第十話:遥かなる新学期 開幕、その1
お待たせしました新章第一話です。
―新学期の二日前
「すまない!翔!そっちに行ったぞ!」
「了解!アル、高周波ブレードだ。」
「高周波ブレード、スタンバイ。何時でもどうぞ。」
―少し前に遡る。ウォーグの部隊が外務省周辺を強襲していた。
「この前の用にはいかねぇ!今度こそ覚悟しろ。」
迎え撃つのは、ゴーバトラーと刀撃神のみ。小回りの利くゴーバトラーが雑魚を相手にし、刀撃神がウォーグの迎撃に向かった。
「隊長!こいつ等の相手は俺が!」
「分かった!任せるぞ。」
「よしっ!これでどうだ!」
ゴーバトラーがビームバズーカを出した。
「主、身体の方は?」
「何とか大丈夫だ。」
「分かりました。ターゲット・ロック!」
「OK!発射ぁ!」
八〜九ぐらいの敵をビームが包み込んだ。
「接近警報!後方三、上方二!」
「ショットガンW、ビームガン、スタンバイ!」
「了解。」
ゴーバトラーが動く。
「そこっ!」
散弾を浴びた上方の敵はバラバラに砕け散り、ビームガンの連射を喰らった敵は消し飛ばされた。
「ふんっ。バレントではこの程度か。まあいい、この前の体当たりの借りを返させてもらおう。このストラーグがあの試作機とは違うということを見せてやる!」
刀撃神を吹き飛ばしストラーグがゴーバトラーに接近した。
「ぐっ!」
刀撃神が外務省の建物を破壊しながら停止した。避難が完了していたため、怪我人はいなかったが、迎賓館や、職員のフリースペースが破壊された。
「すまない!翔!そっちに行ったぞ!」
―ストラーグがゴーバトラーに肉薄した。
「速い!?」
高周波ブレードを横凪ぎに振ったが、難無く避けられた。
「遅いな。」
ストラーグが腕についたクローを振るった。
「ぐっ!」
「ほぅ、やるな。だがこれならどうだ。」
今度は連撃で攻めてきた。
「回避は不可能です。防御し衝撃に備えてください。」
「駄目だ!シールド!!」
ゴーバトラーとストラーグの間にシールドが現れた。
「無駄だ。」
ウォーグはほくそ笑んだ。
「行っけぇ!」
ゴーバトラーがシールドを蹴り飛ばした。
「ふっ!」
ストラーグがシールドを×の字に切り裂く。
「この程度か。…何ぃ!」
切り裂いたシールドの向こうにはビームバズーカを構えたゴーバトラーが居た。
「この距離なら外さない!」
ビームバズーカが光を放った。
「ふんっ!劣等種相手にこれを使うことになるとは。」
ストラーグが突如消えた。
「なっ?」
「敵機体反応ロスト。レーダー範囲内に居ません。」
「そんな馬鹿な!」
不意にゴーバトラーの背後に衝撃が走った。
「っ!何が起こった!」
「高機動ユニット大破、パージします。」
後方にストラーグが立っていた。
「何であいつが後ろに!?」
「ダメージ六十七%、フレームもダメージを負ってます。次はもう持ちません!」
「くそっ!動け。動くんだゴーバトラー!」
「エネルギーバイパスに異常発生!出力低下!」
「ここまでなのか…。」
目の前にクローが迫った。
「諦めるにはまだ早いぞ。」
空から降り注いだビームがストラーグを何度も撃ち抜いた。
「遅れてすまない。」
バスクード・カスタムがビームカノンを持って降り立った。
「ローム…さん。」
「もう大丈夫だ。」
外部スピーカーを使い、ロームは呼びかけた。
「デバステーターの未確認機に告げる。こちらにはまだ大部隊か残っている。速やかに武装解除し投降せよ。」
ウォーグは劣等種と話す事など無いと言わんばかりに腕を振りかぶり、そして停止した。
