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ゾンビになんてなってたまるか!  作者: 夜凪
エピソード1〜そして始まる
8/14

ゾンビが街に出てきます。

自分達の計画を何者かが気づいている。

若しくは、気づかないまでも、あの「施設」に侵入したものがいる。

きっとその「侵入者」は秘密を覗き見てしまったのだろう。

爆発によって共倒れになっていれば良いが、そうでないなら?


そうして彼らは決意する。

計画を早めることを。

ただ、当初より少し計画を変えて。








俺たちは思い込んでいた。


この世界は漫画の世界。

よってスタートは高校2年の5月。この街の中心にある駅前広場で始まるのだと。

だから、まだ、時間的猶予がある。

その時までに敵の本拠地を突き止めるのだ。


取っ掛かりの施設に侵入し、研究者の中心人物の1人であった青年と未完成とはいえゾンビウィルスに対する抗体をゲットしていた事で油断してたのも否めない。


だけど、転生者(おれたち)というイレギュラーがいる事でストーリーが変わっているという可能性を考えていなかったのは、確かに、俺たちの落ち度以外の何物でもなかった。

冷静に考えれば分かったことだったのに。


漫画の中では出ていなかった始まりの施設に侵入し、迂闊にも爆発させてしまった時点で、ストーリーは既に変わり始めていたのだということを。






その日。


何時ものように眠たい目をこすりながら登校して、何時ものように自習室の1つに閉じこもって、俺は、快適な時間を過ごしていた。


冷暖房完備。防音で最新式のデスクトップパソコンが設置され、インターネット使い放題。

一応、扉の半分がガラス窓になってるけど、見回りなんて無いに等しい。


一応、鍵の貸し出しに記録の義務があるけど、係りのお姉さんとは顔パスの関係だ。

何しろ、暇があれば閉じこもってたからな!

孤児院だとチビ達が煩いから、集中したい時良いんだよな。


誰だよ、やっぱり引きこもってんじゃんって言ったやつ!

違うだろ?

ちゃんと学校来てんだろ?

ただ、今年分のカリュキュラム、前倒しでクリアしちゃってたからする事ないんだよ!


授業レベルが物足りない生徒に対し、特別措置として普通の試験の3割り増しで難しいテストを受けて合格すれば、その範囲まるまる受けなくて済むようになるんだけど、それ突破しちゃったんだよ。

おかげで、空いた時間でゾンビ対策がかなり進むってもんだ。


登校の義務はあるけど、それ以外はフリー。

私立の学校のフリーダムさに拍手だな。

いや、ここだけかもしんないけどさ。

と、いうわけで本日も持ち込んだノートパソコンとの2台駆使して情報収集してたんだけど……。


緊急連絡用に設定してたアラーム音が突然静かな自習室に響き渡った。

設定はしていても今まで一度も鳴る事がなかったその音に心臓が跳ね上がる。

反射的に動いた手がパソコンの横に置かれたスマホをつかむ。


『良い反応ですね。

自習室にいらっしゃるのでしょう?

パソコンにメールを送るので添付ファイルを開いて下さい』

耳元で響く低い声は、爺ちゃんの執事兼護衛の中里さんだ。


見た目50代のナイスミドルだが年齢は不明。

1度好奇心で聞いたら綺麗にはぐらかされた。出会ってから10年近く、外見変わらない。ちなみに爺ちゃんの昔の写真にも同じ姿で映ってたのをうっかり見つけた時点で、詮索するのを止めた。

