第十一話:食ッキング・リターンズ
お待たせしました。第十一話です。
―新学期の二日前、深夜。とある場所で起きた大爆発、近くに居た者がそこに着いた時。
「ふっ、ふふふ、ふふふ。…けほっ!」
彼女は爆心地に立っていた。
「一体…何が?」
足元には散弾銃の弾痕らしきもの、薄黒く焦げた壁には無数の切り傷に、夥しい量の血痕や肉片、さらには骨が突き立っている。
「………。」
そして、入口には。
「小九郎!」
口から煙を吐きながら気絶をした小九郎がいた。
ここは北条家の調理場。時羽の料理史上、最大規模の破壊だった。
―「キッチンは壊滅か…。」
被害額の報告書を読んで勇一郎は溜め息をついた。
「回数を増すごとに進化しているようだな。…違った意味で。」
勇一郎は娘に付き合わされ何時も死にかけている小九郎を可哀相な目で見た。
「それで、今回はどういう状況だったのかな?」
「今回のメニューはご飯と野菜炒めになる予定でした。」
「ほう。」
「まずはお米を洗うところから始めたのですが、水が冷たかったので、泡立て機を使うことにしました。」
「出力が強すぎたのか?」
「いえ、電動ではありません。手動を使ったのですが、お米がすごい勢いで飛び散り、至る所…主に床にえぐるように飛び込んでいきました。」
「…。」
「それでも何とか残ったものを炊飯器にかける事には成功し、野菜炒めを作ることにしました。」
「ふむ。」
「まず、失敗だったのが、経験を積むために肉をスライスさせようとしたことでした。時羽様は、骨付きのブロック肉を骨ごと叩き斬りました。」
「…得物は日本刀か?」
「とんでもありません。包丁です。その勢いで、肉は壁に叩きつけられ、飛散。回収した肉も包丁でめった刺しに…。」
「そんな馬鹿な…。あの子は料理をしているはずだろ?」
「野菜は諦めてスライサーを使ったのですが、何故かスライスされた野菜は手裏剣の様に至る所に刺さっていきました。」
「………。」
「そしてある程度回収して、ようやく火にかけようとした時に…。」
「コンロが爆発したわけか…。」
「違います。最初に爆発したのは…、炊飯器です。」
「………………。」
勇一郎は天を仰いだ。
「やはり、あの子は凶子の娘なんだな。」
「はぁ…。」
「料理をしている時は別人が乗り移っているのではないかと言わんばかりの人の変わりようだった。」
「奥方様もあのような感じだったんですか?」
「ああ、あれの初期に近かった。最後の頃はご飯は緑、肉料理は青、味噌汁は赤にサラダは白。」
「あ…鮮やかですね。」
「キッチンは使用後に必ず殺菌、包丁は一回につき十本は欠ける。…ああ、そういえば一度だけまな板とその下の調理台まで両断したこともあったな。」
「最近のお嬢様みたいですね。」
「凶子の時もそうだったが、あの子は料理するのに魔力を使ってるのか…?」
「はい。多分、無意識の内なのだと思います。」
「………。君は大丈夫なのかね?」
「はい、鍛えてますから!それに爆発の瞬間に障壁を張りましたので。」
「そうか、君の一族も魔力を使えるのだったな。」
「はい!」
「御苦労、下がっていいぞ。ゆっくり身体を休めてくれ。二日後には、また護衛の任務も始まる事だしな。」
「お気遣い痛み入ります。それでは、失礼します。」
小九郎が、退室した。
「ふう、…磐梯!いるか。」
「ここに。」
「後は任せる。」
「はい。」
そう言って書類を渡し、勇一郎は部屋に戻った。
「…あの方は終末戦争に備えるおつもりなのでしょうか?」
渡された書類には、核シェルターの如く強固に造られたキッチンの設計図だった。
―翌日
「今日こそは!」
「頑張りましょう!」
一晩の内に核シェルターを完成させ、今度こそ成功させようと意気込む時羽だった。
「明日の為にお弁当を作りたいですわ。」
「………いきなりハードル上がりましたね。」
「何か言いましたか?」
「さて!前回の失敗を反省し、今回はこれ!無洗米。」
「何ですの、これ?」
「これなら洗わなくて済むので昨日のような四散は無いはず!」
