③
ひとまずおしまいです。
「天翔、そこから直進して次の角に2体潜んでる。カウントするぞ、5・4・3・2・1・GO!!」
複数並んだモニターの前指示を出す俺に、画面な中を走り回る天翔が反応して襲ってきたゾンビを叩っ斬る。
「花梨、後方窓より犬のゾンビが飛び込んでくる。構えろ」
「オッケー!」
天翔の後ろを走っていた少女が、その体に庭似合わぬ大型機銃を構え、窓を割って飛び込んで来た獲物に向かいぶっ放す。
それを横目で見ながら、俺は指を走らせ次々とモニターの中の映像を切り替えていく。
ハッキングしたビルの監視カメラを駆使して、天翔達の路を捜しているのだ。
「次の角を右に曲がってすぐの部屋に飛び込め。そこで10分の休息だ」
「分かった」
少し荒れた呼吸の中天翔が短く頷き、指示された扉に飛び込んだ。
良し!
やあ、良い子も悪い子もこんにちは。
「オッドアイの美少年」事、雪君です。
現在、あの出会いの日から8年が経過し、ピチピチの15歳になりました、っと。
現在、敵の実験施設の1つを攻撃中。
え?ストーリー開始は17だったんじゃ無いのかって?
そこはほら、知識チートって奴で。
漫画世界では判明していなかった大元ってやつを必死で探したんだよ。
もう、吐くほど前世の、というか漫画のストーリーの記憶を思い出して、ヒントを探したんだけど、そこが1番大変だった気がする。
いや、だって考えてくれよ。
漫画読んでたのが高校から20位で、死んだのが還暦過ぎ。
あんた達40年前読んだ本の内容詳しく覚えてる?
大まかな流れは憶えてても細部までってなると怪しいだろ?
まぁ、命かかってると人間なんとかなるもんで、頑張ったよ、俺。
超!頑張った。
何度か知恵熱出しつつも話の流れを紙に書き出し、ついでに爺ちゃん神父とおばちゃん先生にも全部話して味方にしつつ(過去編であった天翔が養子先に引き取られる流れを、起こる前に全部話しておいたんだ。実際起これば、俺の記憶が正しいってなるだろ?)、身体能力や知力のアップをはかる。
さらには将来的に仲間になる人物を先に見つけ出し、こちらも口八丁で丸め込み仲間に。
前世で営業職頑張ってて良かった。
プレゼンテーション、マジ大事!
で、引き入れましたる仲間。
1、将来、天翔のクラスメイトになるはずだった女の子その1。弓道道場の娘。
2、将来、天翔のクラスメイトになるはずだった女の子その2。親が軍事マニアで、本人も影響バリバリ(さっき銃ぶっ放してた子だ)
3、近所の町工場のオッサン。自称発明家。
4、将来ゾンビだらけの街中で不良キャラとして会うはずだった男の子。
皆さん、漫画の中の重要キャラだっただけあって中々個性派ぞろいでした(遠い目)
例の漫画が、キャラの過去を赤裸々に振り返ってくれる系で良かった……。
それに、孤児院の面々を加えて、ゾンビ対抗チームの出来上がり。
あ、ちなみに天翔の奴は、母親が金持ちの令嬢で反対されて駆け落ち、のお約束コンボだった。
無事、爺さんに引き取られ、漫画の中では想いがすれ違ってギクシャクしてた仲も、こっちでは無事に和解。
おかげで資金源はバッチリ。
金と暇を持て余してる年寄りって最高だね〜。
そんなこんなで、漫画の中では行き当たりばったりに作り出していた対ゾンビの道具も手段も、吟味に吟味を重ねパワーアップ。
様々なゾンビキャラの弱味もバッチリ思い出したんで、そこの対策もバッチリ。
更に、鍛えれば鍛えるだけサクサクレベルアップしていくチートな頭と体。
コレで勝てなきゃ嘘でしょ。
あ、残念ながら俺は頭脳特化型だったみたいで、体鍛えてもあんまり反映されなかった。残念。
うん。漫画の中であんな感じだったし、まぁ、そうかな〜とは思ってた。
良いんだ。最低限自分の身は守れるくらいにはなれたから。
くやしくなんかないやい!
