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白い部屋にて

 冬。街灯は外で降り始めた雪を白く照らし、外を通る通行人は急ぎ足で歩いている。部屋の暖炉にくべられている薪はパチパチと音を立て、部屋にほのかな明かりと温かさを提供している……私の好きな季節だ。


「エイブラハム様」

 カレンか。私は振り向く。

「……どうなされたのですか?」

彼女の心配そうな声と裏腹に、顔は真顔だ。……もう慣れたが、最初のうちはよく笑ってしまった。


「いや。なんでもないさ」


 軽く首を振ると、彼女は淡々と要件を告げる。

「お食事の時間です」

「分かった。今行く」


 私は死んだはずだ。しかし何故だろうか、こうして生きながらえている。


「あなたは死にました。しかし、生き返らせてあげましょう」

 一面真っ白な、無機質で、不自然な部屋の中で目を覚ました私は、寝転んだ状態から起き上がると、目の前に女性がいるのに気がついた。


「は……?」

 私はこの状況の奇特性に対し、疑問を呈したのではなかった。ただ、この女性が、神々しいほどに美しかった。


 いや、それだけで表されるものではないのではないだろう。彼女の美しさは、羨望とか、嫉妬とか、好意とかをもたらすようなものでなかった。崇拝と畏敬をもたらすものであった。


「おっと、驚かせてしまったようですね」

 そういうと、彼女は姿を変えた。形、といった方が良かったかもしれない。顔でなく、骨格、体つき全体が変わったからである。彼女の体は、年頃の少女の姿に姿を変えた。


「ようこそ、神の住む世界、天界へ」

「……ちょっと待ってくれ。今、全く私は事態を把握できていないのだが」

「あれ? てっきりあなたのような方なら、もう分かっていると思いましたが……」


 無茶を言う。私はそれほど頭のいい人間ではない。だが彼女はそうであったようだ。

「……そうですねえ。とりあえず、私が何者か、説明した方がいいかもしれません」

「そうだ。それだ。簡潔に説明してくれないか。いかんせん、頭が痛い」

「そうですね、私は神です」


 は?

 この言葉を呑み込むには苦労した。なんとしても、外に出たがっていた。何とか抑えたのは、私の、言葉の慎重さに対する努力のおかげか。


「えーと……君のおうちはどこだい?」

 だから、その代わりにこんな言葉が出たとしても、仕方がないと思うのだが。


 目の前の少女が到底人間でないことは、さっきのやり取りからわかりきったことであったが、それでも私がこのような言葉を口にしてしまったのは、彼女の言うことがあまりにも突拍子ないものだったことに他ならない。


 私の言葉を受けて彼女は、しばらくは鳩が顔に豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、私の言葉の真意を理解すると、クスッと笑った。


「ふふ、嘘ではありませんよ? あなたは確かに死んだのです。……しかし不運でしたね、狙撃されるなんて」

「狙撃……」

 胸が熱くなった気がする。そうだったな。私は撃たれたんだ。意識を失うまでの数秒間、周りは大騒ぎだったな……


「ええ。何なら、証拠映像でも見ますか? それではショックが大きいでしょうから、その後のニュースでもいいですけれど」

「いや。とてもじゃあないが、自分の死に様を見たくはないよ」


そうですか、と彼女は答える。しかし何だ。その、残念そうな顔は。

「……しかし、私が死んだとして、なぜ生き返られるんだい?」

「さあ?」

 さあ、って。


「あ、そうそう。あなたを生き返らせる世界は、あなたが生きてきた世界……地球のある『エレストロイカ』とは違いますよ」

「待て、それは結構重要なんじゃないのか?」


 彼女は顔をぷいっとそむける。どうやら聞かれたくない話題のようだ。

「……知っていますか?こんなこと、初めてなんですよ?」


「……そうなのか?」

ええ、といい、話をはぐらかす彼女。なんだかよくわかっていないことを悟られたのか、簡単な説明を挟んでくれる。


「この世には、いくつかの並行世界があるんです。……その世界同士は、少しずつつながりを持っています。ですから、『理論上は』別の世界に生き返ることができるんです」

「何故、それができないんだ?」

「『世界の強制力』です。……世界は異なるモノを拒絶します。ですから、別世界から来た人やモノは立ち入れないんです」


「だが、私はそうじゃない」

 彼女は同意し、うなずく。

「ええ。……こんなことはありえない。はずなんですが、実際にこうなっています。もしかしたら、世界があなたのほうを求めているのかもしれませんね」


「それは言いすぎじゃあないのか?」

「いえ……あなたは割とすごい方だと思いますよ?」

「神様に言われてもなあ」

 ふふ、と彼女は笑う。


「そろそろ、限界です。もうすぐ、あなたは異世界にうまれかえります」

「ああ、……何をしたらいいんだ?」

「あなたにできる全力を尽くすことです。それが世界があなたに与えた使命なのですから」

「わかった。ありがとう」


そう言い終わったその時、突如世界が暗転した。神様が最後に何か言ってた気がするが……


「……行ってしまいましたか」

 残された神様は言う。

「……あんな突拍子もない話、よく受け入れられましたね。まあ、彼があんな所の住人では、無理もない話かもしれませんが……」

「……あ、彼に言い忘れてましたね。彼の新しい体について。……まあ、いいでしょう。悪いことではないようですし」


「頑張ってくださいね、――――様?」


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