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天翔の逢翼  作者: Nacht
16/42

第九話:約束

―「うぐっ!?」


その瞬間、私は何が起きたか理解できなかった。いや、したくなかった。


「そんな、嘘よ…」


翔のロボットの胴体に巨大な剣が突き刺さっている。


「駄目っ、脱出して…。」


願いは虚しく翔は機体と共に爆発した。


「嫌ぁーっ!」


叫び声と共に珠香は跳び起きた。


「はあ、はあ、…あれは、夢?」


ばたぁん!と扉が開いて、誰かが部屋には行ってきた。


「どうした!マイシスター!変質者でもいたのかい?」


「あっ、兄さ…。」


珠香は凍り付いた。


「?」


何が起きたかわからないと言いたげな顔をしている珠香の兄、隆盛の顔面に、


「年頃の妹の部屋にそんな姿で入ってくるなぁー!この変質者!」


着替えの途中だったのだろう、下着一枚でやって来た隆盛の顔面に、珠香の鉄拳がクリーンヒットした。


「初登場なのにぃ〜。」


壁に張り付き隆盛は沈黙した。


「もう。…翔…。」



―その日の放課後の帰り道


「あー、平和だなぁ。」


入試の日以来敵襲も無く、期末テストも終わり、後は春休みに一直線。


「ここ最近の事が夢みたいだ。」


翔が、空を見上げてそう言った。


「夢…。そうね、夢のままならいいけど。」


「ん?」


何の事やらさっぱりと言いたげな翔を尻目に、珠香は今朝の夢の事をずっと考えていた。


「ねぇ、翔?」


「何?」


「これから何処かに出かけない?」


「何処に?」


「えっと…その…そう!最近巷で有名なケーキ屋があるんだけど、一人で行くのもおもしろくないし。」


「いいぜ。」


「本当!?


「でも、奢らないぞ。今月はあまり無駄遣い出来ないし。」


「由紀子さんに怒られたの?」


「別に義姉さんに怒られたわけじゃないけど。」


「じゃあ何で?」


「もう忘れたのか?先月は風呂と洗濯機がほぼ同時に壊れただろ、お前の家にわざわざ借りに行ったし。」


「あったなぁ、そんな事。」



―そんな会話を続けながら家の前に帰って来たとき、なにかいい匂いがした。


「この匂い、兄さんが新メニューでも開発しているのかしら?」

珠香の家はこの町一番人気のレストランである。元は、中華料理屋だったが、隆盛が学んだのは、フランス料理だったため、メニューは半ば定食屋のような物になってしまった。しかし、それが話題を呼び、県外からわざわざ食べに来る人も少なくない。