「そんな便利な物があるなら最初からお出しなさい!」
「お米は洗うのが基本ですから…。でも…。」
「うっ!」
「過ぎたことは水に流して、次に行きましょう。」
「はい…。」
「肉は既存の物を使います。」
「え…ええ。」
「火が通ったら、いったんフライパンから退けて次は野菜。」
「はっ、はいっ!」
野菜を炒め始めた瞬間、
「っ!!」
フライパンが爆発した。
「げほっ!お嬢様大丈夫ですか?」
「はい、何とか。」
それでも続ける二人。今度は卵焼きを作り始めた。
「後は塩、胡椒です。かけすぎないように。」
「わかりました。…あっ!」
塩と胡椒の蓋がほぼ同時に外れ、中に降り注いだ。
「あらら!作り直しで…。」
小九郎は全て言い切る事が出来なかった。再度フライパンは大爆発を起こし、二人を外に追いやった。
―爆発からしばらくして小九郎は目を覚ました。
「…痛た、お嬢様…、大丈夫です…か?」
「はい、…ごめんなさい。」
「一体どうしたんです?」
時羽が指を指した先には、
「………なんです?あれ?」
「卵焼きです、多分。」
黄色い色をした巨大生物が暴れていた、しかも至る所がどろどろしている。
「………そうだ!出撃しないと。」
放心から覚めた小九郎は格納庫ヘ急いだ。
「わ、私も行きます。」
時羽も後に続いた。
―「ダイブン、発進します。」
外は悲惨な状況だった。
「うわぁ〜…。」
巨大怪獣は、黄色い液体とも固体とも言えないものを放ち、ダイブンを行動不能にしていた。
「このぉ!」
小九郎はトリガーを押した。頭部から九十ミリ弾が大量に吐き出された。
「ぎゃおー!」
バルカンの弾は、怪獣の身体にめり込み、止まった。
「何!」
怪獣は小九郎に向かって黄色い物体を放って来た。
「くっ!」
かろうじて回避する。
「これならどうだ!」
小九郎は、日本刀を構え、切り掛かった。
「っ!!」
怪獣の腕は切り落とされ、地面に落ちた途端に身体に張り付き再生された。
「くそ!何か手はないのか?指令、増援は?翔は?ファフニールの方々は。」
勇一郎が答えた。
「彼等に頼むことは出来ない、我社の問題を彼等に頼むのは間違っている。」
「しかしこのままではっ!じり貧っ!です。」
苦し紛れにミサイルを放った。
「ええい!爆ぜろ!」
かけらが飛散した。しかし、それらは沈黙し、動かなかった。
「そうか!素が卵なら高熱を与えれば、固まる。」
生き残ったダイブンがミサイルを連射した。
「うおおぉ!」
だが、ミサイルが破壊できる面積は僅かだった。
「くっ。ゴーバトラーがいてくれれば。強力なビームが有れば。」
半ば諦めかけていた小九郎達に声が響いた。
「我々がいる!」
「このこえは…。まさか社長!」
「小九郎!私もいるぞ。って、前。」
「何です?父さん。っ!」
小九郎のダイブンに黄色い物体が直撃した。
「うぐっ!」
「はぁ…馬鹿息子が。」
かろうじてコクピットから這い出した小九郎が見たものは、闇夜に映える純白の機体だった。
「あれは?」
純白の機体は、胸部を展開し、ビームを放った。
ビームは怪獣の胴体を貫いた。しかし怪獣は貫かれ固まった部分を廃除し、サイズを縮めて再生した。
「くっ!磐梯。次が限界だ外すなよ。」
「了解しました。御主人様。」
純白の機体が、再びビーム発射体勢に移行した。
「ぐっ!」
しかし、勇一郎の苦しそうな声と共に、力を失い落下した。
「社長!」
墜落地点には、力尽きた勇一郎を、抱えた磐梯がいた。
「父さん、社長は?」
「魔力の使いすぎで気を失っているだけだ、心配するな。」
「魔力!?」
「この機体は膨大な魔力を必要とするのだ。我々は歳をとりすぎた、魔力切れだ。」
「なら、俺が行きます!」
「一人で!?死ぬ気か?いかにお前の魔力が強くても、一人でこれを動かそうとするのは自殺行為だ。」
「ですが、この状況では…。」
二人は気が付かなかった。機体に忍び込んだ人影に。
「父さん!それでも、俺は命に替えてもお嬢様をお護りしなくてはならないのです!」
そう言って小九郎はコクピットに飛び込んだ。
