番外編第二話:突撃!地獄の三丁目、その1
お待たせしました、番外編2作目です。
―暗く静まり切った部屋の中。ただ広いだけで、ここには何も無かった。その部屋の中心近くに彼は立っていた。
「これより、実技試験を行う。用意はいいかね?光優太君。」
「はい。」
「内容は簡単だ、これから君は魔界の魔物と闘ってもらう。方法は問わない、相手を戦闘不能にすれば合格だ。なに心配しなくてもいい。ここに来る魔物は十パーセントほどに力を押さえられている。君のお姉さんは一分かからずに相手を消し炭にしていたぐらいだ。だが、なにが来るかは我々にもわからない。気を引き締めて頑張りたまえ。」
このオッサン話長いなぁと思いながら優太は身構えた。突如目の前に魔法陣が現れた。
「…桁違いの力を感じる。これが魔界の者の力なのか。」
陣の中から現れたのは三首を持つ巨大な犬だった。
「……け…ケルベロス。」
ケルベロスは優太を敵と認識し、火球を吐き出した。
「ウォーターショット!」
威力、速度ともに最高レベルの水球が火球に向かっていった。しかし、
「!?…」
属性で勝っているはずの水球は一瞬のうちに蒸発させられた。
「ふっ!」
優太は圧縮呪文で、身体能力を強化しぎりぎりのところで回避をした。火球は、部屋の壁に当たり、防御魔法を貫いて部屋の外に飛んでいった。
―この威力には試験官達も驚きを隠せなかった。
「この威力はどう考えてもおかしい。君!どういうことかね?」
試験官は顔が真っ青になっていた。
「ど…どうやら先程の破壊の影響で陣が崩れたみたいでして…あそこにいるのは完全な状態の地獄の番犬のようです…。」
「じゃあ、あれをもし殺してしまったら…。」
「世界に魔物が溢れてしまいますね。」
「彼に伝えないと!」
「先程のケルベロスの攻撃で通信が途絶しています。我々に出来ることはただ見守るだけです。」
―ケルベロスの攻撃をかわしながら優太は考えていた。
「もしこいつが本物なら、こいつを殺した場合、魔界の門を守護するものがいなくなる。チッ、…フリーズランサー!」
牽制で足元に氷槍を放つが、まるで動じない。
「こうなったら、仕方ない。」
優太の足元に魔法陣が現れた。
ケルベロスが火球を放ったが、高濃度の魔力障壁に阻まれた。
「告げる!汝、悠久の時を生きし者!今、汝に請う。契約のもと、我が前に姿を現わせ!汝の名、インフィニットドラゴン!」
陣の中から巨龍が現れた。
「インフィニットドラゴン!奴の動きを止めてくれ。」
「おうよ、任せな兄弟!あと俺様の呼び方はインフィとか、インフィニとかでいいんだぜ!」
見かけによらずかなりフランクな奴だった。
「そ…そうか、よろしく頼む、インフィ。」
「上出来だ。さぁて、代々光家の守護をしている俺様の力とくと見よ!」
インフィニットドラゴンがケルベロスの尻尾を掴み、回して壁にたたき付けた。
「まだまだぁ!」
インフィがボコっている間に優太はケルベロスに向けて呪文を放った。
「アストラル・ブレイカー!!」
精神を直接攻撃されたケルベロスが苦しみ悶えている。
「まだやるのか?しつこいなぁ、てぃ!」
ゴス!!
精神(と前足)を折られたケルベロスは戦意を失い、大人しくなった。
―治療を受けた後ケルベロスは魔界に帰っていった。
「召喚魔術はSランクの人間しか許可されていない。事故とは言え、君はAランクだ。」
「わかっています。どんな処罰でも受けます。」
優香が反論した。
「仕方ないじゃない!そうしないと、優太は死ぬとこだったのよ!」
魔術学校の校長が言った。
「落ち着きたまえ、優香君。まずは、処罰を聞いてからでも遅くはない。」
試験官が言った。
「今回の件は我々に落ち度がある。そのため、君には特例としてSランクに上がるための試験を受けてもらい、この試験の前に合格したことにしてもらう。」
「つまり、僕がSランク試験を合格すればお咎めは無しだと言うことですね。」
「そうだ。事が事なのですぐに始めてもらいたいのだが…。」
「そんなの無理に決まってるじゃない。優太はあんな化け物と戦ったばっかりなのよ!」
「そこで、サポート役として君にも一緒に受けてもらおうかと思うのだが。」
優太が怖ず怖ずと聞いてきた。
「あの、試験の内容って何なんですか。」
「本来は秘密なのだが…地獄ヘ行き、自分の杖を手に入れてくることだ。」
「杖?」
「どんな形に成るのかは、その人しか知らない。そして、その杖が、その人の一生の相棒になる。それを手に入れて初めて一人前として認められる。」
「わかりました。優香いいかな?」
「優太の為だし、いいわよ。」
「うん。僕たち、受けます。」
「では、ゲートを開ける。」
本日四回目の魔法陣が現れた。
「いくよ、用意はいいね?」
「もちろん!ちゃっちゃと片付けてお茶でもしましょ。」
二人は転移した。
―地獄はかなり大変な事になっていた。
「…かなり凄いことになってるわね。」
「これも僕のせいかな?」
「…さあ…」
ケルベロスがかなりの数の魔物と戦っていた。優太との戦いのダメージが残っているのか押され気味である。
「そんな事したらここにいる奴らが僕たちの世界に流れ込んでくるだけです。これは僕の責任でもあります。だから加勢します。」
「ちょっと優太!試験は!?」
「試験に受かっても世界が滅んだら意味がないでしょ?」
「…そうね。」
こうして、人間と番犬の奇妙な共同戦線が生まれた。
―「何なのよ、この数!」
「攻撃の手を緩めるな、一気に畳み掛けられるぞ。」
「マジになってるわね、優太。でもどうにかしないと、このままじゃ押し切られるわ!」
「どーするのよ。」
「僕の?」
「ちょっ!どうするの?後ろ大群だよ!」
「…わかった。力を貸してくれ、ケルベロス!」
ケルベロスは光に包まれ、杖に変身した。
「これが、僕の杖か。」
優太が杖を持った瞬間、膨大な魔力が優太を空の彼方に吹き飛ばした。
「あ〜れ〜〜。」
「優太!……あれ?もしかして私、大ピンチ?」
後編に続く。