第十話:遥かなる新学期 開幕、その2
後編です。とりあえず前編を見てない人はそちらもどうぞ。
―新学期の二日前、アーカス・ナカラン内
「艦長!地球からエマージェンシーコールです。場所は、外務省。ミルファーナ王女がご滞在される予定の場所です。」
「まずいな…、よし!バスクード・カスタム発進準備。降下部隊もスタンバイだ!」
「了解しました!」
―格納庫では、バスクード・カスタムが起動状態で待機していた。ロームは乗り込み最終確認をした。
「システムオールグリーン、ビームカノン接続確認、大気圏突入用エクスアイパック問題無し。」
「確認しました。発進どうぞ。…敵は新型です。お気をつけて。」
「分かった。バスクード・カスタム、発進する。」
―大気圏に突入し、雲を突き抜けた先に外務省があった。
「目標確認。」
アクティブステルス付きパックのおかげでまだ気づかれてないらしい。バスクード・カスタムがビームカノンを構えた。そして引き金を引こうとした瞬間。
「!!」
ストラーグが消えた。
「消えただと。」
ストラーグは次の瞬間にゴーバトラーの後方に現れ、クローによる一撃を与えていた。
「あの当たり方はまずいな。」
「これまでなのか…。」
翔の諦めたような声が聞こえた。
「諦めるにはまだ早いぞ。」
再度、ロックオン。そのままビームカノンを連射する。
「遅れてすまない。」
―時は過ぎて戦闘後。
「これはまた酷いな。」
破壊された迎賓館。その残骸を見てロームは呟いた。
「…直る?」
「ご冗談を。」
「…やっぱり?」
トホホと肩を落とすローム。
「どこか他に良い場所はないのか?」
「ないですね。安全性を保証できません。」
「はあ、どこかにある程度広くて安全な物件はないのか。」
「藤宮外務相ならなにかいい案があるかも知れません。」
―奇跡的に被害を免れた外務省の建物にできた臨時執務室に由紀子は居た。
「困ったわね〜。」
「このままでは我が国の面子に関わりますよ。」
「そうなのよね、私の立場も危ないけど、王女様が可哀相だし。」
「この際北条グループに協力してもらうのは?」
「それは止めたほうが良い。これ以上あそこに頼っていてはいざというときに足元をすくわれます。」
「………。」
「藤宮さん?」
「そうよ!場所ならあるじゃない。とびっきりいい物件が!」
―新学期の一日前
「ただいま〜。翔ちゃん居る?」
返事は無い。
「居ないみたいだけど…まあいいか。」
由紀子は壁に貼ってある部屋割を見た。
「これが翔ちゃんの友達の部屋ね。」
「失礼します。」
限界にロームと三人のメイドが入って来た。
「いらっしゃい。早速だけど、王女様の部屋の準備をお願いします。」
「わかりました、由紀子様。」
「エレン、イーファ。お前達は他の部屋の掃除だ。」
「そこまでしなくても…。」
「いえ、王女様がおられる場所ならいつも綺麗にしておかなければなりません。それが仕事ですから。」
「分かったわ、お願いね。」
「畏まりました。」
―由紀子が、自分の部屋になる一階の管理人室の片付けをしている時、何かが慌てて出ていく音が聞こえた。
「あらっ?誰だろう?」
一人しかいない。翔だ。
「…あの娘達に驚いたのかしら?」
「由紀子様。」
テスラがやって来た。
「先ほど、真壁翔様と思われる男性が、いらっしゃいましたが。」
「わかったわ、ちょっと行ってくるね。」
―黄龍の前に行くと、案の定騒ぎ声が聞こえた。
「やっぱりここしか無いわよね。」
中に入ると、恐怖で顔が引きつった翔と、なぜか中華鍋と、中華包丁で武装した珠香がいた。
「翔ちゃん発見!…あら、珠香ちゃん。おひさ〜。」
「義姉さん!」
翔は、九死に一生を得たと言わんばかりの顔をしていた。
―その頃、アーカス・ナカランに一機のシャトルが到着した。
「ふう。」
中からミルファーナが出て来た。
「お疲れ様です。すいませんが、予定が変更になりました。」
「何かしら?」
「本日はこちらでお休みいただき、明日、直接学校に向かっていただきます。」