「システム再起動っと。」
起動画面に機体の名が現れた。
「アルト…リッター?」
怪獣は再起動したアルトリッターに攻撃を開始した。
「くっ!」
咄嗟に上にジャンプした小九郎は信じられないものを見た。
「雲!?」
下に怪獣がぽつんと見える。
「ただジャンプしただけでこれとは…。」
下では磐梯が目を見張っていた。
―「何であんな所まで、我々二人掛かりでもあそこまでは行けはしない。」
「磐梯様!」
「どうした?」
「時羽お嬢様がいません!」
「何だと!まさか…。」
―その頃、上
「行くぞ!」
「ええ、やってお終いなさい。」
「!?!?お嬢様!どうしてこんな所に!?」
「あなたが乗る前に忍び込んでサブシートにいましたよ。」
「危険です!格納庫ヘ行きますから、そこで降りて待っていてください。」
「あれを生んだのは、私です。だから、責任があります。」
「ですが…。」
「この機体を動かすには魔力が必要なのでしょ?それに、あれが居る限り何処でも危険です。なら、あなたの側が一番安全です。」
「時羽様…。わかりました。お力をお借りします。」
月を背にアルトリッターが、ビーム発射体勢に移行した、その時、変化が現れた。
「どういう事だ!?」
純白の機体は黒く染まり、月に大きな影を作っていた。
「うおぉぉっ!」
放ったビームは純白だった時より遥かに太く、強力だった。
怪獣は断末魔の悲鳴をあげる間もなく消失した。
「やったのか?」
「………。」
時羽は、サブシ−トからミサイルで弾け飛んだ残骸を見つめていた。
―その後、格納庫に戻った小九郎は磐梯に思い切り怒られた。そして、その間の時羽の行方を知る者は誰もいなかった。
―さらに、翌日、アルトリッターは調査の為に研究部に運ばれて行った。
「あの機体は昔から在るが、こんな機能があったとは伝えられていなかったな。」
「もう大丈夫なのですか?」
「ああ、問題ない。心配かけたな、磐梯。」
「いえ、あなた様がご無事ならそれで良いのです。」
―深夜、お弁当作りも終盤に差し掛かった。
「奇跡だ…。」
小九郎の目の前には見た目だけは普通なお弁当があった。
「疲れましたわ。もう寝ましょう。」
「お疲れ様です。」
二人はお弁当を冷蔵庫にいれ、調理室を後にした。
―翌日の昼
「はい、翔様。」
入学式準備前の昼休みに、翔を昼食に誘った(拉致した)時羽は翔にお弁当を渡した。
「………で、どうしてあなた方まで?」
屋上には皆が勢揃いしていた。
「ミルファーナ王女の事を紹介しようかなって思ったんだ。」
「ミルファーナ・ヴァン・フォンブライトです。以後、よろしくお願いします。あの、失礼ですが、真壁さんとのご関係は?」
「あら、ご丁寧にどうも。私は北条時羽。これは、執事の速水小九郎。」
「よろしくお願いいたします。」
「翔様はいずれ私と結婚する方です。」
「けっ…けっ、結婚!?」
「あっ!時羽!王女様に適当な事を教えるな!」
「五月蝿いわねこのゴリラ女!」
「真壁さん!本当なの?」
「いや、そういう事実は無いんだけど…。」
「よかった…。」
「?」
「いえ、何でもありません。こちらの事です。」
「取り敢えず弁当を食べてみろ、翔。今回は大丈夫だと思う。」
「ああ、じゃあ、この卵焼きから…。」
「卵焼き…?入れたっけ?」
ぱくっ。
「うっ!何か、胃の中で暴れ…いや、動いてる…。…がくっ!」
…翔は天に召された。
「真壁さん!」
「あんな物、昨日の時点では無かった。まさか、卵焼きの執念?それとも、時羽様の?」
謎は、小九郎の中にだけしまわれた。
―翔は間もなく目を覚まし、その後、何事も無かったかのように振る舞った。
続く。
―次回予告
ミルファーナです。
長い一日が終わり、ようやく翔君の家に…。ワクワク、ドキドキの新生活が始まります。
次回、天翔の逢翼。
姫様襲来!?
あれ?…何かが…おかしい?
今回もお読み頂き有難うございました。
センターも無事?に終わり、ようやく活動再開です。
次回は、二月の中旬に上げるのを目標に頑張ります。
では、次回もよろしくお願いします。