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本日2話目、です。
みなさんこんにちは。
突然蘇った前世の記憶に翻弄されるいたいけな金髪オッドアイの少年Aです。
自分で言っててなんか凹むな。
自虐はやめよう。
レッツ健全な精神。
例え未来はゾンビ溢れるヤるかヤられるかの弱肉強食な不健全な世界だとしても!
……うん。真面目にやろう。なんか悲しくなってきた。
前世の記憶に脳みそジャックされ高熱出してぶっ倒れてから3日。ようやく情報処理が終わりに近づき、体調も落ち着いてきた。
なんというか、特筆する事も無い平和な人生を送ってたみたいだな、前世の俺。
そこそこの大学行って、中堅の会社に勤め、結婚して家族を持ち、良いお父さんと言われながら休日は子供の為に使う。
可もなく不可もない、平凡だけど幸せな人生。
最後に飛び出した幼児を助けて事故死ってとこくらいか?特筆する点なんて。
だけど、その平凡な人生が今の俺には喉から手が出そうなくらいウラヤマだがな。
100歩譲って孤児なのはともかく、ゾンビと闘ったあげく自分もゾンビ化する未来なんて嫌すぎる……。
(結局、そこに戻ってくるんだよな……)
ベッドの上でゴロゴロしていた俺は、ため息と共に体を起こした。
(どうするかなぁ、これから)
発熱していた後の体は、なんだかだるくてスッキリしない。
なのに、頭だけは妙にクリアだ。
「とりあえず、よく似た世界だって可能性だって捨てきれないわけだし、そこら辺を検証しつつ役に立ちそうな技術を磨く、って感じか?」
と、言っても現在の俺はしがない7歳児。
出来ることは限られてる。
「主人公はどうすっかなぁ?スペックは高いだろうし、出来るなら早くから仲間に引き込んで、死亡確率減らしたいけど……」
確か主人公は幼い頃から剣道を習ってて結構最初から強かったんだよな。
ただ大切な人を亡くしたトラウマから、あまり人と深く関わろうとしなくて、事が起こるまでは誰ともつるむ事なくクラスで孤独を貫いていた。
記憶の中の世の中を拗ねた様な瞳は、実際に会った幼い主人公とリンクする。
本人なんだから当然なんだろうが、前世で子持ちだった記憶を思い出した俺としては「ガキがあんな目をしてたらダメだろ」と心がさわぎだす。
親を亡くしたばかりの子供に直ぐに笑えと言っても無理だろうけど、独りに怯えるあまり全ての人を拒絶しようとするのは間違ってるとしか思えない。
もし、自分が死んだ後に自分の子供がそんな風になっていたらどんなに辛いだろう。
「よし。積極的に関わる方向で。で、出来るならこの世界の事を話して巻き込んじまおう」
決心すれば、途端に眠気が襲ってくる。
それに抗うこと無く目を閉じると体から力を抜いた。
とりあえずは、体力を戻すのが先決だ。
ぐぅ。
目が覚めた。
真っ黒い目が覗き込んでて、思わず固まった俺は悪く無いと思う。
「………おはよう?」
「ん」
思わず挨拶すると重々しく頷かれた。
そして、そのまま無言で踵を返すと、静かに扉から出て行った……のは、主人公殿でした。
うわぁ〜、びびったぁ〜。
現在俺は療養中ということで静養室に隔離中だ。
何しろ普段暮らしているのは6人部屋でいつでも騒がしいため、ゆっくり休むのは不可能なのだ。
うつる病気では無いのだろうが、原因不明でもあるため問答無用でここにたたき込まれた。実際は単なる知恵熱なので申し訳ない。が、助かった。
元気な人間が許し無くこの部屋に入るとおばちゃん先生の容赦ない鉄槌が下るので、傍若無人なちびどももここにいる限りは近づいてこない。
まあ、賑やかなのになれちゃってるせいでここまで静かだと逆にさみしく感じるんだけどな。
つまり、あいつがここに居たって事はちゃんと許可を取って入りこんだって事だ。
何のために?