「新メニューか…そういえば、おばさんは今どの辺にいるんだ?」


「この前連絡があったときは、インドで秘伝のスパイスを探り当てたって、言ってたけど…今はどこにいるのかな?」


「かな?って、俺に聞かれても…。」


時計を見ると、二時を過ぎていた。


「取り敢えず着替えようぜ。」


「そうだね。あっ、私の方が時間かかると思うけど置いて行かないでね。」


「いや…、俺は場所知らないし。」



―家に入る。翔が現在住んでいる場所は、貸しアパートである。ちなみに、これは祖父の遺産であり大家は翔だ。

しかし、住んでいるのは翔だけで、維持費は由紀子の給料から出されている。


翔は二階の自分の部屋に行った。

「ただいま、父さん、母さん、祖父さん。」


入口の写真掛けに語りかけた。幼い頃の翔達が写っている。翔達や由紀子、そして珠香の両親に祖父も一緒にこのアパートの中庭で撮ったものだ。


翔と由紀子の両親は翔が幼い頃に宇宙で事故に遭い、行方不明になっている。


「父さん、母さん、祖父さん。俺、頑張ってみんなを守るよ。」


「翔〜まだ?」


「やべえ。」


翔は、急いで支度した。



―「もう、遅いよ!何度、兄さんに冷やかされたと思う!!」


家を出ると、珠香が頬を膨らまして待っていた。今日は白いワンピースを着ている。


「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してた。」


「ふーん。どんな事?」


「父さん達の事。」


「っ!…ごめんね。」


「何で謝る?」


「だって…さっきもお母さんの事で話したし…。今も兄さんの事で…。」


「いやいや、おばさんの話を振ったのはこっちだし、凜や義姉さんには会おうと思えばいつだって会えるんだから。」


「でも…。」


「今から美味しい物食べに行くんだろ?そんな顔してたら駄目だって。」


「うん。」


「さあ、行こうぜ!いくら週一の定休日でも、あまり遅くなったらおじさんも心配するだろう?」


「うん、そうだね。…ありがとう、翔。」


「別に、どうって事ねえよ。」



―ケーキ屋に着いた時、翔が目にしたのは、サイレンを鳴らし走り去って行く救急車だった。


「…?」


不意に翔の背筋に悪寒が走った。


「さぁ、行こ行こ!」


「あ…ああ。」


店内は少し、騒がしかった。


「けっこう賑やかなんだな。」


「そうね。」


「ところで、どれを食べる気なんだ?」


「あの…その…あれなの……。」


珠香が指差した先には、ホールケーキを二つ重ねたような巨大なケーキがそびえ立っていた。その横には、志半ばで倒れた哀れな挑戦者の変わり果てた姿があった。


「………何、あれ…?」


「この店の大食いメニュー。」


壁を見ると、チラシに説明と賞金が書いてあった。


「何々、十分いないに食べ切ったら賞金…十万円!!」


「でも失敗したら五千円だよ。」


「やるぞ!」


「へ?」


「十万円あれば、今月かなり楽になる、地獄に仏だ!」


「翔、仏って言ってる割に目が¥になってるよ…。」



―「お待たせ致しました、ご注文は?」


「大食いチャレンジ、絶対無敵デンジャラスケーキ二つ!」


確かに色々な意味でデンジャラス。再度、店内がざわつく。


「お客様、これは当店の誇り。カップルが面白半分で頼む事は許されません、覚悟は出来てますか?」


「カップルって、別に俺達はただの幼なじみであって付き合ってるわけ…」


「むっ!」


珠香が翔の足を踵で思い切り踏み付けた。


「!!」


「どうかなさいましたか?」


「いえ、何でもありません。覚悟は出来てます。やるからには勝ちを狙いますから。」


「承知しました。オーダー!チャレンジ、ツー!」


人々が群がってくる中で、翔は一人足を抱えてうずくまっていた。



―三分後。翔達のテーブルにケーキが四つ運ばれて来た。


「あれ?」


周りを見渡すと、後ろの席にも人だかりが出来ていた。そこには女子高生が二人座っていた。


「鉄人定食の時の決着を付けるわよ!」


「あなたには絶対に負けない!」


ケーキが置かれた。


「お待たせ致しました。私は、今回の挑戦の審判を勤めさせていただく、性は斎藤、名は彬と申します。途中、お手洗いに向かったり、席を著しく汚した場合失格です。用意はよろしいでしょうか?」


