つ入っていた。
「…これを二人で食べ切れと…。」
「よ…余裕だよね?」
今思えば、これがあの時の戦いの序章だったのかもしれない。
「あ、ああ。」
特製なのか市販よりも二回りは大きいケーキを半分ずつに分ける。
『いただきます。』
味はよかったが、やはりお腹はいっぱいになった。
「ううっ…。」
「満腹だね。」
「そ、そうだな…。…忘れるところだった。」
そう言って翔は、机の上に有った袋を投げて渡した。
「何これ?」
「クリスマスプレゼント以外になにがある?」
「ですよね〜。…開けていいかな?」
「勿論。」
中に入っていた箱を取り出す。
「…。」
箱を開けた途端、バネ仕掛けの人形が飛び出してきた。
「わっ!?」
「ははは、みんな引っかかったな。」
「こら〜!騙したな〜!」
「いや、プレゼントも入ってるって。」
中蓋ごと人形を退けると小さな箱が入っていた。
「こっちには仕掛けとか無いよね?」
「無い無い。」
翔が苦笑する。
中に入っていたのは、小さなペンダントだった。
「これ…。」
「前、買い物に付き合わされたとき、欲しそうにしてただろ?」
「…うん…。」
ペンダントを抱きしめるように抱える。
「ありがとう。」
「どう致しまして。」
「また、皆でこんなクリスマスを過ごせるといいね。」
「そうだな。」
「皆でこうやってはしゃいで騒いで…あれ?」
気が付くと涙が流れていた。
「あっ…。」
意識が急に闇の中に落ちた。
―おまけ
「凜。」
「何?お兄ちゃん。」
「これ。」
「これ…クリスマスプレゼント?」
「ああ。」
「大きいね〜……うわぁっ!?」
やはり箱からバネ仕掛けの人形が飛び出す。
「引っ掛かったな。」
「お兄ちゃん、酷いよ…。」
「わ、悪かったゴメン!」
拗ねる凜に焦る翔。
「本当はこっちだって。」
今度は丁寧に包装された袋を渡す。
「あっ…これ。」
中にはピンクの長いリボンが入っていた。
「この前言ってたよな?練習の時髪が引っ掛かって大変だって。あまり目立つ奴は駄目そうだったからな。」
「うんっ!ありがとう!」
「わわっ!?急に抱き着いて来るなって。」
「いいじゃん〜。」
まぁ、しばらくこのままでいいかな?と思った翔であった。
―北条家
「お嬢様。」
「何かしら?」
「翔から預かり物があります。」
「えっ…。」
中くらいの箱の中に入っていたのは鮮やかな花柄のエプロンだった。
「翔様…ありがとうございます。」
早速エプロンに袖を通してみる。
「どうかしら?」
「よくお似合いですよ。」
「ふふっ、ありがとう。…あら?この封筒はあなた宛てのようよ。」
時羽が小九郎に封筒を渡した。
「あっ、すいません。」
取り敢えず、中を確認してみる。
「これは…。」
「どうしたの?」
「いえ…ただの本みたいですね。」
「そう。」
内容は翔自信が作ったレシピ集だった。
「翔、感謝するぞ。」
小九郎は小さく呟いた。
同梱のカードにはこう記されていた。
“俺の命をお前に預ける”
「ぷっ…。」
「どうしたのかしら?突然笑って。」
「いえ、お嬢様。頑張りましょうね。」
「勿論、いつか絶対に美味しいと言わせて見せますわ。」
―「…で、翔ちゃん。私には?」
「あっ…いや…その…。」
「無いの…?」
「…はい…。」
「ぷー。」
「ごめんって…義姉さん。」
「埋め合わせを要求します。」
「げっ…。」
…こうして、特上マッサージコースをやる羽目になったとさ。
―「ん…。」
目が覚めると、パーティー会場だった。
「あの時の記憶…かぁ…。」
珠香は胸元のペンダントを見た。
「やっぱり…夢だったんだ…。」
周りを見回しても倒れた人間しか見れない。
「どうするんだろ…これ…。」
途方に暮れる珠香であった。
終わり
こんばんは、おはようございます、こんにちは。
今回もお読み頂き感謝です♪
…いきなりぶっちゃけ話入っちゃいますけど、この話…実はクリスマスに上げるつもりでした、何故無理だったかは…お察しください。
さて、前回の後書きに聞いてみた事の件ですが…取り敢えず今回は極力1話に纏める方針になりました。見にくいようでしたら、またお知らせください。
その時はまた考えたいと思います。
最後に次回の更新予定ですが、期末と試合が結構な頻度で襲ってくるので、2月末から3月中旬…下旬あたりになると思います。
では、次回も天翔の逢翼をよろしくお願いします。
(O^O)ノシ