「コンバットシステムがフリーズだと!このポンコツがぁ!…仕方ない今日はここまでだ。」
ストラーグが転移した。
「何だったんだあいつは…。」
「翔、立てるか?」
「隊長、すいません無理みたいです。」
「分かった回収班を向かわせよう。」
「ロームさん。助かりました。」
「何、どうって事は無い。しかし困ったものだな…。」
「???」
何の事か翔にはよく理解できなかった。
―新学期の前日、翔は一人駅前に来ていた。目的地はあの占いの館である。(忘れた人は番外編第一話を参照)
ギイィッ
「いらっしゃい。」
「こんにちは、お姉さん。」
「君はあの時の子ね。お久しぶり。私の事覚えていてくれたのね。今日は悩み事?占い?」
「えっと、占いです。」
「じゃあ、こちらに。」
前と同じ様に水晶を挟んで向かい合った。
「何について聞きたいの?」
「今後暫くの運勢を教えてください、俺に平穏が訪れるのかを是非。」
「ふふふ。苦労してるのね。」
「ええ、それはもう。」
お姉さんが水晶に手を翳した。
「………女難の相が出てるわね。前も似たような結果だったけど、今回はもっと酷いわね。」
「………どうしようもないでしょうか?」
「残念ながらね。」
「ううっ………。」
思わず翔は何もない部屋で空を仰いだ。
「何もないけど引越するんですか?」
「はずれ。今日で店じまいなの。」
「…流行らなかったんですか?」
「はっきりと言ってくれるわね…。」
お姉さんは翔の頬っぺたをつねった。
「実はね、割のいい仕事を見つけたのよ。そうしたらあまりここは使わなくなるでしょ。」
「ふぇー。ふぁんふぁってふふぁふぁい。(へぇー。頑張ってください。)」
「ありがとう。」
お姉さんは頬っぺたを離した。
「いてて。そういえば、お姉さんの名前って何ですか。」
「私?そういえば、自己紹介してなかったわね。私は星野谷みゆき。いい名前だと思わない?真壁翔君。」
「俺、名乗りましたっけ?」
「私は占い師よ。これぐらいは朝飯前。」
「そんなもんなんですか?」
「ええ、そんなもん。元気でね。真壁君。」
「お姉さんもね。また何処かで会えるといいですね。」
「それはそう遠くはないかもしれないわよ。」
「えっ?」
「何でもないわ。」
みゆきは意味深な笑みを浮かべた。
占いの結果に関わらず、家に帰る翔の足取りは軽かった。
「〜♪」
今日は凜の引っ越しの日である。荷物はまだ先だが、凜は家に向かっているはずである。
「たっだいまぁ〜。」
玄関にはメイドが居た。しかも三人である。
「………すいません。間違えました。」
外に出て改めて建物を見る。ピカピカになっているが、見た目は確かに蒼穹荘である。
「なんじゃこりゃ〜。」
翔は思わず隣の中華料理店(定食屋)黄龍に駆け込んでいた。
「すいません、まだ準備中なのでまたあとで…ってどうしたの翔?」
厨房から出て来たのは珠香だった。
「う、家が、知らない、メイドで…!!」
「???何言ってるのかさっぱり分からないよ。」
「だ、だから。知らないメイドが家で何かしてるんだよ!」
「………ふーん。翔って、メイドさん雇ってたんだ。」
珠香が中華鍋と包丁を持って近づいた。
「ちっがぁう!知らない人なんだって。」
その時、がちゃっという音と共に誰かが店内に入って来た。
「翔ちゃん発見!…あら、珠香ちゃん。おひさ〜。」
「義姉さん!」
「由紀子さん!お久しぶりです。いつ帰ってきたんですか?」
「さっきよ。翔ちゃんが帰ってくる一時間ほど前。」
由紀子は笑顔で言った。
ばたぁーん!
