④〜天翔視点
ふと、書きたくなったのでやってみた。後悔はしてない(キリッ
心が真っ黒な絶望に塗りつぶされた時、俺は覚醒した。
両親が事故で突然死んでしまって幼かった「天翔」の心は耐えられなかったんだろう。
前世の記憶を呼び覚ますことでどうにか自分を護ろうとした、それは自己防衛の一種だったんだと思う。
確かに。
思惑通り、「両親の死」という衝撃からは心を守ることが出来た。
それまでの「天翔」の記憶と前世の「俺」の記憶が混ざり合うことで、今世の両親への想いはなくなったわけではないけれど、まるで真綿で包んだように遠く曖昧なものになったから。
触れるんだけど、見えるんだけど、鮮烈さが無い、というか。
ただし、蘇った前世の記憶は別の衝撃を運んできた。
冷たいコンクリートの部屋に横たわる両親の姿。
それを見つめる幼い少年。
それは、友人に押し付けられて渋々目を通した漫画のワンシーンと酷似していたのだ。
「ゾンビ漫画の主人公じゃ無いか!冗談だろ?!!」
叫んだ次の瞬間、ぶっ倒れた俺は、絶対に悪く無い。
その後、高熱にうなされながらも「ゾンビは嫌だ」「死にたく無い」「グロ展開、マジ勘弁」などなど、叫び続けた俺は、ふと気づくと窓に格子のはまった病室へと運び込まれていた。
このままじゃ、ゾンビと戦う前に白衣の天使にヤられる。
その現実に俺は、ようやく口を噤んだ。
ぶっ倒れてから4日目。
それくらいの冷静さが、ようやく戻ってきたのだ。
おりしも、熱が下がった時期でもあり、周囲はショックのあまり錯乱したのだろうと解釈してくれた。
全て、俺の妄想だったらどんなに良かっただろう。
熱を出してぶっ倒れてる間に今世の父母は白木の箱の中に納まってしまっていて、その小ささに俺はまた少しだけ泣いた。
前世の記憶が、もう少し早く戻ってきていたら。
2人が死んだショックで戻ったのだから、そんな事考えてもしょうがないと分かっていたけど、そう考えてしまうのは止められなかった。
「いってきます」と手を振った両親の姿が何度も思い出されて悲しかった。
例え、もうあの頃の俺とは別のものになってしまっていたとしても、やっぱり両親は両親だったから。
駆け落ちだった両親の遺骨を納める墓などあるはずもなく、区の担当者の世話してくれるままにとある寺に無縁仏として預かってもらった。
その足で、連れてこられた孤児院の外観を見て、再び俺は絶望に突き落とされる。
見覚えのあるそこは漫画の中で「天翔」が暫しの間身を寄せる孤児院のまんまだったからだ。
どこかで、よく似た別の世界である希望を持っていた俺は完全に裏切られた気持ちで、強張った顔のまま応接室へと通される。
そうして、そこで新たな「希望」に会ったのだ。
淡い金髪に青と緑のオッドアイ。
白い肌を持った、子供らしくない整った顔立ちの俺と同じ位の少年。
俺は紹介される前からそいつの名前を知っていた。
幸村雪。
漫画の中でもキーパーソンとなる天翔の幼馴染。
長ズボンで隠されて分からないけど、その右足は欠損して義足になっているはずだ。
てか、車椅子には乗ってないんだな?
記憶の中との差異に首を傾げかけた時、雪が叫んだ。
「マジか?!」
そうして、驚く俺たちの視線を受けながら頭を抱えてぶっ倒れたのだ。
その様子を、俺は既視感を持って見つめていた。
つい、最近の俺の状態とそっくりな雪に、絶望に固まっていた心に光が差すのを感じる。
もしかして?
コレは、もしかしてソウなのか?