人間、つついちゃダメな場所ってあると思う。


「直ぐ開けます」

中里さんの言葉が終わる前にポンッと軽やかにメールの着信音が響き、俺は急いで添付ファイルを開いた。


それは、何処かの駅前広場みたいだった。

画像の荒さから固定の監視カメラが何かの映像を引っ張ってきたんだと判る。

それ程人通りは多くない。

画面の隅を見ればデジタル時計が今日の9時半を示していた。

もう直ぐ11時だから、ついさっきの映像っぽいけど。


何を見せたいんだ?と首をかしげそうになった時、不意に悲鳴が響いた。

画面の隅から転がり出る様に映り込んできたのはまだ若そうな女性。

首筋を片手で押さえて、地面に倒れながらも必死で前へと這いずっていく。

視線は怯えた様に自分の走ってきた方向に据えられていた。

そうして、その女性を追う様に現れたのは………。


「なっ?!」

驚きに息を飲む。

血まみれで所々欠損した体。

明らかに生きている人間とは異なる青白い肌。場所によっては腐敗が始まっているのか赤黒く見えた。

獲物に向かい手を差し出し歯を剥き出して、比較的ゆっくりとした足取りで迫るその存在は………。


「なんで、こいつらがこんな所に映ってんだよ!?」

思わず、悲鳴の様な声が漏れる。

無意識に画像から逃げる様に立ち上がれば、バランスを崩して倒れそうになって、慌てて机に手をついた。


あまりに非現実な光景に周囲の人間がぽかんと成り行きを見守るなか、哀れな犠牲者へとそのゾンビは勢いよく食いついた。


形容しがたい絶叫が女性の口から漏れる。

どうにか逃れようと手足を振り回すが、ゾンビに対してその攻撃はあまりに無力だった。


噴き出す血も、食いちぎられていく体も、女性の絶叫やその動きがじょじょに力を失っていく様も………。

作り物とは到底思えないそのリアルさに、凍りつく様に動きを止めていた人達が悲鳴をあげて逃げ出した。


そんな中、男性が今更ながら女性を助けようとゾンビにカバンを振りかぶり襲いかかり返り討ちにあう。

新たな犠牲者に更に悲鳴が重なった。

と、最初のゾンビが現れた画面の端から新たな存在が顔を出す。


1体………2体………。

続々と増えるゾンビに逃げる人々。

だけど、駅の中からは何か分からず出てくる人たちも当然いるわけで、そんな人達は状況を把握すると同時に新たな犠牲者になっていた。



『コレは今朝の風間駅の映像です。先程、確認のために人をやりましたが、恐らく、怖れていた事態が起こったと思って間違いないはずです』

冷静な声が鼓膜を震わす。

それを聞きながら俺の指は勝手に動き、他の情報を拾い上げようとする、のだが………。


「なんで?なんで、なんの情報もないんだよ?!」

スマホで撮った画像を簡単にネット上にあげることができる時代だ。

こんなリアルパニック、絶対に誰かが映像あげるなり、騒ぐなり、してるはずなのに。


『恐らく、風間駅周辺の回線が何者かによりハッキングされ、抑えられているのだと思われます。私がこの映像を見つけることができたのは、偶然です。


知人がこちらに来る予定だったのですが、風間駅で人身事故があって電車が遅れるとのメールを最後に連絡が取れなくなったので探そうとしたら、この状態だったんですよ』


冷静に状況を説明する中里さんの声につられるように上がっていた血液が元に戻っていく。の、だけど。

今、変な情報が………。


「中里さん、知人と連絡が途絶えたって、それって、思いっきり巻き込まれてるんじゃ………」

冷静に情報分析してる場合なの?!


『まぁ、そう簡単に死ぬような人間ではありませんが、流石にろくな装備もなく長時間は難しいと思います。ですから、出来れば皆さんに救出の手伝いをしていただきたいのですが』

あくまで冷静な口調を崩さない中里さんに、俺はバタバタと荷物を片付けだした。


「直ぐ、いきます。天翔達も抜けれる様に連絡と車、お願い「雪!今直ぐ帰ってこいって連絡が」

しようとしたら既に手配済みか。

流石、中里さん。


飛び込んできた天翔に荷物を持ってもらい、正面玄関の方へと急ぐ。

走ってゴメン、先生。

緊急事態だから、見逃して!


俺と天翔が玄関にたどり着いた時には、もう既に更紗と花梨は車に乗り込んでいた。

「ゴメン、待たせた」

飛び乗った車はドアを閉じると同時に滑らかに発進。


状況が分かっていない3人に車中でさっきの映像を見せれば、たちまち表情が険しくなる。

「街にゾンビが出てくるのは2年後ではなかったのですか?」

「そもそも、なんで風間なの?ここじゃないの?」


風間駅はこの街から都心に向かう路線の3つ手前の小さな駅だ。都心や副都心(俺らの住む街の事だな)で働く人達のベッドタウンとして最近開発が進んだ町でもある。


更紗と花梨のもっともな疑問に、俺は唇をかみしめた。


「分からん。もしかしたら、俺たちが先回りして色々しようとしたことで、ストーリーに狂いが出てるのかも」

膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。


サッサと集めた仲間達に、原作ではいなかった研究者の存在が頭をよぎる。

そうだ。

こんだけ色々変えちまったんだから、話事態が思わぬ方向に進んでも不思議じゃない。

なんでそんな簡単なことも想像できなかったんだ、俺は!


握りしめた手のひらに爪がぎりっと食い込む。

頭の中には襲われる人々の映像。

あれから2時間近くが経過していることを考えれば、ゾンビ達は着々とその数を増やしている事だろう。

それはつまり、誰かが死んでいる、という事だ。


と、その手に一回り大きな手が重ねられた。

「落ち着け、雪。ここで焦っても状況は変わんないだろ。今は冷静に。中里さん達と合流して対策を練ろう」

目を覗き込む様にされ、ゆっくりとした声が耳に吹き込まれる。

手のひらから伝わる温もりに、そっと息を吐いた。


「そうそう。雪がパニクったらウチは回らなくなるんだからな」

ぽんぽんと軽く背中を叩かれた。

強張っていた身体からも力が抜ける。

「そ、だな。焦ってもしょうがない」


クテリと革張りのシートに体を預けると、俺はリラックスモードに突入した。

ここでパニクってる場合じゃないのは確かだ。考えなきゃいけない事はたくさんある。


黙り込んだ俺を花梨達が何か言いたそうに見つめていたのは分かったけど、あえて気づかないふりをして、俺は思考の海へと沈んでいった。




読んでくださり、ありがとうございました。


雪達の通う学校は完全フィクションです。

こんな学校あったら、成績優秀者はかなり楽しいでしょうね〜。

私は底辺でアップアップしてそうですが。


次回より、ゾンビ率増える予定です。

…………描写、頑張ります(汗

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