慌ただしく誰かが入って来た。
「お久しぶりです、珠香お姉ちゃん!あの!お兄ちゃんを…いた!」
さっき家に着いたのだろう、旅行バッグを持った凜が慌ててやって来た。
「お兄ちゃん!あのメイドさんは一体何!」
「っ!…そうよ、翔!メイドってどういう事!?」
「俺も知らないんだってば!」
「言い訳無用!冥土に送ってあげるから覚悟しなさい!」
「ぎゃぁー!」
「はい、ストーップ!」
由紀子がパンッパンッと手拍子して二人を止めた。
「あれ?何でお義姉ちゃんがいるの?」
「仕事の合間に遊びに来たんじゃないの?」
「ハズレ。あのメイドさんを連れて来たのは私なの。」
「義姉さんなの!」
「こほん!では、この場を借りて重大発表をします!」
全員がごくりと息を飲む
「蒼穹荘に新たな住人が来ます!なんと!アヤガン王国のミルファーナ・ヴァン・フォンブライト王女様です!」
『…………………』
『ええぇぇぇーーーーーっ!!』
「翔ちゃんは知ってると思うけど、この前の一件で、迎賓館が失くなったから。でも、いまさら中止ってわけにもいかないし、責任者としてどうにかしなきゃと思ったら、ここが有るじゃないって思ったのよ。」
「そうなんだ。」
「凜ちゃんは納得したみたいね。翔ちゃんは?」
「義姉さんがそう言うなら仕方ないでしょ。」
「ふふっ、二人ともありがと。」
―蒼穹荘に戻った翔と凜にメイド達が挨拶した。
「はじめまして、翔様。凜様。私はチーフメイドのテスラと申します。」
長めの銀髪が鮮やかなテスラはいかにも真面目でなんでも出来そうなメイドというイメージだ。
「あたしはエレンってんだ。よろしくな。」
燃えるような赤毛のエレンはテスラと反対で活発で型に囚われないタイプの人間そうだった。
「エレン!これからお世話になる方に向かってなんて口を。」
テスラが諌める。が、エレンは。
「お世話になるつーか。お世話をするんじゃね?」
「屁理屈です!」
最後の一人が口を開いた。
「テスラ様。お二方が戸惑っております。」
「はっ!…こほん。………失礼いたしました。イーファ、貴女も自己紹介を。」
「はい、テスラ様。私はイーファと申します。皆様にいろいろとご迷惑をかけてしまうかもしれませんがよろしくお願いします。」
大きな丸眼鏡をかけたイーファは少しおどおどしながら挨拶をした。
「えーっと。君は確か帰ってきた時にすぐそこに居たよね?」
「はい、あの時はあまりに突然だったので説明もままなりませんでした。すいません。」
「いや気にしなくてもいいよ。俺も気が動転してたし。」
「あ、ありがとうございます。」
「翔、私もいるぞ。」
「………またあなたですかロームさん。もう殆どストーカーですね。」
「命の恩人にそれはないんじゃないのか…?それともまだあの時の事を根に持ってるとか?」
「かなり。」
「おいおい…。」
翔はくすっと笑っていった。
「冗談です。ようこそ、蒼穹荘に。」
「さて、紹介も終わったところでテスラ、イーファ、仕事に戻ろうぜ。」
「そうですね、では、翔様、凜様、お部屋の掃除は終わっておりますのでそちらへどうぞ。」
「ヘっ!?俺の部屋も?」
「はい。完璧にしております。」
「へー、ありがとう。」
「メイドとして当然です。ローム!もうすぐ姫様の荷物が届きます。待機しておいてください。」
「了解した。」
―翔が部屋でゆっくりしていると、不意にこんこん、と窓が叩かれた。
「はいはい。」
カーテンを開くと、外を隔てて珠香が居た。
「やっほー。どうなった?」
「何とか形になったって所かな?」
「ふーん、メイドさんは美人?」
「かなり。がさつな誰かさんとは大違い。」
「何ですって!」
珠香がデコピンした。
後ろでノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
「失礼します。」
イーファがやって来た。
「あの…えっと…お邪魔でしたか?」
「いや、そんなことは無いけど。」
イーファは安心したらしくほぅっと息を吐いた。
(この娘、可愛いわね…。)
珠香はさっきからずっと続いている焦燥感がどうしても拭えない。
「翔様、夕食の用意が出来ました。」
「分かりました。すぐに行きます。」
「はい。承知しました。」
そう言ってイーファは退室した。
「と言うことで、飯に行ってくる。」
「………。」
翔は食堂に向かった。
「あの娘じゃない。だったら、…問題は無い…のかな?」
しかし何かが引っかかる。
「でも、だれが来ても負けないから…!」
―食後、翔は取り敢えず三人に連絡した。
―大地の場合
「ふーん。」
「それだけ?」
「面白くなってきたな!明日が楽しみだ。」
「そうか…。」
―優香の場合
「本当!?」
「その反応を待っていた!」
「?…何の事?」
「こっちの話。」
「変なの。また明日ね。」
「ああ、また明日。」
―優太の場合
「本当ですか!」
「姉弟揃って同じ反応だな。」
「?何の事ですか?」
「こっちの話。」
「ところで、メイドさん美人でしたか?」
「けっこう美人だったな。」
「うわぁ、明日が楽しみだ!」
「………………」
明日が心配でたまらない翔だった。
その2に続く
タイトルと内容から分かるようにまだ続きます。
急いで上げるので少しの間お待ちしていただけるとありがたいです。