で、思い出した記憶を仲間で吟味し、天翔の爺ちゃんの権力もかりて、どうにかゾンビが街に溢れ出す前に原因発見したのが、ストーリー開始の2年前。
つまり、今だった。
対抗準備は整っていた俺たちは、話し合った結果、サッサと大元の1つを叩く事にしたんだ。
そもそも、始まりは中堅どころの化粧品会社の研究所。
シミシワ取りの研究からどこをどう間違ったのかゾンビウィルスの大元が出来た。
細胞の活性増強してシミの元になるメラニンを排除するだの何だの、詳しい事はよく分からない。
おばちゃん先生の目の色が一瞬変わったのは気のせいと思いたい。
いつの時代も女性は美容の話題に敏感だ。
まぁ、何事もやりすぎはいかんって事なんだろう。
もっと劇的な効果をと追求し続けた結果、活性化しすぎた細胞は暴走し、投与したマウスを殺してしまった。
そこで、どんな変質が起こったのかは正に神のみぞ知るってやつで、確かに死亡確認したはずのマウスが復活した。
そして、丁度廃棄処分をしようとしていた研究者が噛まれ、後はおきまりのパターン、だ。
不幸中の幸いは、その会社がちゃんとバイオハザード対策が出来ていた事。
キチンと問題のウィルスを隔離できた会社の上層部は考えた。
「コレ、うまく使えば売れるんじゃない?」
はい、アウト〜!
海外の怪しげな地下組織が介入した時点で、その会社の命運は終わってたんだろう。
一部の研究員を残し、一族郎党社員の家族に至るまで、哀れウィルスの実験という名の虐殺の憂き目に遭った。
………そんな現場が、現在俺たちが攻略しようとしている現場です、っと。
頭脳特化型の(←ここ重要)俺は後方支援として、会社のセキュリティシステムをハッキングし天翔達を潜り込ませた後は、ひたすらにいたるところに仕掛けられた監視カメラを駆使して指示を飛ばしているんである。
既に研究所としての役目を終えた施設の中、大量につけられた監視カメラでゾンビ達の行動の観察のみが行われていた。
そんな「終わった施設」に潜り込んだのにはキチンと訳がある。
厳重に組まれた対策プログラムをくぐり抜けてハッキングした先のカメラ映像。
天翔のグロ耐性向上の為一緒に漫然と眺めていたんだが、違和感を覚えたんだ。
気にしなければ些細なもの。
でも、一度気にしだしたら、凝り性の俺としては放っておけず、過去1週間の映像を繰り返し見た結果、ある1区画の映像が巧妙に細工されている事に気づいたんだ。
何かある。
もしかしたら、生存者?
少なくとも、そうまでして護ろうとした何か。
「天翔、花梨、行けるか?」
インカムに向かい話しかけると、グッタリと座り込み肩で息をしていた2人が顔を上げた。
本当はもう少し休ませてやりたいけど、残念ながら時間制限があるんだ。
いくら「終わった施設」だとしてもゾンビ達がいる以上極秘の施設であるには違いない。
異変があれば爆破するプログラムが組まれてるんだよな……。
本部に送られる監視カメラ映像は念入りに作り込んだ物が1時間分、繰り返し流れているから多分大丈夫。
ただ、この施設に設置されたメインコンピュータが曲者で、俺の組んだ妨害プログラムが押さえ込んでおけるのが試算上は2時間弱。
それが過ぎれば、下手すればあっという間に大炎上だ。
そうなると、天翔達を救い出す手は無い。
ゾンビ共々お陀仏だ。
『大丈夫、行ける』
立ち上がり、軽く柔軟をしながら天翔が答える。
「ん。防護壁動かして暫くはゾンビに遭わないようにしたから」
モニター越しに見守る事しか出来ない自分の立場が少し歯痒くはあるけれど、俺があそこに行っても足手まといにしかならない。
そんな事は身に染みて分かっている。
どんなに努力しても俺の運動能力は一般人の枠を超える事はなかった。
俺には俺の役割があるんだと割り切っていても、こういう時、ヤッパリ焦燥感に襲われる。
だって、実際に命を懸けているのは天翔達、実働隊だ。
『ありがと。頼りにしてる』
そんな俺の焦燥感を知ってかしらずか、天翔はそんな事を呟くと扉を飛び出して行った。
ちくしょう、主人公め。
タラすタイミングを心得ていらっしゃる。
少し熱くなった頬を気づかないふりをして、俺は指を動かし続けた。
そうして、オレ達の最初の戦闘は始まり、どうにか死人を出すことなく、無事に終わった。
と、言っても、脱出時に下手こいて施設は大炎上。
折角隠密行動を取っていたのに、相手に「自分たちの敵がいる」と知らしめてしまった。
ちなみにやらかしやがった花梨のアホは、おばちゃん先生の説教&厳罰の刑に処してやった。
だが、そうまでしても潜入した甲斐はあった。