結果。
「雪」は俺と「同じもの」だった。
熱が下がり、意識を取り戻した雪の肯定に俺は涙をこらえる事ができなかった。
仲間がいた安堵と緊張し続けていた心の弛緩。
泣きじゃくる俺を訳が分からないだろうに雪は、黙って抱きしめて頭を撫でてくれた。
それは、この訳のわからない状況で得た「雪」という存在に俺がガッツリ依存してしまった瞬間だった。
そもそも、前世の俺はどんな存在だったのか。
普通のサラリーマンの父と専業主婦の母。3人兄弟の真ん中で、年の離れた兄に憧れて始めた剣道にハマり、日々の大半を費やした。
結果、全国大会の常連になったのだから向いていたんだろう。
剣道以外は特に特筆する所もない、どこにでもいる高校生となった俺の記憶は、どうしても行ってみたい大学受験の会場に向かう雪道で、スリップした車が突っ込んできたところで終わっていた。
多分、あのまま死んだんだろう。
ちなみに、この漫画は部活仲間の友人に主人公が剣道やってるからと渡された代物だった。
結構絵がリアルなゾンビ物で、何気なく開いた瞬間、放り投げた。
ホラーもスプラッタも大嫌いだった。
本当なら絶対読みたくない代物だったが、悲しいかな思春期男子の見栄が「苦手だから読まない」との一言を言わせてはくれなかった。
リビングでパラ読みしなんとなくストーリーを掴んでお茶を濁したあの日の俺を殴ってやりたい。
おかげで、今後の展開の予測がつかなくて更に絶望したのだから。
まぁ、そこらへんの心配は雪に会うことで解消された。
かなりの信者だったらしい雪はしっかりとストーリーの流れを把握していたのだ。
もっとも本人曰く、読んだのは40年くらい前で細かいところなんてうろ覚えだよ!と嘆いていたが。(雪の前世は還暦過ぎで死んだサラリーマンのおっさんだった)
「考え過ぎて吐きそう……」
と顔色を悪くしながらも、結局、雪は細かいエピソードまでしっかりと思い出した。
「人間死ぬ気になればどうにかなるもんだな」と遠い目をしていたのには、不謹慎ながら笑ってしまった。
雪の思い出したストーリーを元に対策を立てる。
目指すは雪の死亡フラグ回避及び街にゾンビが溢れる未来の阻止だ。
実の祖父と和解し資金源ゲット。
仲間を増やし、能力を鍛える。
更に、ゾンビの発生元を推測し、探索した。
そうして、漫画がスタートする予定より2年早く、俺たちは動き出すことにした。
ゾンビが街に出てからでは遅すぎる。
恐らく相手方の目的は軍事利用。
街に溢れたゾンビは故意で、どういう風に街が滅んでいくかのデーターを取っていたはずだ、と言うのが雪の予測だった。
「本当はゾンビウィルスが発見される……いや、ウィルスの元になる物が発見された時点で抑えられたら良かったんだけど、な」
パソコンのモニターを睨みつけながら悔しそうに呟く雪に、俺はかける言葉が見つからなかった。
きっと、雪は最初の犠牲者になってしまった会社員たちを救えなかった事を悔やんでるんだろう。
多分、日本の会社だろうと当たりをつけて、それらしき薬品会社や理系の実験施設を有する会社のコンピュータにハッキングを繰り返して、雪はずっと探し続けてたんだ。
爺さんが人手を貸そうとしてくれるのを、犯罪行為だから、と断ってしまった事も、今はきっと悔やんでる。
1人より2人、2人より多数でやったほうが早く見つけられたんじゃないか?そうすれば、あの人達は死ななかったんじゃないか?と。
爺さんは「欲に目がくらんだ愚か者たちの末路じゃろ。お前さんのせいじゃないわい」と切り捨てていたけど、優しい雪にはそんな割り切り方はできなかったんだ。
雪に比べたら圧倒的に人生経験足りない俺が、どんな慰めを言ったって届かない気がした。
けど、雪の悔しそうな、そして悲しそうな顔を見ていたくなくて、ぎゅっと後ろから抱きついた。
