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ゾンビになんてなってたまるか!  作者: 夜凪
エピソード1〜そして始まる
12/14

オヤジ無双第2弾です。


あの後、通風孔のたて穴2階分を登り切った。

行けるならいっそ屋上までと思ったのだが、体力的な問題もあり断念だ。

握力低下で足を滑らされても困る。


2階屋根裏部分から下を覗き、ゾンビがいないのを確認。

そのまま動かない様に指示を出し、滑り降りたのはどこかの飲食店の個室の1つだった。

中央に丸い中華テーブルがあり、人影は無い。

地元出身のサラリーマンの話じゃ、2階にある高級中華の店、らしいが知ったことか!

今は俺たちが食材にされそうになってる瀬戸際だ。


ちなみに現実把握として、声を立てない様に厳命し下の状況を見せた。

そう。ゾンビさん達のお食事風景ってやつだ。


女子供には見せられないとは思っても通っている場所が場所だ。

四つ這いで進んでれば、自然に目に入ってしまう場面もある。


一応、目を閉じて越える様に指示は出したが、ほとんどの人間が見てしまったのだろう。

顔色がすこぶる悪い。

好奇心は猫をも殺すとはよく言ったもんだな。


青白い顔でへたり込む一同の中、何もわからない幼児だけが無邪気だ。

小さな子は母親に幼児サイズは男の背に担がれての移動だった。


緊張状態でも人の体温に包まれていると眠くなるものなのだろうか?

大半がスヤスヤと夢の中で驚く。


子供って以外と逞しいんだな。

泣き声で気づかれても困るんで、是非そのまま寝てて貰おう。


最悪口を塞がないといけなくなるんで、それは気が重いし。


「………このまま、ここに居るのか?」

背中に子供を乗せたままサラリーマンの男が近づいてきた。


「いや、出来れば通風孔の無い部屋に移動したい。万が一があっても、困るからな」

ちらりと移動してきた穴を見上げる。


先程の壁越しの音を思い出したのだろう。

男の顔色がさらに悪くなった。


「壁が破られたと思うか?」

「分からん。だが、最悪を予想しておいたほうが生き延びる確率は上がるもんだ」

扉に耳をつけ、外の様子を伺う。


「この店のオープン時間は分かるか?」

「………11時だったと思う」

「じゃぁ、居るとして従業員………と、その他か」


軽く柔軟をして関節や筋肉を伸ばしていく。

「良いな?とりあえず店内の見回りをして戻ってくる。その間扉を開けるな」

警棒を伸ばし、男に渡す。


「子供は別のやつに預けとけ。俺が戻るまでに何かあれば、お前がみんなを守るんだ」

「………風間だ」

表情を引き締めた男が警棒を受け取りながら小さく名乗った。


それにクスリと笑いが漏れる。

「あぁ、俺は堤だ。頼んだぞ、風間」


扉の前で深呼吸。

銃は手に持たず男達から奪ったフォルスターに納めてある。

移動しながら思い出したゾンビ映画の記憶。


有効打撃は頭の損傷。もしくは脊椎の破壊。

音に敏感で集まってくる。

動きは基本スロー。ただし、変異体がいた場合は要注意。


「映画の中ならまだ序盤。やばいのはいないだろう」

口の中でつぶやいてみる。


まぁ、すべては絵空事の中の対処法で現実にそれが通用するかは不明。

今まで会ったことの無い敵に、背筋をゾクゾクしたモノが駆け抜けていく。

自分の唇がユックリと弧を描くのを感じた。


「戦闘狂」と最初に俺を呼んだのは誰だったか?