最初にウィルスを発見した研究者が潜んでいたのだ。
しかも、籠城していた部屋で、ひっそりと研究を続けていたそうで、ゾンビウィルスの抗体を発見していたのだ。
最もマウス実験までしか出来ていなかったので、人体に効果があるかは不明。
「一応、自分で検査してみるのも考えたけど、万が一があった時対応できるスタッフがいないと無駄死にになるしねぇ〜」
どことなく緊迫感の無い口調の20代の研究者は、会社の創立者の落とし胤でもあったらしい。
いわゆる「愛人の子」で表舞台には一切出してもらえず、知能指数が高かった為、研究施設の片隅に軟禁状態で暮らしていたそうだ。
「まぁ、おかげで誰にも気づかれずに、生き延びられたんだから皮肉なもんだよね〜」
少しやつれているものの、しっかりとした受け答えをする男は、皮肉気に呟き肩を竦めた。
色々と思うところはあるんだろう。
とりあえず、初陣は上々。
相手方にこっちの存在が薄っすらばれたのは痛いけど、そこは、この活動を続ける限り遅かれ早かれバレることだ。
せめて身バレがしないように極力気をつけよう。
「やっぱり、天翔達に仮面でもつけさせるかな?」
「止めてくれ」
パソコンに向かいつつボンヤリとつぶやけば、背後から嫌そうな声が降ってきた。
椅子の背もたれに身体を預けて背後を仰ぎみれば嫌そうな天翔が立っていた。
「なんで〜?良いじゃん、正義の味方っぽくパワーアップスーツみたいなのを開発してさ〜」
にんまり笑いつつ言えば、ペシッと頭を小突かれた。
暴力反対。
「疲れてんじゃねぇの?」
2時間近く走り回りながら、初めて実際のゾンビと闘ったんだ。疲労はマックスだろう。
現に花梨の奴は食事の時からウトウトしていた。
「………夢に見そうでさ」
しばしの沈黙の後、ポツリと返事が返ってきた。
「あ〜〜〜、な。そりゃそうか」
対ゾンビを想定して8年間、準備はしてきた。
でも、シュミレーションと実際は違う。
臭いも感触も。視覚だって、モニター越しと実際に見るのじゃ天と地の差があるだろう。
グルリ、と椅子ごと振り返り天翔を見上げる。
現在自室でくつろいでいた為、義足は外してて立ち上がるのは面倒だ。
目の前に立つ天翔の顔はずいぶん高いところにあって、デッカくなったなぁ、と思う。
出会った頃にはなかった体格差に少し悔しくなりながらも、手を引き膝まづかせると、頭を抱え込んだ。
「………お疲れ〜。怪我なくて、良かった。無事帰ってきてくれてありがとうな」
少し硬い髪を撫で回しながらそういえば、腰のあたりにぎゅっと腕が巻きついてきた。
見た目の割に繊細で色々溜め込んでしまうこいつと大雑把でお気楽主義な俺、足して二で割れれば丁度良いのにな。
大型犬と飼い主、と花梨達にからかわれた事を思い出してひっそりと笑う。
と、余計な事を考えたのがばれたのか腰に回る腕に力が込められた。
「しょうがないなぁ。悪夢に魘されてたら起こしてやるよ」
言外に一緒に寝てやると伝えれば、そのまま抱き上げられた。
あぁ、パソの電源落としてないのに………。
まぁ、今日は諦めるか。
ベッドに横になって仕舞えば身長差なんて関係無い。
抱き枕よろしくぎゅうぎゅうにしがみついてくる天翔に笑いながら、胸元に押し付けられた頭を撫でてやる。
まだ、全ては始まったばかりだ。
俺たちが散々引っ掻き回したおかげで、これから戦いがどう転んでいくかはすでに未知数。
だけど、負けるわけにはいかない。
だってこんなにも守りたいものが沢山あるんだから。
「おやすみ」
小さく呟くと、俺は手を伸ばして照明を消した。
読んでくださり、ありがとうございました。
ずっと同じ話書いてると、ふと、まるっきりカラーの違うもの描きたくなる時、ありますよね〜。
という、作者の移り気より産まれたこのお話。………続きません。たぶん(笑)
短編として出しても良かったんですが、いつもの癖で5千字で分けた結果、結合の仕方がわかりませんでした……(汗)
ま、一気に出したし、良いよね?!
ちなみに、最後の下りで雪君を女の子にしたい衝動に駆られてしょうがありませんでした。元おっさんの厨二外見転生美少女(しかも俺っ子)とワンコヒーローって、萌えませんか?私だけでしょうか?
雪君的には息子な意識です。
中身還暦なおっさんですから。
ちと、言動が幼くはしゃいで感じるのは体につられた結果と思ってください。
この先に行くとホラージャンルに移動しなきゃいけなくなるので、ここで終了です。
非常に楽しく書かせていただきました。
お付き合いくださり、ありがとうございました。