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主人公の雪が女の子に確定しました。
ブクマしてくださっていたありがたい皆様。「雪が女の子とかか無しでしょう!」って方はこのままUターンでお願いしますm(_ _)m
後、中身はおっさんにつき一人称は俺のままです。大人の前ではたまに猫かぶりますが、基本「俺」。苦手な方はコレまたUターン宜しくお願いします。
「………ねみぃ」
呟きと共に布団に潜り込む。
爽やかな朝日も、小遣いをつぎ込んだ遮光カーテンの前には無力だ。
建前上かけていた目覚ましは、最初1音と共に退治した。
オレの安眠を妨げるものはもういない。
お休みなさい。ぐぅ……。
という、幸せはたった5分で粉砕した。
「起きろ、雪。朝だぞ。遅刻する」
勢いよく開けられたドアと共にぬくぬくの布団は取り上げられた。
あぁ、爺さんに強請って誕生日に買ってもらった高級羽毛布団が!
「………オレ、寝たの4時過ぎ。勘弁して」
哀れっぽく懇願してみるが、敵は慣れたもの。
無情にもカーテンまで開けはなしやがった。
鬼が!鬼がここに!
「目がぁ〜」って、お約束するか迷うところだな。
「今日は始業式だろう。流石に初日からサボりはマズい」
丸まった体を転がされ、問答無用で体を起こされた。
「目をつけられたら面倒な事になるのは雪だろう。タダでさえ目立つんだから。起きろって〜」
呆れた声に渋々うす目を開ければ、眉間にシワが寄った天翔の顔が至近距離にあった。そんな顔すら様になるとか……イケメンなんて滅びればいいのに。
世を忍んでゾンビを駆逐して回っていても、1晩明けてみればこちとらしがない中学生。
義務教育とはいえ、出席日数足りなければヤバイことになるし、それ以上に態度悪しと内申書に響く。
高校行きたいししょうがない。
奨学金貰ってる身としては、あんまり欠席遅刻はよろしくないのだ。
そんなの関係ないぐらいの高成績取れば?って?
はっはっは。大人は「いい子」が好きなんだよ。
多少成績悪くても健気に頑張る子の方が、頭いい不良より受けるのは世の流れ。
処世って大事よ?
もそもそと動き出したオレを確認して、天翔が部屋を出て行った。
朝食の催促に行ったんだろ。
部屋についているシャワーを浴びて、どうにか目をこじ開ける。孤児院の方ではできない贅沢だよな〜。
どうにか6対4の割合で孤児院の方に帰ってるけど、こっちの環境が居心地よすぎて困る。
ココは天翔と爺さん家。オレの家はあっち。
持ち込んだ制服に着替えながら自分に言い聞かすのは、もはや泊まり込んだ朝のお約束だ。
こんなのがデフォになってる時点で色々終わってる気はするけど、考えたら負け、だな。
着替えを終えてチラリと鏡を見て、ため息が1つ。
そこには金髪オッドアイのスカート姿の美少女が映っていた。
はは。何度見ても違和感はんぱないな……。
そう。
なんと今世、「女の子」だったんだよ。
おっかしいなぁ?漫画では確かに男の子だったはずなんだけど?いや、明確に表示はされて無かったけど、さ。
男言葉だったし、周りもそう扱ってたし、男だったと思うんだよ。
だけど残念ながらオレには大切なものが付いてなかった。うん………無かったんだよ………。
くるりと回れば、ヒラリとスカートの裾が舞う。
足がアレだし、特例で制服も男子ので認めてくれないかなぁ、と掛け合ってみたけど却下。
せめて、とスカートの裾長くしてハイソックス履いてごまかしてたんだが、花梨達に「かわいくない!」と一蹴され、同じ隠すならこれでもいいだろうとミニスカニーハイにされそうになり闘ったのはいい思い出。
……いいわけあるかい!
中身還暦のおっさんだって言ってんだろーが!精神的疲労ハンパないから勘弁してくれ!
絶対領域は他人の見るから楽しいんだよ!