「何か事件でも?」
「デバステーターの攻撃で、姫様がご滞在する予定だった建物が破壊されてしまいました。今、代わりの場所を用意しているので、今少しお待ちくださいとの事です。」
「どのような所になるのでしょうか?」
「資料によりますと、アパートという、集合住宅の一室だそうです。持ち主は、藤宮由紀子外務相となっております。」
「わかったわ、ありがとう。」
「ではお部屋に案内します。」
―部屋に着いたミルファーナは前のように興奮はしていなかった。
「はぁーあ。」
前回は、地球に行く=あの彼に会えるという考えだったが、結局会えなかった。
「今どんな姿なのかもわからないけど。この一年で出会えるかな?真壁…翔君に」
ミルファーナは窓から地球を見ながら呟いた。
―新学期当日。
「もう、朝か…。」
翔はいつもより早く起きた。
「朝飯作らないと…。」
翔は一階の炊事場に行った。
「あっ!翔様。おはようございます。」
炊事場にはテスラが居た。
「おはようございます。起きるの早いですね。」
「私もついさっき起きたばかりです。」
「手伝いましょうか?」
「いえ、これぐらいなら私一人で十分です。」
「でもしてもらうだけだと、俺も調子が狂うんで。」
「わかりました、ではそちらの煮物をお願いします。」
「了解です。」
―一時間後、凜や、由紀子達が起きて来た。
「おはよう、お兄ちゃん。」
「翔ちゃん早起きね〜。えらいえらい。」
「おはよう。凜、義姉さん。」
「おはようございます〜。」
「おっす、みんなおはよう。」
「エレン、イーファ。遅いですよ。もっとメイドとしての自覚を持ちなさい。」
そんなこんなで朝食。なのだが、準備をしている時に凜が突然聞いた。
「ねぇ、テスラさん達は一緒に食べないの?」
「はい。基本的には、皆様が終わった後で私たちは食事します。」
「皆で食べた方が美味しいよね?お義姉ちゃん。」
「そうよね。これからは皆で一緒に食べるようにしましょうよ。」
「しかし、姫様と一緒に食事するのは…。」
「だったら今だけでも一緒に食べましょ。これからの事は皆で決めればいいわけだし。」
「…わかりました。」
そういって、テスラは食事の用意をし始めた。
「よっしゃ飯だ、飯だ!」
「エレンさん。あまりはしたないと、テスラ様に怒られますよ。」
「まあ、説教は後にして今は食べましょう。」
「そういえば、ロームさんは?」
「姫様の所にお迎えにあがりました。」
「ふーん。」
皆で食卓を囲む。
『いただきます。』
「テスラさん、この煮物凄く美味しいです。」
「凜様、それは翔様が、お作りになられました。」
「えっ、そうなの!」
「翔ちゃん上手になったのね〜。」
「そうかな?毎日自炊してたらこれぐらいは何とかなるって。」
「しかし、この味加減は絶妙です。まさに天に昇るような味。」
「大袈裟だって、テスラさん。本当の天に昇るような味はこんなレベルじゃ無い。」
「ほぅ、後学の為にも一度食してみたいですね。」
「死にたくなかったらやめておいた方がいい。」
「???」
翔は時羽の料理を考えていたが、テスラには理解できなかった。
「でも本当においしいよ。お兄ちゃん。これならいいお嫁さんになれるね。」
「ありがとうな、凜。でも、俺は男だからお嫁さんはちょっと…。」
「翔ちゃん。オランダは同性婚を認めてるわよ。」
「義姉さん!そういう問題じゃない!」
『あはははは。』
―「さて、そろそろ行くか。」
「行ってらっしゃい。」
今日は始業式、入学式は明日なので、凜は家に残る。
「翔、早く〜。」
外では珠香がもう用意を済まして待機していた。
「今行く!」
「気をつけてね〜。」
慌ただしく翔が出て行った。
―教室に着くと大場カイトが待っていた。
「カイト!久しぶりだな。」
「お前は珠香さんと一緒で羨ましい限りだ。」
「こいつは幼なじみで、家が隣なだけだって。」
「まあその辺の言及は今度にしてだ。翔、驚かずに聞いてくれ。」
「何だ?」
「信じられないことに昨日街中でメイドを見た。」