1.看病
2.興味本位
3.ここ来ばっかで居場所無いから暇つぶし
・・・・・・・・・3番だろうな、たぶん。
年上の奴らは学校行ってる時間だし、チビどもに纏わり付かれてかいがいしく相手してやる気分でも無いだろう。
同じ年だから本来なら小学校だろうけど、手続き終わってないか、終わってても微妙な時期だしフォロー役の俺が復帰してから行かせるつもりなんだろう。
って考えると、俺のせいで学校行けないのか?そりゃ、すまんかった。
つらつらとそんなことを考えてたら、おばちゃん先生がおかゆ片手に戻ってきた。
本日は、シンプルに梅粥か。熱も下がったし、そろそろ肉食いたい。
「先生、あいつは?」
黙々と病人食を食べ終わり、渡された体温計を挟み込みながら尋ねれば、ニカッと笑顔が返ってきた。
「昼食の片付け手伝ってるよ。お家で良い躾けされてたんだろうね。アンタのこともちょこちょこ様子見に来てたよ。たまに隅っこでじっと考え込んでたりもするけど。チビどもに纏わり付かれても、ぎこちないながらも相手しようとしてるし」
てきぱきと体を拭いたり着替えを手伝ってくれたりと俺の世話を焼きつつも、知りたかった情報を教えてくれる。
「あれ?思ったより落ち着いてる?」
もっと荒んでるかと思ってた。過去の描写は、そんな感じだったし。気がつくとどこかに隠れて1人になろうとするのを、俺が探しに行く……みたいな。
「まあ、あまり目を合わそうとはしないし言葉は少ないけどね。落ち着きすぎてて、後で反動が来るんじゃ無いかと神父様とも心配してはいるんだけど………」
「そっか……。俺も、もう大丈夫だし、気をつけとくよ。だから、もう部屋に戻って良い?」
熱も下がったし、ぐっすり寝たら体のだるさも消えた。
何よりもうおかゆ飽きた。固形物食いたい。
むんっと力こぶを作って主張してみると、おばちゃん先生に盛大に笑われた。
「ご飯がいやになっただけでしょ。よかったね。今夜は唐揚げだよ」
「シーツ変えとくね、先生」
いそいそとベッドから起き上がる俺にさらなる笑い声が襲ってきたけど気にしない。お粥攻撃に晒されていた俺の体は切実に肉を求めているのだ。
「後で台所おいで。味見させたげるから」
シーツを引っぺがしている俺の頭をぽんっと軽くたたいておばちゃん先生は部屋を出て行った。
先生、マジ神!
「お前さ、なんで俺の顔見た途端「マジか」って叫んだんだ?」
シーツをたたんでいそいそと部屋に戻ると探るような黒い瞳にお出迎えされた。
ちなみにチビどもは昼食後はお昼寝タイムのため静かなもんだ。
あ~そういや、叫んだな、俺。すっかり忘れてた。
初対面でそんなこと叫ばれりゃ、そりゃ~気分悪いよな。
「あ~、悪かったな。ちょっと熱でおかしくなってたんだよ」
へらりと笑ってごまかそうとするけど、探るような黒い瞳は瞬きもせずじっと俺を見つめている。
「・・・・・・・ちょっと、今から変なこと言って良いか?」
見つめてくる瞳に居心地の悪さを覚える頃、ぽつりと天翔が口を開いた。
「なに?」
「・・・・・・・・・終末世界ライフ」
ぽつりと呟かれた言葉の破壊力は俺しか分からないだろう。
ビキリと固まって何の反応も返せない俺をどう思ったのか、天翔があきらめたような顔で視線を下に落とした。
「何でも無い、悪「ちょっと待った~~~!!!」
踵を返そうとした天翔の手を俺は慌てて掴んで引き留めた。逃がしてたまるか!