そもそもニーハイだとピッタリしすぎてて膝周辺や接合部が不自然だろうに。
俺は気にしないけど、義足ってわかると周りが微妙な表情になるんだよ。
コツン、と杖をつけば準備完了だ。
ちなみにこの杖も、実は色々仕込んである。
見つかれば銃刀法違反間違いなしの007も真っ青な逸品だ。
技術屋おっさんのカスタムクオリティーが高過ぎて泣ける。
天翔と違って刀振り回す技術は無いんだが、仕込み杖は「男の浪漫」だそうだ。
分かるような分からんような………。
小学校の頃は良かったなぁ……。
制服無かったし、ズボンで男共と駆け回ってても何にも言われなかったし。
まぁ、中学の制服姿見て「そういや女だった」って愕然とした顔の友人達見れたのは面白かったけど。
「雪、飯食いっぱぐれるぞ!」
いつの間にか鏡の前でぼうっとしてたらしくって、呆れ顔の天翔が呼びに来てた。
慌てて扉のところで待ってる天翔の所にいけば、「見とれるほど美少女なのは知ってるから」とニヤニヤ笑われたので杖で小突いておいた。
おまけで電撃軽めに流しといたら悲鳴が上がってたけどし〜らね。
人の嫌がることはしちゃいけませんっておばちゃん先生言ってたし、自業自得だよね。
あ、ボタン押してから電撃流れるまでのタイムラグがちょっとあったから、オッちゃんに報告しとこ。
「雪〜!おはよっ!」
のんびり朝の通学路を歩いてたら背後から勢いよく飛びつかれた。
「あっぶね!」
不意をつかれたオレがその勢いを受け止められるはずもなく、あわや地面とご挨拶かってところで横から伸びてきた腕に受け止められた。ナイス、天翔。
「花梨、飛びつく癖やめろって言ったろ?」
未だ背中にしがみ付いたままの花梨を肩越しに振り返りつつ文句を言えば、にんまりとチャシャ猫の様な笑みが返ってきた。
「だって〜、雪って抱き心地いいんだもん。細身なのにしっかりししてて、意外にでるとこでてて」
「うひゃぁぁ〜〜」
撤回!
チャシャ猫なんて可愛いもんじゃねえ。ただのエロ親父だ、こいつ。
さり気なく胸周辺揉まれて変な悲鳴がでたじゃないか!
慌てて天翔が引っぺがして背中に庇ってくれたが余りのことに固まるしか出来なかった。
「可愛い子の独り占めは良くないよ?良くなね、天翔くん」
そんな事言いつつ両手の指を胸の前でワキワキさせるの止めろ。
黙ってればふんわり茶髪をツインテールにした小柄な美少女なのに全て台無しじゃねぇか!
マジであいつの中身もオレと同じなんじゃないかと疑いたくなるぞ?
いや、昨今のおっさんの方が純情なんじゃないか?少なくともオレはあんなんじゃなかった!名誉のためにも声を大にして言ってやる!
若干涙目になりつつ天翔を盾にジリジリと後ずさっていると……。
「………何やってるのですか、朝から」
スコンっと花梨の頭の上に綺麗な手刀が落とされた。手加減はされてるんだろうがなかなかいい音がしたから、…………うん、痛そうだな。
「おはよう、更沙。助かった」
我がチームの良心その1登場だ。
天翔の陰から顔を出して挨拶すれば、綺麗なお辞儀が返ってきた。
「おはようございます。雪さん、天翔さん」
サラリと背中の中程まで伸ばされた黒髪が流れた。
涼やかな目元に通った鼻筋。少し薄めの唇はほんのりと笑みの形につくられている。
花梨とは正反対の和風美少女で、俺たちのクラスメイト。更に前世知識を生かしてゲットしたゾンビ対抗チームの一員でもある。
幼い頃から弓道を嗜んでいてかなりの腕前。
現在は、オッちゃんお手製の先端にあらゆるギミックを搭載した数種の矢を駆使して、遠距離攻撃手として頑張ってくれている。
そして、暴走する花梨に対抗できる数少ない人物でもある。
いや、流石にオレ達じゃ女の子に物理的制裁は戸惑うものがあるし、な。
「遅刻してしまいますね。このおバカさんは放っておいて、行きましょう?」
綺麗な笑顔で促してくる更沙の対応は冷たく見えるが、コレでも2人は大の仲良しだ。
正反対の性格の方が惹かれ合うものも多いんだろう。
「うぇ〜ん、さらっちが冷たい〜。でもそんな所も好き〜〜」
「離してください。おバカがうつるでしょう?」
復活した花梨が嘘泣きしながら抱きつこうとするのを全力で押しのけ拒否する更沙……。
本気で顔がイヤそうだ……。
………仲良し………だよな?
読んでくださりありがとうございました。
どうも天翔くんとの絡みはイチャイチャにしか見えない。
しかし雪に自覚無し。
だって中身おっさんだから。
60年培った経験ってたかが10数年じゃ上書きされないと思うんですよね……。
え?記憶が蘇る前?
舐められないために頑張ってたので、やっぱりオレっ娘でしたよ?
外見特異+孤児+障害持ちなんて、女の子じゃ虐めてくださいってなもんで。
という、周囲の孤児仲間の心配の元、教育されてました。
元々負けず嫌いの男勝りな子だったのでしょうって事でm(_ _)m