「はい。」


「では…始め!」


「うぉぉお!」


翔と珠香が、ケーキに顔を突っ込み、ものすごい勢いで食べ始めた。もはや味など感じている様子はない。


「珠香が…もぐもぐ、あんな古着…ごっくん。着てるからおかしいと…もぐもぐ。思ったら、ごっくん。そういう事か。」


因みに後ろの二人はケーキを手で掴み、圧迫して小さくしながら貪り食っていた。



―食べるほうも熱血していたが、観客も応援団とかしていた。


「頑張れ!少年。彼女に負けるな。」


「ファイトだ、プリティガール!もう少しだぜ!」



―しかし後、ホールケーキ半分と言ったところで、女子高生の内の一人と、珠香がほぼ同時に鼻血を吹いて倒れた。見物人いわく、銃の乱射事件かと思ったらしい。


「珠香!」


翔は思わず手を止めていた。


「だ…駄目だよ、翔…私に構わずに…」


「馬鹿やろう!そんな事できるかよ!」


「後、二分なんだよ…。私も…頑張る…から」


「でも…。」


「大丈夫だから。」


斎藤が珠香を止めようとした。しかし、


「止めな。あの嬢ちゃんの目はまだ死んでねぇ。」


「店長!」


四人はラストスパートを駆けた。



―ベルが鳴ったとき、テーブルの上にケーキは残っていなかった。



―「負けたぜ!お前等には。」


店長は賞金を渡しながら清々しく言った。厨房の奥では、パティシエ達が敗北の涙を流していた。


「次回はもっと凄いのを用意するからまた来てくれ!」


「………」


「がはははは!」


翔達が店を出た後、店内から


「よーし!お前等武者修業の旅に行くぞ!」


「おぉー!」


と聞こえたらしいが。


「大丈夫か!珠香。」


再度、珠香が倒れたため、それ所ではなかった。



―「うっ、ううん…。」


珠香が目を覚ました時、目の前にあったのは翔の背中だった。


「珠香、目を覚ましたのか?」


「う、うん。」


「辛いならこのままでいいけど、どうする?」


珠香は真っ赤になって答えた。


「降ろして、もう大丈夫だから。」


「わかった。」


「ごめんね、…重かった?」


「かなり。」


「…そういうときは嘘でも重くないって言うもんだよ。」


「嘘はつけない質でね。」


「馬鹿…。」


不意に珠香が翔に抱き着いた。


「?どうした…」


「いつまでもこんな日が続くといいね。みんなと騒いで、でもたまに二人っきりで遊びに行ったり話したり。」


「あ…ああ。」


翔はもう何がなんだかわからないという顔をしている。


「ねぇ、翔。約束して。これから先何があっても死なないで。怖いの、嫌なの、翔がいなくなるのが。」


珠香の目に涙が浮かんだ。


「わかった。約束する。だからもう泣き止んでくれ。」


「そうだね。ちょっと恥ずかしいかも。」


二人は並んで帰った。


終わり



―おまけ―


―数日後。時羽は自室で、歳を食った執事とTV電話をしていた。


「何ですって!あのケーキ屋が閉店!」


「さようにございます。」


「あそこのガトーショコラ美味しかったのに。一体何故?」


「どうやら高校生四人に完膚無きまでにやられたためだそうです。」


「一体誰が私の楽しみを」


「真壁翔様と大空珠香様、他二です。」


「他二って…。それにしても珠香め、恨めしい。」


「ケーキは他にもあるんですから。そんなに怒らなくても。」


「そうではありませんわ!翔様とデート…うらやましい。」


部屋の扉が開き、小九郎が入って来た。


「時羽様、おやつですよ。」


「小九郎!聞いて、珠香のやつが翔様と…。」


「知ってますよ。さっき翔が十万円ゲットってメール送って来たので。」


「メールっていつの間にアドレスを?」


「まあ拗ねないで、これでも食べて機嫌直してください。」


テーブルの上に置かれたのはガトーショコラだった。


「ふん。いただきます。…あらっ、おいしい。甘すぎずでもしっかりとした味。これはどこのケーキなの?」


「俺の手づくりですが?」


「あなた料理できたの!?」


「趣味の範囲ですが、今日は出来が良かったので時羽様に食べていただこうと思いまして。」


部屋の外からメイドの声がした。


「小九郎、早くケーキちょうだい。」


「ちょっと待ってください。…それでは失礼します。」


小九郎が退室した。


「意外だったわ…。でも本当に美味しい、今度から小九郎にコーチを頼もうかしら。」



―「っ!」


小九郎は身震いした。


「どうしたの?」


ケーキを貰い、ほくほく顔のメイドが聞いてきた。


「いや、何でもない。」


この後、キッチンが爆発したり、毒味をしては腹痛で倒れ、医務室に運ばれていく運命にあることを彼はまだ知らない。


終わり


何とか仕上がりました。データが消えたりとハプニングもありましたが、第九話です。

今回次回予告がないのは、これが第一部にあたる部分の最終話だからです。決してネタ切れだからではありません。(過去の自分が残したあらすじはここまでですが…。)

これはある意味過去の自分と今の自分の間でけじめを付けたようなものです。(今までは過去の自分が作った話に少し最近のものなどを追加加筆していたので。)

次は纏めの意味も込めて番外編になると思います。

今月末から来月頭あたりには上げる予定ですので、その時もよろしくお願いします。

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