⑥
まだまだゾンビが出てきません。
ナゼだ………orz
駅ビル管理事務所内からこんにちは。
いゃぁ、なんとなく予測はしてたけど、駅ビルの中って監視カメラだらけなんだな〜。
結構な勢いでビル内を網羅してるっていうか。
さすがにトイレの中は入り口から洗面所だけしか映ってなかったけど。
あれから、予定通り、管理事務所を目指したわけだけど、ゾンビとの攻防は…………無かった。
風間駅ビルは地下1階地上3階で、地下と1〜2階がスーパーや飲食店、洋服屋にカルチャースクールなんかが入った商業ビルになっている。
で、3階は駅職員の事務所や駅ビルで働く人達の更衣室なんかがあって、一般の人は立ち入り禁止になっていた。
だから、異変が起きた時、気づいた瞬間非常階段のロックをしてしまえば、3階にいた人達は助かってるんじゃないかって、少し楽観視してた俺は、悪意というものが全く分かっていなかったんだろう。
少し考えれば分かりそうなものだ。
今時の電車の運行は、全てをコンピューター管理されている。
それがハッキングされていたら大騒ぎだろう。外への電波が繋がらなくとも、緊急時の対応というやつはしっかりとされているはずだ。
さらに言えば、電車がいつまでも不自然に風間駅で止まっていれば、他の駅から異変の確認が行われ、事はもっと早く公になっていたはず。
だけど、現実はそうじゃ無かった。
電車が「人身事故」で止まったのはたった1本だけ。
その後は、電車は通常通り動いていた。
風間駅から乗り込む人が居ないだけで。
そして、風間駅で降りた人達と2度と連絡が取れなくなっただけで………。
駅員に「成り代わった」もの達が素知らぬ顔で誘導していたから。
そして、改札内はもちろん、改札から駅前広場へと至る場所に異常は無かったから。
だから、幸運にも風間駅で降りることの無かった人達は、外で阿鼻叫喚の殺戮劇が行われているなんて気づきもしなかったってわけだ。
電車1本分の遅延時間に何が行われていたのか。
それは、ゾンビではない。
「人」による殺戮だった。
最初は、ここ。
管理事務所内にいた人々の殺戮。
花梨みたいに無闇に撃ちまくるんじゃない。
冷静に1人1発ずつ。
銃弾を撃ち込まれた死体が部屋の隅に押し込められていた。
そりゃぁ、ゾンビが居ないはずだよ。
だって、3階には自分たちしかいないんだから、わざわざ危険物放つわけ無い。
更衣室の人間は放っておけば勝手に下に降りていくし、下にゾンビを放った後はシャッター下ろして隔離完了だ。
後は安全な場所から高みの見物、だ。
どうせ逃げ道も確保してたんだろうけど、1人でもいいからゾンビの犠牲になれば良いのにと願ってしまった俺は性格が悪いんだろうな。
そして、次が改札事務室とホームにいた職員だった。
成り代り、スムーズに電車を通過させる。
町に異変が起こっているのが発覚する事を少しでも遅らせるために。
それだけの目的のために、たくさんの人達が死んだ。
ゾンビに襲われ苦痛の中死ぬのと銃弾で倒れるの、どっちがマシかなんて分からない。
分かりたくも、ない。
ただ、どちらにしてもあまりにも理不尽に死が襲いかかったってだけだ。
「中里さんの従兄弟、生きてる、かな?」
淡々と大人達が遺体にブルーシートをかける中、花梨がポツリとつぶやいた。
おそらく、駅の中にいた「奴ら」は、上空に俺たちのヘリが現れた時点で現場を放棄して脱出したのだろう。
コンピューター内にはご丁寧にも破壊ウィルスが仕込まれていたけど、アッサリと除去できた。
多分、非戦闘員を連れてくることを想定してなかったんだろ。
現状把握の為、監視カメラで生存者を探す傍ら過去の映像を呼び戻してみたら、さっきの状況をバッチリ観ちまったって訳だ。
「たぶん。ここ、見て」
最初の電車、は、本当に止められていた。
ホームにあるカメラに写っていたのは、運転士の制服姿の男が電車の運転士を撃ち殺し、電車をどこかへと動かす姿。
電車の中には人が乗ったままだ。
適当なアナウンスでもされたのか、中の人々が驚いている様な様子は無い。
ただ、その中にあって、ホームを不審そうに見つめる中年男性の姿があった。
視線をたどれば、ホームに立っている男達を見ている様だ。
「あ、この人」
更紗が目を見開く。
ガッチリとした体格の短髪の男性は、中里さんに見せられた写真と同じだった。
「この後、電車は整備用の使われてない閉鎖ホームへと入っていくんだ。で、そこからは誰も帰ってこない」
俺の言葉に、みんなが怪訝そうな顔をする。
「誰も?乗ってた乗客や運転してた男も?」
みんなを代表する様に声を出す天翔に頷いてみせる。
「そう。他の抜け道があるのかもしれない、けど。少なくとも、こちらには誰も来てない。確認したくても、閉鎖ホームの方に監視カメラが無いんだ」
「つまり………。閉鎖ホームで何かがあったってこと?奴らの仲間が戻ってこれなかった何か?」
考え込む様な顔でつぶやく更紗に俺も真剣な顔で頷いた。
「中里さんは彼を現役の傭兵だっていった。つまり、誰よりもこういう事態になれてると思う。変な顔で外を見てたし、何か気づいたのかも」
「………希望的観測だな」
水を差したのは、ブルーシートをかけ終えた大人組の1人だった。
確か……リーダーの高谷さん。
「確かに、確証はありません。だけど、簡単には死なないとあの中里さんが断言したんです。生存者がいる確率は高い」
ジッと目を見つめて言い切れば、苦い顔でため息をつかれた。
「………確かに、堤のヤツは生き汚いし目端もきく。環境によっては動かずに立て篭ってる可能性は高い」
その言葉に俺は首を傾げた。
「知り合い、ですか?」
「元、同期だ。俺もあいつも元々陸自の出身だよ。陸自辞めた後に、俺が皇に拾われたのもあいつの伝手だしな。そん時の借りを返そうとコッチに志願したんだ」
苦い顔はそのままに坦々と答えると、座り込み、武器の確認作業を始めてしまった。
その背中に声をかけようとして、飲み込む。
「閉鎖ホームに行くには、結構ヤバい道程になると思う。その過程に何組か立て篭ってる人達もいるから、出来ればそれの回収もして欲しいんだ。行ける?」
「行くしきゃないっしょ!私達、その為に来たんだし、ね」
「だな。サポートよろしく!」
ガチャリと花梨が重々しい音を立てながら銃器を担ぎ上げ、惇がグローブをはめた手をパシンッと打ちあわせる。
「………大丈夫だ。俺たちは強い。ノーマルなゾンビなんかに負けねぇよ」
俺の頭をくしゃりと撫でて、天翔がニヤリと笑った。
不敵に見えるその顔に、どうにか笑顔を返す。頭に乗せられた手が微かに震えていたのは気づかないふりをした。
「さっすが主人公様。頼りにしてるぜ?」
戯けて返し、拳を突き出せば、一回り大きな拳がコツンとぶつけられた。
と、「私も〜」と花梨達が手を出してくる。
「油断するな。無理をするな。1番に護るべきは自分の命だと肝に銘じろよ?」
俺の言葉にみんなが頷く。
そうして、生き残りの救出作戦は幕を開けたのだ。
読んでくださり、ありがとうございました。