1年目 6月 その1
昼休みの教室、みんな仲のいい友達とお弁当を広げながらおしゃべりに花を咲かせている。あたしもその中の一人であり、友達である茜と話していた。
日ごろ全然話したこともないような子がこっちに寄ってきた。教室の中心にいるような子。人を惹きつけずにはいられないような人。茜とその子は仲いいから、茜に用があったのかなと思っていたところ、その子は突然あたしに向かって言った。
「合コン行かない?」
なぜにあたし? と隣にいた茜を見る。茜は大きな目をぱちぱちさせ、美優も行かない? と首をかしげてきた。どういうこと、と茜に訊く。
「茜はそもそもメンバーだし。一人来れなくなっちゃってさ」
ふぅん、と曖昧に頷く。あからさまに興味がなさそうなあたしにも相手はがっかりした様子もない。あたしがそういうのが苦手なのは多分向こうもわかっているからそもそもダメ元なんだろう。行く気はなかったけれど、ふと思いついて聞いてみた。
「いつもどういう人たちと合コンするの?」
「旭とか大学生とか」
どこの?と訊ねると、その子は山本透さんの通っている大学の名前をあげた。ちなみに旭とは山本透さんの通っていた中高でもある。世間の狭さを痛感して、くらくらした。
「んー……あたしはいいや」
「えぇー、今回めちゃめちゃ当たりなのに。ま、またなんかあったら誘うかもしれないけど。今度は来てねー」
あたしが断ったことに不服そうな顔をしながらも、ひらりと手を振ってその子は去っていく。ネイルアートの輝く、綺麗にそろえられた爪が目を引いた。
こんな会話を思い出したのは偶然だった。けれど、一度気になるとそればかり考えてしまうから不思議である。そわそわしながら家庭教師の時間を終え、すぐにあたしは聞いてみた。
「合コンとかって楽しいんですか?」
「……行くの?」
山本透さんは曖昧な笑顔を浮かべ、あたしに質問を返してきた。質問に質問とは。
人見知りで男が苦手なあたしの性格上行くわけがないだろう。周りの友達はそれなりに行っているようだけど、性格を考慮されているのか誘われたことはあまりなかった。誘われてもどうせ断るし。今回はわりと珍しいケースである。
「透先生は行くんですか」
「……え」
ズバリときいてみる。わずかな動揺も見逃さないように見逃さないようにあたしは真剣に山本透さんの顔を見つめる。あたしのそんな意図を察したのかどうかはわからなかったけれど、山本透さんの顔は揺らがなかった。
「俺はあんまり行かない」
嘘くさ……と思ったのが顔に出たらしい。山本透さんは苦笑している。この人には昔から、美優はマイナスの感情が顔に出やすいよねと言われていたことを思い出す。
「俺、そういうのに来る女の子苦手なんだよね」
どこまでも嘘臭い気がしてしまうが、この前言われた理想像を思い出すと本当かもしれない。まぁ、合コンに来る女の子は山本透さんの嫌いなタイプ多そうだなぁというのはあくまでもあたしの偏見だけど。
「ま、行って損はないんじゃない」
明らかに、あたしが行かないとわかっているから言っているだろこれ。
いささか投げやりとも言える結論に、どうやらこれ以上会話をつづけたくないようだと悟る。山本透さん的に触れられたくない話題なんだろう。やましいことがあるに違いない。
あんまり行かないっての絶対嘘だな、とあたしは理解した。正直面白くないけど大学生なんてそんなもんなんだろう……なんて大人ぶろうとしたけど無理だ。
「不潔」
苛立ちのまま呟いた言葉が聞こえたらしい。山本透さんの顔が明らかに固まり、その日の指導はやたら優しく、その後しばらくは遊びに連れまわしてくれた。
それが数カ月前のことだ。