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ゾンビと書いていながらジャンルはコメディー。………察してください。


物心つく頃にはこの孤児院にいた。

当然、親の顔なんて知るわけもない。

古参のおばちゃん先生が言うには、俺は孤児院の前に生まれたばかりの時に捨てられていたらしい。


普通、生まれたての赤ん坊は養子縁組の相手としてとても人気がある。

どうせ子供をもらって育てるなら、できるだけ小さいうちに。実の親の影なんてないほうが良い。


人間のエゴだろうけど、それは真理でもあると思う。

誰だって中古よりはまっさらな新品のほうが嬉しいもんな。


で、そういう意味じゃまっさら新品な俺が売れ残ってしまったのには、ちゃんと理由がある。

ひどく色素の薄い肌と髪。瞳は深い青と緑のオッドアイ。

更に右足膝下からの欠損。

つまり、明らかに日本人じゃない容姿に欠陥品の体。これじゃ欲しがる人間が出てくるはずもない。


小さな赤ちゃんを欲しがる家族というのは、子供が養子であるということを極力隠したいものなのだ。周囲にも、その子供本人にも。

なのに、この養子じゃ日本人じゃないのなんてバレバレだ。


それを乗り越えても、こんなに特徴のある子供じゃ、いつ、本当の親が出てくるかもわからない。

せっかく育てた子供を横からかっさらわれでもしたら、……嫌だよなぁ。




そんな訳で、この世に生を受けて7年。

俺はすくすくと最初に捨てられた孤児院で成長し、今に至る。

小さな頃から世話をしたらそれなりに情も生まれるのか、孤児院の職員達との関係もすこぶる良好だ。


周りの子供達が新しい家族に連れられていくのを見送るのはやっぱり少し寂しいけど、それで世を拗ねててもしょうがない。

………なんて前向きに考えれるわけもなく、もっと小さな頃は、なぜ自分だけ誰も迎えが来ないのかとなきじゃくったり暴れたりした。

そこで見捨てなかったおばちゃん先生に本当に感謝だ。


時に反抗し、暴れて物を壊し、他の子供達に暴力を振るう。

そんな俺を抱きしめておばちゃん先生は根気強く語りかけた。


(せつ)が寂しいのも哀しいのも先生が全部知ってるよ。でもね、こんな事してたら、もっと寂しいよ。一人ぼっちになっちゃうよ。ね。暴れたくなったらこれを見て、笑いなさい。そうしたら哀しい気持ちは無くなっちゃうから。大丈夫、大丈夫」