命を賭けた闘いにたまらないスリルを感じる俺が、規律と秩序を重んじる自衛隊の中に納まりきれなかったのは当然だった。


「カウント3で出る。直ぐに閉めろ。バリケードは作るなよ?自分たちを閉じ込めることにもなるからな」

背後で固唾を飲んで見守る視線にもう振り返らない。


自分が凶悪な表情をしている自覚くらいはあるからな。

つぶやく様なカウントの後、俺はスルリと扉を抜け出した。





パタン、と静かに扉が閉まる。

ガチャリと施錠の音を確認して、俺は足を踏み出した。


赤い絨毯の敷き詰められた店内は、いかにも中華屋な装飾だった。

俺が出てきた扉の両側にそれぞれ2つづつ扉が見える。


廊下の片方は突き当たってトイレらしきマークの付いた扉。

反対側に進めば、たぶんテーブル席のある広いホールなのだろう。


そうして、俺の耳はホールの方からカタンカタンと何かが当たる様な微かな音を拾っていた。

音を立てない様にユックリとホールに向かう。


(はっ、お食事中か)

漂ってくる鉄錆の様な香り。

クチャクチャと何かを咀嚼する音。

平素なら胸糞悪くなるだろうそれらも、自然と戦闘モードに切り替わっていた俺には響かない。


幾つも置かれたテーブルの影にそいつらはいた。

(2体、か)

初戦としては無難な数だろう。

出来れば音を立てずに静かに、が理想。


(チッ、ワイヤー欲しいな)

首を落とすにはぴったりの暗器を思い浮かべながらサバイバルナイフを手に持った。

弾数に制限がある銃は出来れば温存したい。


(よしよし、そのままお食事に専念しててくれよ?)