出会った頃は同じくらいだった体格は、成長期を迎えてあっという間に頭1つ分以上の差がついていた。
雪はかなり悔しそうだったけど、こんな時、俺はその事を嬉しく思う。
ギュウギュウと無言で抱きつく俺を雪は驚いたように振り返ってみたけど、腕の中から逃げ出すことはしなかった。
「………重いよ、天翔」
ただ、小さく呟いて唇の端だけで笑って見せた。
その笑顔になんだかきゅぅ〜と胸が引きしぼられるような感じがして、俺は眉をしかめた。
「なんで、お前が泣きそうな顔してんの?」
雪が呆れたような顔で腕を伸ばし、背後の俺の頭をクシャクシャとかき混ぜてくる。
別に泣くつもりなんて無かったけど、その手が気持ち良いから、俺は誤解を解くことはせず、ただ雪を抱きしめ続けていた。
「………俺、今度の作戦、頑張るから」
「………無茶はすんなよ?」
「大丈夫。俺、主人公だし、そう簡単には死なない」
なんの根拠もない事を胸を張って言い切ると、雪がついに吹き出した。
「はいはい。主人公様、当てにしてますよ」
クスクスと笑う雪の表情にさっきの憂いの表情はもう無くて、嬉しくなった俺は力強く頷いてみせた。
「おう!任せとけよ!」
その日。
雪が施設のメインコンピュータをハッキングして押さえつけた隙に、俺たちは侵入した。
施設内はゾンビで溢れており、初めて生で遭遇するそいつらの迫力に怖じ気付いたのは一瞬だった。
インカムから聞こえる雪のナビを頼りに、半分荒廃した施設内を駆け抜ける。
ちなみに今回の相棒の花梨は、得意の重火器を振り回し、非常に楽しそうだ。
流石、軍事マニアの戦闘狂。
ちなみに俺の獲物は一見普通の日本刀だが、実際は目に見えないくらいの細かい振動を常時起こすことで切れ味を倍増させている特殊兵器だ。
電撃を流すこともできて、実はコレ漫画の中では後半に手に入れることができる最終兵器的な物だったりする。
なんで既に持ってるかって?
開発者であるおっさんをサッサと仲間に引き入れた結果だ。
おかげで、かなり楽をさせてもらっている。
手から伝わる肉を切り裂く独特の感触は、3体目あたりで考えない事にした。
後で感触がぶり返しそうだけど、今そんな事にかまっていたら、コッチがゾンビの仲間入りになるのは明白だ。
走り、斬り、避けて、また走る。
たまに入る小休憩が救いだな。
主人公補正なのかなんなのか、鍛えれば鍛えるだけ強くなる身体は、今では同じ年頃の人間と比べればあり得ないほどの力を秘めている。正に超人と言っても良いほどの。
それは、隣を走る花梨にも言える事だが(じゃなきゃ、自分の半分近い重さがある銃を振りまわせるはずがない)、本当にご都合主義な世界だな、と思う。
誰が、何のために、俺たちをこの世界へと生まれ変わらせたのかなんて知らないけど。
そうして、無事生存者を救い出し、最後に花梨がやらかしたせいでチョット危うかったものの、どうにかかすり傷程度で脱出出来た。
爆発し、すべてを燃やし尽くす炎を背に、待機していた黒いバンに飛び込み逃げ出した俺達は無事を喜び、喝采を上げていた。
身体は疲れていたけど、変なスイッチが入ったみたいにはしゃがずにはいられなかったのだ。
そうして、案の定。
「・・・・・・・・・眠れない」
みんなで食事をとった後、自室で横になった俺は、瞼の裏にフラッシュバックする光景に悩まされていた。
ついには、腐臭や肉を切り裂く生々しい感触までが手のひらに蘇り、こみ上げてくる吐き気にトイレへと駆け込んだ。
戦闘が始めり、脳内から変な物質が排出されているうちは、いっそ高揚感とともに思い出せた『武勇伝』も落ち着いてしまえばもう駄目だった。
もともと低い俺のグロ耐性は、鍛えたつもりだったけどリアルの前にはもろい物だった。
いつかなれる日は来るんだろうか?
