プロローグ
二作目です。楽しんでいただけると幸いです。
―今から一万年ほど前、人類がまだ西暦と呼ばれる時代を生きていた頃、宇宙全体巻き込んだ大戦争が起きた。
超空間ワープや大宇宙ネットワーク等で様々な惑星と繋がっていた地球もまた、その戦争に巻き込まれ、ワープ航法を始めとした、様々な技術と、他の星との繋がりを失い衰退していった。
地球人類がその頃の技術力追い付いたのは、つい百年ほど前の事。未だに他の星との繋がりこそ取り戻していないが、人々は日々を平穏に暮らしていた。
これは、世界の命運を背負った一人の少年のお話……。
―「えーん、えーん。」
女の子が泣いている。鮮やかな黒い髪の毛の同い年ぐらいの子。
「どうしたの?」
放っておけずに声をかけた。ああ……これは昔の記憶だ。
「……あなたは誰?」
女の子が泣き止み聞いて来た。
「僕は、真壁翔。君は?」
「私は……よ。」
何故か思い出すことが出来ない。でも、これだけは覚えていた。
「長いから、みーちゃんって呼んでいい?」
その女の子、みーちゃんは少し驚いてから答えた。
「私をそんな風に呼んでくれた人は初めてだよ。よろしくね、翔君。」
「何で泣いてたの?」
みーちゃんは顔を赤くしながら答えた。
「えーっと、その……何でもない。」
「でも泣き止んだ。」
「うん!ありがとう。」
みーちゃんは笑顔で答えた。その笑顔はとても眩しく、今もこれだけは鮮明に残っている。多分これが俺の初恋なのだろう。今から十年ほど前の話だ。
―4年前―
「あれはまだ見つからないのか?」
地球から何光年も離れた宙域。大量の残骸の中、一隻の大型艦が佇んでいた。
回りの残骸は明らかに機械と違う物質で出来ており、一部緑色の血のような液体も浮遊していた。付近に他の艦影は見当たらない。
その大型艦は、フィールドを張りながら残骸の中を静かに進行していた。
「機動部隊、全機帰還確認。敵部隊、残存および増援の反応はありません。」
「そうか……進路が開き次第、ストリーム・ドライブ(長距離ワープ)用意!P15326にて補給を受けた後次の星系に向かう!」
「了解。各員に告げる本艦は現時刻よりP15326にストリーム・ドライブに突入します。」
「急げあれが『OTZマシーン』が奴らに破壊されたら我が方、いやこの世界は終わりだ。」
艦長は静かに呟いた。残骸群を抜けた直後、大型艦は跡形もなく消え去った。
―同刻―
別の宙域に先程とは違う技術で作られた戦艦が現れた。アヤガン軍第二十四艦隊旗艦アーカス・ナカラン赤い超弩級戦艦である。そのブリッジで……。
「艦長!」
ブリッジ要員が声をあげた
「なんだ……まさか!」
それに反応する三十歳ぐらいの男。艦長のローム・マイゼンリッチ、初陣から驚くべき戦果を挙げ続け、若くして艦隊指令にまで上り詰めた天才である。
「例の反応がありました」
「場所は?」
「銀河系オリオン腕太陽系第三惑星地球です。」
「地球か、そろそろ銀河連邦に再加盟できるレベルまで回復した星だったな。よし!長距離移動陣形成!本隊にも連絡だ!奴らに先手をとらせるな!」
「了解!」
大艦隊が地球に向けて動き出した。
―同刻―
P15326にあるザザーン軍の補給惑星、そこでも反応があった
「!」
「どうした?」基地指令のルード・カルバロスはコンソールの前に座る部下に聞いた。
「今、『OTZマシーン』の反応を確認しました。」
「本当なのか!?」
「はい。アヤガン軍の他に奴らも動き出しています。」
「ガル・アムザールはまだ到着するまでに二日はかかるでしょう。しかし奴らを追い越す速度を持つ船など、もう……。アヤガン軍に望みを託すしかないのか。」
それっきり押し黙るルードの副官。しかし、
「ある!船ならあるぞ。」
「何ですと!」
ルードは私用回線を開いた。突如モニターに若い男が現れた。モニターに映った男、カール・トリプトンは敬礼をしながら言った。
「お久しぶりです。教官。」
「ああ、久しぶりだな、カール。」
「事情は知ってます。」
「ほう……何故だ。」
「近くを通ったら、オープンチャンネルに偶然会話が入って来たんですよ。」
不意にルードは通信コンソールで寝ている部下を見つけ、「ブッ」と吹き出した。しっかりと全周波数通信のスイッチを押している。幸い、近くに他の船はいなかったため他に聞いている人はいないようだった。
「と、とにかく……お前さんは成績はトップだったくせに教官を敬ってなかったよな。まあ、お前と私の仲だ昔のように話してくれていいぞ。じゃないとむず痒いからな。で、本題だが率直に言う。お前の力を貸してくれないか?」
「勿論いいですよ。外ならぬ教官の頼みですし。」
「ありがとう。卒業から三年で提督になった力を奴らに存分に見せ付けてくれ。」
ルードの部下(さっきたたき起こされた)(軍に入隊して十年)は驚いていた。
「わかりました。俺の艦隊がそこへ向かえばいいんですね?」
「頼む。こちらも戦力が調ったらすぐにでも増援を送ろう。」
「分かりました、感謝します。……各艦に通達!地球に向けて発進!」
こうして遥か遠いところで地球をいや、宇宙を揺るがす事件が始まったことを、まだ地球上の誰も知らなかった。
―3年前―
―日本国中央州首都某所―
「ち……ち〜こ〜く〜だ〜!」
朝っぱらから忙しい奴がいた…。
彼は真壁翔。州内の中学に通う二年生。成績は中の下、ルックスはそこそこ、スポーツ万能の元気な少年だ。
「も〜。翔が寝坊するからだよ。」
大空珠香。翔の幼なじみである。成績優秀、品行方正、運動も出来る。そして、誰もが認める美少女だった。
「仕方ねーじゃん。昨日は誰かさんの買い物に付き合ったおかげでヘロヘロだったんだから。」
「私のせいだって言うの?『いっつも迷惑かけてるからいいぜ』って言ったのはそっちじゃない!」
二人は痴話喧嘩を続けながら他の生徒を追い抜いていく。その二人の隣にもう一人の男の子がついて来ていた。
「朝っぱらから痴話喧嘩とはお熱いね〜お二人さん。」
「うるさいぞ、大。」
武松大地。翔の親友だ。クラスに一人は居る典型的なタイプの悪ガキ大将だ。根がまじめな為、成績が良いというのがまた性質が悪い。
「いいじゃないの。もはや朝のお約束なんだし。」
「おいおい……。」
「それに、これが見れるのは今日で最後なんだし……さ。」
「なんでだよ?」
「今日の午後に親父の仕事の都合で俺は引っ越すんだ。」
大地はしれっと言った。翔は驚きながら答えた。
「おい!そんなの聞いてねーぞ。」
「そりゃあ、まあ、言ってないし。」
「……。」
「それにさ…湿っぽいのってなんか嫌じゃん。」
「そうか……。」
「まあ、今生の別れってわけじゃないんだ。また会えるさ。」
「そう……だな。」
この日二人は離れ離れになった。しかしこの時、この二人はまだ互いの間にある運命を知らなかった。