ちょっと太めのおばちゃん先生の腕の中で、俺は自分の中で暴れまわっていたモヤモヤしたものが少しずつ落ち着いていくのを感じた。

その頃はそれが何か分からなかったけど、今思えば、それは俺に降りかかった理不尽とも思える運命に対する怒りだったのだと思う。

ちなみにおばちゃん先生が「これ見て笑え」ってくれたのは、神父様の変顔写真だった……。いらないよ……。


周りがどんな目で見ようと、俺は俺。

そう、自分で折り合いをつける事が出来たら随分楽になった。

そうして落ち着いた俺はいつの間にか孤児院の小さい子供組のまとめ役なんてやってた。


市の補助を受けながら、教会主体でやっている小さな孤児院。

子供達はいつも部屋数以上に溢れ、1つのベッドに2人が押し込められる事も珍しくない。


と、言っても幼児は割と早めに行き先が決まるから、それ以上の年まで残っているのは少々問題のある子供達ばかりとなる。

まぁ、俺ももうそろそろ幼児組から脱却するんだがな。




親が死んで行き場がなくなったやつ。

親に虐待されて保護されたやつ。

育てられない、もういらないと捨てられたやつ。

いろんな子供が寄り集まって、慈悲深いじいちゃん神父と太ましいおばちゃん先生(シスターって言うべきか?)他数名の職員に守られて暮らしている。


そんな場所に本日、新入りがやって来た。

おばちゃん先生に呼び出され、「面倒見てやって」と引き合わされた。

俺と同じ年で黒髪黒目のガキ。

口を真一文字に結び眉間にしわを寄せて、自分は世界で1番不幸なんだと無言で主張していた。


まぁ、ここに来るガキの大半が同じような表情してるし、別にめずらしくもない。

なのに、そいつの顔を見たとき、なんか引っかかった。

どこかで会った事があるような……。


(すめらぎ)天翔(てんしょう)君よ」

そうして内心首をかしげる俺の耳に、おばちゃん先生の声が飛び込んできた瞬間。


「うげ!マジか!!」

思わず叫んだ俺に、目の前の2人が驚いた顔をしているがしったこっちゃない。

それより、急激に湧き上がってきた情報の奔流に巻き込まれ、脳細胞がパンクしそうだ。

熱い、ってか、痛い。


チョットは抗おうとしたけれど、哀しいかな7歳児の柔軟な脳みそをもってしても人1人分の人生の情報処理は無理があったみたいだ。

結果。

泡吹いて頭抱えてぶっ倒れた。

アーメン。







『終末世界ライフ』

そんな漫画があった。


少年誌に掲載されたそれは、ある時突然、蔓延したゾンビ化ウィルスにより崩壊していく街を、高校生の主人公とその仲間たちが安息の地を求めて彷徨う、というよくあるストーリーだった。


ただ、イラストの秀逸さとありがちなストーリーながら起承転結がしっかりと作りこまれ、恋も友情もしっかり練りこまれていて、中高生に爆発的な人気を得た。


で、前世の俺も見事はまった口で高校生の貴重な小遣いを随分つぎ込んだもんだ。

人気にあやかってアニメ化、ノベライズ、果てはゲーム化して、薄い本も多数出回るという反映っぷり。


そう、「前世の俺」。大事なことなのでもう一回。「前世の俺」だ。

新人の顔を見た瞬間、記憶が怒涛の様に噴出してきたんだよ。


その中の俺は普通の家庭に生まれた可もなく不可も無い平凡な子供で、なんとなく大学出て中堅の会社に入り、結婚して、子供生まれておっさんになり、孫が生まれて祖父になるという、石を投げれば当たりそうなどこにでもある平凡な人生を歩んでいた。

還暦過ぎてチョットした頃に事故で死んだのが普通じゃ無いといえばそうなのか?


で、なんで突然漫画の話になったかといえば、だ。


「終末世界ライフ」の主人公は大富豪の娘がかけおちして産んだ子供なんだが、幼い頃に両親と事故で死に別れ、しばらくの間孤児院で暮らしていた過去がある。


ゾンビから逃げ惑う中、昔お世話になった孤児院に身を寄せるエピソードがあるんだが、そこも結局ゾンビにヤられて壊滅。


主人公と仲間は辛うじて難を逃れるんだが、その際犠牲になるキャラの1人が金髪オッドアイの車椅子の少年………って、俺だよ!


だいたい可笑しいと思ってたんだよ。

いないとは言わんけど、こんな副都心程度の街の片隅の孤児院に、金髪オッドアイな厨二病こじらせた様な外見の子供って。

明らかに不自然。

日本人の血どこいった!と思ってたけど、それ以前の問題だったわけな。


無いわぁ〜。

2次元の世界に生まれ変わりとか。

しかも中盤に出てきて「ここは任せろ、後で追いつく!」な死亡フラグバリバリのキャラになる、とか。マジ、勘弁してくれ。


このままいくと約10年後にはゾンビに襲われて自分もゾンビ化。

しかも、特異体質だったらしくゾンビ化しても意識だけはある、とか、さらなるレアキャラ化してみたり。


更には、「お前たちが来たせいで孤児院がヤられたんだ」と主人公たちを恨んで敵キャラってみたり。

かと思えば、孤児院で一緒に暮らしていた中での素敵エピソードに絆されてゾンビから庇ってみたり。


1人何役の大活躍だ。


死んでまで勤勉に動き回るとか嫌すぎる。

教会育ちだけど別に宗教は強要されてないせいでイマイチ信じては無いが、死んだら速やかにあの世に行って楽園暮らし希望してます。


あ、楽園ならぬ2次元転生しちゃったのが俺かぁ〜、はは、笑えるねぇ〜。

って、笑えねえよ!