せっかくのごちそうどころか、胃液まで吐ききって、フラフラになりながらも俺の足は無意識に雪の部屋へと向かっていた。
爺さんに引き取られ、和解して仲間に引き入れた後、爺さんは、都合が良いからと孤児院の隣の土地を買い取って屋敷ごと引っ越してきてしまった。
金持ちの行動力にあきれつつも、雪との物理的距離が離れずに済んだと喜ぶ俺に、爺さんは満足そうに笑い、雪は何かをあきらめたように深くため息をついていた。
そうして雪の部屋まで屋敷内に用意してもらった俺の髪をくしゃくしゃに乱した後、爺さんに何やら挨拶をしていた。
孤児院が自分の家だからと基本は隣にいるけれど、今日は、こっちに泊まるといっていたから部屋にいるはずだ。
ノックもせずに雪の部屋の扉をそっと開ければ、パソコンデスクの前に座って何やら考え込んでいた。
珍しく義足を外しているところを見ると、寝る直前に何か思いついて起きだしたって所だろう。
漫画の中では長くのばされていた髪はすっきりと短く整えられている。
すっと伸びた背中と細い首筋の対比がなんだかとてもきれいだった。
あれと比べるなと怒られそうだが、崩れかけた体で動く死者たちの幻影に悩まされていた俺は、その後ろ姿にしばらく見とれていた。
「・・・・・天翔に仮面でもつけさせるかな~」
「それはやめてくれ」
ぽつりとつぶやかれた言葉に思わず突っ込むと、雪が驚いたようにくるりと椅子ごと振り返った。
そうして、眠れないと弱音を吐く俺を呼び寄せて自分の前に跪かせると、ぎゅっと頭を胸に抱え込んできた。
薄いパジャマ越しに心音と体温が伝わってくる。
規則正しい「音」と温もりに強張っていた体からゆっくりと力が抜けていくのが分かった。
そっと雪の体に腕を回しゆっくりと息を吸い込めば、石鹸の優しい香りがした。
触れている感触に触角が、吸い込む香りに嗅覚が、そうして伝わってくる鼓動と温もりが、俺を悩ませていた幻影を上書きしていく。
それでも、くっついていない部分が物足りなくて「悪夢を見そう」と甘えれば、しょうがないと言うように一緒に眠る許可が下りた。
嬉しくなって思わず抱き上げれば、その軽さに心配になる。
明日、今日のお礼と言ってケーキでも買って来よう。
心の中で雪の体重増加計画を練りながら(口に出したら余計なお世話だと絶対殴られる)、そっとベッドに雪ごと転がり、しっかりとしがみ付いた。
中学に入ったあたりから、あんまり一緒に寝てくれなくなったから、なんだかテンションが上がる。
にやける顔を見られないようにしっかりと雪の胸に顔を押し付ければ、弱っていると思っている雪が優しく髪をなでてくれた。うん・・・気持ちいい。
優しい手つきに導かれるようにまどろみながら「おやすみ」という優しい声を聞いた気がした。
両親を失い壊れかけた俺を救ってくれた雪。
出会ったあの日から、何度もくじけそうになる俺をいつも側で支えて、護ろうとしてくれた雪を、今度は、俺が守るから。
ゾンビになんて負けないし、黒幕にだって、きっと奪われたりしない。
だから、ずっと側にいて、一緒に笑っていてくれよな。
読んでくださり、ありがとうございました。
天翔くんのあれこれ(笑)
本当に同じ年同士ならかなり重たい子でしょうが、雪君中身は還暦親父(しかも子持ち)なので、お父さんな気持ちでしっかりと支えてくれる事でしょう。
今回も性別で真面目に悩みましたが、ここで女の子にしちゃうとマジで桃色空気の下手したらムーンコース。うん、ダメダメ。と、自重しました。
自重して、あれかと(笑
パラレルな雪ちゃんは私の脳内だけの楽しみとしときます( ̄+ー ̄)