うつむく背中と横顔。

地面に置かれた獲物に顔を突っ込む様にしている為、その姿はひどく無防備だった。


最後の3メートルの距離は一気に駆け寄った。

反応すらできなかった背中を向けていたゾンビの首筋に思いっきりよくナイフを突き刺した。


ゴキリと骨を切断した感触を感じ、そのまま横に振りぬいた。

半分以上首を切断され頭が横を向いたゾンビの体を蹴りつけた所で、もう一体のゾンビが襲いかかってくる。


「おせえ」

真っ直ぐに突進してくる体を半身を引くことで避け、晒された首に一体目と同じ様にナイフを突き刺す。


と、視界の端に何かの影が映り、咄嗟にナイフを手放して背後に飛んだ。

その瞬間、それまで俺のいた場所にゾンビが飛びかかってきた。

テーブルの影にいて見えていなかったのだろう。


舌打ちと共に慣れた体は銃を抜き、ゾンビの頭部を撃ち抜いていた。

続けざまに3発。

脳漿を撒き散らして動かなくなったゾンビをしばらく睨みつけた後、足で転がして、手早く刺さったままのナイフを回収した。


「勘が鈍ってるか?」

現場を離れてまだ半月だというのに、敵の把握を怠るなんて初歩的ミスをした自分に舌打ちをする。

テーブルを倒してしまった為、結構な音がしたが、幸いにも聞きつけたゾンビはいなかった様だ。


ゾンビの「お食事」はチャイナドレスを着た若い女性だった。

そっと手を合わせてから、こちらも脊椎を切り落としておく。

復活されたら堪ったものではない。


同じく調理場の方にも食い散らかされた男性の遺体があった。

コッチは分からないまでも抵抗しようとしたのか、調理場はめちゃくちゃになっていた。


大きな中華包丁を硬直した手から引き剥がす。

人体に切りつけることに抵抗があったのだろう。刃には刃こぼれもなく綺麗なままだった。


「まぁ、普通の人間じゃ、無理だよなぁ……」

なんとなく手を合わせてから、2度と起き上がることのない様に処理をして、俺は、残る個室とトイレを確認して回った。


幸い、そのどこにもゾンビも犠牲者の姿もない。まだ早い時間だったし、2人だけだったのだろう。

隣の部屋が幸いにも10センチ四方の小さな換気口のみで人が入る余地はなさそうなのを確認し、元の部屋に戻る。


「俺だ」

小さく呼びかければ、すぐに扉が開かれた。

「隣の部屋に移動する。ついて来い」

短く告げれば、ゾロゾロと大人しく付いてきた。


厨房から拝借してきたペットボトルの水とそのまま食べれそうなハムの塊、炊きたてだった炊飯ジャーなどを手渡す。


「食えそうなら食っとけ。食えなくても水分 はとれよ」

生ハムはさすがにダメだろうと自重したのだが、ハムも微妙だったらしい。

タンパク質は大切だと思ったんだが。

どうも感覚が一般とは狂ってるみたいだな。


辛うじて米はありだったみたいで、子供達に塩だけのおむすびが配られていた。

大人はさすがに手が伸びない中、あえて1つ貰い頬張る。


米の甘みと塩加減が絶妙だな。

米を喰うと自分がこの国の人間だったんだな、と感じる。


贅沢を言うならば、梅干しか干物が欲しい。

これを切り抜けたら中里のオヤジに絶対に用意させよう。


大きめに握ってもらったものを1つペロリと平らげ、水を流し込んでひと息。

「この店の中は、取り敢えず、安全を確保した。

表のガラス戸はブラインドを閉めたから中の様子は見えない。大きな音を立てなければ、奴らの興味を引くこともないだろう。

トイレは扉を出て右の突き当たりだ。何かあったときのために数人で行くことを勧める」


ちなみに死体も外に放り出してきた、が、コレは言わないほうがいいだろう。

たとえ荒れた雰囲気と血痕で何かあったことはバレバレだったとしても。


「………堤さんはどこかに行く気なのか?」

俺の言葉に何かを感じたらしい風間が不安そうな顔で聞いてくる。


「あぁ、駅の中はどうもなんらかの妨害がされてるらしく携帯が使えねぇ。外では可能か試してくる」

俺の言葉に、何人かが自身の携帯を取り出し操作している。

今まで、逃げるのに精一杯で思いつきもしなかったのだろう。


「置いていくのか?!」

誰かの悲鳴のような声が響く。

「現状、ここに閉じこもっても進展はねえ。今は良くても此処じゃ、籠城するのも3〜4日が限度だ。助けを呼ぶにも電波が通じなきゃどうにもならん」

あえて坦々とした口調で返す。


この訳のわからない状況で安全をくれる俺が居なくなる恐怖は分からんでもないが、このままじゃどん詰まりだ。


黙り込んだ誰かに向かいにっと笑ってみせる。

「外に出てみて電波が通じるか確認するだけだ。通じれば、此処にいることを伝えることもできる。ダメならまた次の手を考えればいい。どっちにしろ、戻ってくる」

それから、ふと思い出してピシッと背筋を伸ばし踵を合わせた。


「我々は国民の盾になり護るために存在している。その為に歯を食いしばって身体を鍛え、技術を磨くのだ!」

突然の俺の言葉にキョトンとした空気が流れた。

チッ、滑ったじゃねぇか、クソ教官め。


「……ってのが、俺を鍛えてくれた教官様のありがたいお言葉だ。安心して守られてくれ」

続ければ、少しホッとした空気が流れる。


まぁ、とっくの昔に脱退してるんだけどな。

嘘も方便。

教官様のしごく為のお綺麗な言葉も、こんな時には役に立つ、か。


「この中で剣道や武術の経験者はいるか?」

何人かがちらほらと手を挙げる。


「慣れてないのに刃物を持つほうが危ない。何かあったら首を狙え」

モップやデッキブラシの柄だけにしたものを3本渡せば、顔を見合わせた。


「ま、保険だ。外に出るついでに付近にいるヤツらは極力減らしとくから」

なるべく気楽に聞こえるように、軽い調子でそういえば、不安そうな顔ながらも何人かが頷いた。


表の扉を閉める為に、と風間が付いてきた。

ホールに足を踏み入れれば、イヤでも異臭や血痕に気づく。


眉をしかめるものの、何も言わない風間の胆力に感心した。

本当に、肝が据わっている。


「じゃ、行ってくる。いいな、静かに、極力動かずにいろ。俺の予想じゃ、そう遠くないうちに救援の手が来るはずだ」


こちらから連絡が取れない以上、あっちからの電波も届いていないはずだ。

中里のオヤジがそろそろなんらかの手を打ってることだろう。


「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

軽く片手を上げ、俺は中華料理屋の扉を出て行った。






読んでくださりありがとうございました。


なんかその気になれば、この人1人で2階の掃除くらい出来るんじゃないかと思えてきました(汗

まぁ、面倒なのでやらないと思いますが。


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