ちなみに、ご察しの通り新人君が漫画の主人公な。

まぁ、名前からして、いかにも、だよなぁ。

だって「(すめらぎ)天翔(てんしょう)」だぜ?気合の入り方が違うっしょ。


あ、ついでに俺の名前、幸村(ゆきむら)(せつ)な。拾われたのが雪の日だったみたい。苗字はこの孤児院で俺みたいなのに付けられるお約束らしい。

「幸せになる様に」とのじいちゃん神父のご配慮だ。


今まで何人か居たけど、未だにここに残ってるのは俺だけだな「幸村」姓。

今思えば、頑なに俺が貰い先が決まらなかったのって漫画の強制力って奴もあったのか?


しかし、なんで主人公に会うまで気づかなかったのかな?自分の顔見て気づけよ、お前って思うでしょ?しょうがないんですよ、皆さん。


何しろ、キャラが違いすぎる。

漫画の中の俺ってば、前髪長く伸ばして目は隠れてるし常に俯き後ろ向きなネガティヴさ。


しかも車椅子使用で部屋に篭りがちな、引きこもり予備軍だったんだぜ?

何がどうしてそうなった?と、小一時間問い詰めたい変貌ぶりにおじさんびっくりだ。


確かに右足膝下から先は丸くなって存在しない。どうも母親の腹ん中でなんかあって成長できなかったらしい。詳細不明。


けど、義足つけて現在元気に走り回ってるぜ?

ジャンプも木登りもちょい工夫が必要だが出来るし。何しろ生まれた時からそんなだから、特に不自由と思ったことも無い。

性格もこの通りだし。


パソコンは確かに興味あるけど、引きこもってどうこうできるわけ無い。

そもそも、この孤児院はそんなお荷物高校まで養ってくれるほど余裕無いぜ?

基本義務教育終わったら出て行かなきゃだし。


全額支給の奨学金ゲットできなきゃ、素直にどこぞで労働、ってのが大体の流れだな。

世の中そんなに甘く無いんですよ、諸君。


あ、漫画の中の俺、頭は良かった設定だったな。知能生かして孤児院防衛してたっけ。

まさに自宅警備隊(笑)。


……な、訳で。見た目とキャラが今と違いすぎてて気づかなかったんだろう。

そういう事にしとこう。

決して、俺が鈍いからでは無いはず。うん。


そこ、オッドアイなんてそうそういないだろうって、突っ込まない。さっき自分でも言ってたけど、つっこんだら負けだ。


話が明後日の方向にそれた。

軌道修正して、っと。


問題点をあげよう。


ひと〜つ。

主人公が予定通り孤児院に来たぞ。って事は漫画通りの流れになる可能性大、だ。


ふた〜つ。

このままいくとゾンビ祭りだ。


みぃ〜っつ。

…………死ぬのもゾンビ化もイヤだし、孤児院の皆んなが死ぬのも困るな。友達が痛い目にあうのも、イヤだ。


さて、どうしよう。

こんな事、素直にカミングアウトしても気狂い扱いされる未来しか見えないな。

いや、子供の戯言って流されて終わりか?

どっちにしろ、終了なお知らせだ。


かといって放っておけば、ゾンビ祭り。

いや、ただ偶々似てるだけで2次元な世界じゃ無いかもしれないけど………偶然も3つ重なれば必然と言うし、警戒しておくに越した事は無いだろう。


とりあえず、主人公を巻き込んでみよう。

1人で考えててもしょうがないし、本当に物語が始まっちゃえば、1番大変な思いするのあいつだしな。

よし、そうしよう!


まだまだ沸き起こる情報の渦に翻弄され、オーバーヒートした脳みそからくる高熱にうなされながらも、不敵な笑みを浮かべて哄笑する子供の姿はさぞかし不気味だった事だろう。

大概の事には怯まないおばちゃん先生が後ずさりしてたぐらいだ。はっはっはっ!


……チョット錯乱気味だったとです。

怖がらせてすみまそん。

だから逃げないでおでこのタオル変えてください。

「お医者さん……頭の……」って呟かんでください。

おばちゃん先生、戻ってきて〜〜!!






読んでくださり、ありがとうございました。

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