「お前も記憶もちか!?」
叫ぶ俺にきょとんとした後、天翔は無言でガシッと抱きついてきた。
僅かとはいえ自分より体格の良い相手に勢いよく抱きつかれ、バランスを崩した俺は盛大に倒れ込んだ。
「いってえ~~」
「悪い!つい!」
尻から背中を思いっきり打ち付け痛みにうめくと、天翔は慌てて体を離し、俺の上体も引っ張り起こしてくれた。
至近距離で見つめ合った瞳は涙で潤んでいた。
「おれ、ずっと独りで・・・訳わかんなくて・・・・・・」
そのままぼろぼろと涙をこぼして号泣し始めた天翔を、俺はとりあえず無言で抱きしめた。
天翔君の言うことにゃ。
記憶が戻ったのは両親の遺体と引き合わされた時らしい。
『天翔』の幼い心が両親の死に耐えられなかったのだろう。
で、そんな場面で前世の記憶が戻り、人格が上書きされたことで両親の死のショックは薄れたものの、今度は自分の立ち位置に気づき、別の意味で混乱したという。
ま、気づけば漫画の主人公になっていました、なんて混乱するなって方が無理だよな。しかも、こんな世界だし。
発熱しながら、うわごとのように「ゾンビが~」やら「漫画の世界が~」やら叫びまくったらしいが、そこは、幼い子供が言うこと。親の死のショックに耐えられなかったのだろうと安定剤を投与され手厚く保護観察されたそうだ。
このままじゃ病棟に監禁の危険を察知し、慌てて不要な発言を控えたものの、引き取って貰える伝手は無く、ある意味予定通り孤児院に入ることになった先で俺の「マジか」発言。
もしかしてと希望に燃え、今に至るらしい。
「あ~、大変だったな」
泣き声に気づいて飛んできた職員に「大丈夫だから」と2人にしてもらい、泣き止んだ天翔が怒濤のように喋る話をひとしきり聞き終わった後、俺は、労いを込めて頭をよしよしと撫でてやった。
最初から孤児院しかなかった俺と違って、一気にいろんなものを無くしてしまった天翔は混乱も大きかっただろう。
「それもだけど、実は、俺この漫画の内容そんなに詳しくないんだ。主人公が剣道やってるからってその繋がりで友達が貸してくれたんだけど、グロいの苦手で、話しについて行ける程度にさらっと読んだだけだったんだ」
内容、必死に思い出したけど、と肩を落とし疲れたように語る天翔にマジで同情しか感じない。
グロ耐性低いのにこの世界とか、マジ最悪じゃ無いか。
一応少年誌だったけど結構リアルな描写に年齢規制かけた方が良いんじゃ無いかと物議を醸し出していたからな。
「それでよく自分がそうだって気づけたな」
「・・・・・・名前が同じだったし、過去の回想で出てた場面だったから」
察するにグロくないからちゃんと読めた場面で覚えてたんだろうなあ~
思わず生温かい目で見てしまった俺に気づいて、天翔がばつが悪そうにそっぽを向いた。
「・・・・・・・・・泣いてないからな」
泣いたんだな。
語るに落ちてるぞ、天翔。
さらに詳しく聞けば、天翔は大学受験に向かう途中スリップ事故に巻き込まれて死んだらしい。
うん、自分の子供より小さい子からかっておじちゃんが悪かった。なんかすまん。
「そんなだから、俺、この漫画の結末知らないんだよ。どうなるんだ?」
「それがさ~この漫画、厳密には完結してないんだよな」
尋ねられて、俺も困ったように首をかしげて見せた。
「は?なんで?打ち切り?」
「う~ん、ある意味?
人類が集まって生活している『楽園』まで無事にたどり着いて一部完。
その続編が出るって話だったんだけど、作者が不慮の事故だか自殺だかで死んじゃって、そのまま出なかったんだよ。
だから、なんでゾンビ化が始まったのか、とかの肝心の所は不完全燃焼なまま」
「マジで?」
「おう。マジで。いろいろ憶測は出たけど、公式には何も無し」
唖然とする天翔に重々しく頷いてやると頭を抱えられた。
「それじゃ、ゾンビが出てくる前に先回りして大元を叩くとかは………」
呻くような声に感心する。
そんな所まで考えてたのか。まぁ、敵の数が増える前に大元叩いた方が楽だわな〜。けど……。
「難しいかもな。何しろ黒幕も相手の本拠地も不明だし」
「じゃあ、どうすんだよ。漫画通り動けってか?雪、死んじゃうじゃん!」
泣きそうな声で叫ばれた。
あ、俺の心配してくれてたんだ。会ったばっかりなのに、良い子だねぇ。
「確かにゾンビ化は俺も遠慮したいし、取り敢えず俺たちの身体能力上げつつ仲間増やす。で、心当たりも探ってこうか」
まぁ、より良い未来を目指すのは生物の本能だし、俺達がここにいる時点で、本来のストーリーからズレるのは諦めてもらおう。
だって死にたく無いし。
「期待してるぜ、主人公様。本編開始までにガンガンレベル上げてこうな!」
「………おう!」
笑顔でふれば、力強く頷かれた。
じゃ、いっちょ死亡フラグぶち折りますか!
読んでくださりありがとうございました。