「ぶっ!」
「この辺りにあるどのメイド喫茶とも違う制服を着ていた。」
「へ…へぇー。」
「さらにここ、重要だぞ。えらいべっぴんさんだった。」
「そ…そうか。」
「さらにもう一つ。今日、このクラスに大量に転入生が来るらしい。それがな…」
松平が入口で声を上げた。
「そろそろ式の時間だ。皆ならべ。」
「話は後だ、行こうぜ!」
「いや、後だったらもう意味が無い…。」
―男子学部、女子学部、共学部が集まっているとはいえ、一年生がいない体育館は広かった。
「次は校長先生の話です。」
「また長いのが来た。」
「皆さん!おはようございます!」
「校長って何かやたらと語尾を強めるよな。」
「…は…で…であるからして…。」
「確かにちょっと変わってるのかな?」
「ここで、皆さんに大切なお知らせがあります。」
「いよいよか…。」
「本校は、昨日国交を結んだアヤガン王国の王女ミルファーナ・ヴァン・フォンブライト様を年間留学生として受け入れることになりました。」
一瞬にして全体がざわつく。
「翔、あんまり驚いてないけど知ってたのか?」
「まあな。義姉さんの職と、今の俺の状況を考えろ。」
「確かに…。」
「王女様は残念ながら式には間に合いませんでしたが、皆さんくれぐれも失礼の無いように。」
―翔達が教室で待っていると、松平がやって来た。
「よーし、お前等。今日から新しい仲間が入るぞ。さあ、入ってこい。」
「…………。」
教室に入って来たのは、大地達だった。
「今日からこのクラスの仲間になる。」
「武松大地だ。」
「光優香です。」
「光優太です。」
「二人は双子だ。」
紹介が終わると、間髪入れずに三人が一斉に翔を見た。すごい笑顔で。
「げっ!」
「何、お前、彼等と知り合いなの?」
「ま…まあな。」
「だったら真ん中の子、紹介してくれ!」
「はあぁっ!?」
「珠香さんもいいけどあの子もまたいい!ロングの黒髪に、きりっとした目。綺麗なピンクの唇、これは新しいアイドルの誕生か!?」
「どうした心変わりか?ファンクラブ第一号。」
「それはそれ。これはこれ。」
「はぁ………。」
「次、新しい先生の紹介な。」
教室に入って来たのは。
「はーい。皆、元気?」
なんと、星野谷みゆきだった。
「あの人が先生!?」
「割のいい仕事ってこれだったんだ…。」
「星野谷先生はこのクラスの副担任を勤めてもらう。」
「うふふ、よろしくね。」
「そして主賓。じゃなくて最後の一人だ。皆さっきから話題にしてるはずだが、ミルファーナ王女様だ。」
中に入って来た人は、紛れも無くあの日翔が見た人だった。
「………。」
皆その美しさに息を飲んでいた。
「………。」
カイトも無言なので、代わりに説明。
髪は、艶やかなロングのアッシュブロンド。鋭くも優しさに満ちた瞳。珠香もびっくりのスタイルのよさ。絵に描いたようなお姫様がそこに居た。
「やっぱりあの人が王女様だったのか…。」
「見た事あるのか!」
「前に、一度だけな。」
「テレビも代理人だったのに。」
「まあ、いろいろあってな。」
松平が話し出した。
「大体は校長のじじ…校長先生の言った通りだ。下手な事をしたら国際問題じゃ済まないからな。」
「先生笑えないよ…。」
「皆様、はじめまして。私はミルファーナ・ヴァン・フォンブライトと申します。一年間よろしくお願いします。」
ミルファーナは笑顔で挨拶をした。
続く。
―次回予告
凜です。次回はここの所出てこれなかった人達が大暴れするらしいです。
次回、天翔の逢翼。食ッキング・リターンズ。
あわわ、これって………。
新章第一話後編でした。
こんな時間に上げていったい誰が見るのやら(笑)
さて次回ですが、正直な話センター試験が近づいてきているので、なかなか書けそうにありません。一月の終わりから、二月の頭に上げれればいいなと思っています。もしかしたらかなり遅れるかもしれませんが…こちらも人生が掛かっているので。すいません、ほんと勘弁してください。
ではまた次回!