第七目==浪士組
「もぉー、お姉さまぁ」
芦屋と中里は後ろを見ないようにして川に小石を投げつけていた。
「・・・いいのか、兄貴・・・」
良之介はハハッと笑ってから恐ろしく暗い雰囲気を放った。
「なんで武者小路はあんなに女に惚れられるんだ・・・」
芦屋と中里と中沢が投げ込む小石の量はどんどん増えていった。
「だ、誰か助けろっ」
芦屋と中里と中沢は消して後ろを振り向かないと心に誓った。春画を背後で再現されているのを目の当たりにしたくなかったからだ。
「クソッ、これが主人公補正なのかッ。いつか俺もなってやるッ。萌小説、腐女子小説の主人公にッ」
芦屋の暗い執念はやがて実ることになるとは芦屋自身も知らぬ事であった。
そして、中沢は仕事がありますから、と暗い顔をして去っていった。
「自殺でもしそうな顔だぜ・・・」
芦屋は心底心配そうな顔をしていった。
清川は新徳寺の庭で、坊主が庭掃きをしているのを見つめながら思索に耽っていた。
「いかがなされた。清川殿」
鵜殿が背後からやってきて声をかけた。
「いや・・・。私の語らざる真意が噂されているらしくてな・・・」
清川は空を見上げてぽつりと言った。
空は雲と同じように白い残月が細い影を映し出していた。
「まぁそりゃしょうがないでしょ・・・」
鵜殿はこの男が攘夷派であることを知って言った。
そして、自分自身も安政の大獄で攘夷派であったがために左遷されたということを。
「それで、建白書の方はどうなった」
清川は浪士組上洛と同時に天皇に建白書の受納を願い出ていた。
「受理された。が、しかし・・・」
外国嫌いの孝明天皇は建白書の最初の方に導入として書いてあった『攘夷』の部分だけを読み、その後半に語られている本編である『対ツクヨミ』に関する記述を一切すっ飛ばしたのだった。
「あーぁ・・・。だから最初に書けと」
「そんなことを唐突に言われても受納されないだろ・・・」
清川と鵜殿の二人が同時に頭を抱えてしゃがみ込んだので、庭掃きをしていた坊主は驚いて二人を見つめていた。
「それがか・・・」
それが原因で浪士組が攘夷派であるという事になったのだろう。
「もはや・・・これまでか・・・」
清川は頭を抱えていた。
清川が天皇に建白書を奏上した理由は二つある。
一つは自分の目論見が攘夷であるということ。
もう一つは幕府に対する不信感である。
清川は中里からツクヨミという存在を聞いたとき、自分でも少し調べたのだ。
すると、ある事実が浮かび上がってきた。
幕府の関与。
幕府が何らかの形でツクヨミの強力を得ている可能性が出てきたのだ。
そうなれば幕府管轄下である以上、ツクヨミとの対峙に対して圧力がかかるのは明白だ。
それを考えて天皇に建白書を奏上したのだが。
「当てが外れてしまったな・・・」
京都、八木邸。浪士組200人の京都の仮住まいとして提供された家の一つだ。
今も新選組の壬生駐屯所旧跡として残されている。
この家が新選組の壬生駐屯所となるのはまだ先のはなしである。
その八木邸の一室。
おおいびきをかく芹沢のすぐ隣の壁に背を預けて座り込んでいる隻眼の男は平山五郎。
庭先で半裸で素振りをしているのは永倉新八だった。
江戸時代においては裸はあまり恥ずかしいことではなかった。当時の浴場は特に深い意味もなく混浴が当たり前だったし、暑ければ脱ぐ、というのが基本であった。幕末に日本に来た外国人が描き残した絵の中にはふんどし一丁の日本人を描いた物はあるし、明治時代に近代化政策の一つに街中での裸を禁ずる法律ができたほどである。
永倉は故郷の蝦夷で鍛えたという筋肉のついたがっしりした体型を見せびらかす様な服装をしているのはそういった当時の日本人の裸への抵抗の無さの現れといえる。
この八木家には後に壬生浪士の一員としてその名を残す者、もっとわかりやすくいえばその後も生き延びて新選組に名を連ねる者が揃っていた。
芹沢、近藤、土方、原田、その他その他。
「ところで、この前道場から竹刀を持っていったのは誰だ」
稽古を終えて自前の竹刀と防具を担いで帰ってきた土方は面々がゴロゴロしている大きめの部屋に入ってくるなり言った。大きめの部屋といっても、結局は襖を外したぶち抜きなのだが。
「さぁ、僕は知りませんね」
それだったらわざわざ言う必要も無いだろ・・・と内心思った平山だったが、近藤がそういえば、とつぶやいた。
「中沢・・・だったか、が鍵を借りにきていたぞ」
土方はそうか、と踵をかえした。
「あぁん?俺がいくよ」
芹沢は起き出すと頭をかいていった。続いてファァーというあくびをに眉を顰めるものがいた。
「芹沢さんではすこし心配でございますね・・・」
沖田が柱から背中を離していった。
「僕が行ってきますよ。どちらにせよ一度は詰問せねばならぬ相手だとは思っていましたから」
近藤は苦笑いをして芹沢の方を向くと、芹沢は刀をボンと置いて立ち上がった。
「沖田じゃ斬っちまうだろうからよ、俺がいってくるわ」
沖田は不機嫌そうな顔をしたが、芹沢は意に介することなくズカズカとでていった。
「おい、お前・・・」
「拙者もついていこう」
殿内がスッと立ち上がっていった。
芹沢やその仲間だけ行ったら事件が起こることは避けられない。
芹沢は刀より鉄扇の扱いにたけている。刀を置いていったところであまり戦力に変化は無い。
「そういえば、近藤さんよ。本当に清川様は攘夷を考えているんですかね」
原田がボソッと言うと、他の連中も耳を傾け始めた。
「おいおいおい、俺らが集められた理由は幕府の権威を守るためだろ・・・。それじゃ言ってることが反対じゃねえか」
近藤は黙っていたが、しばらくしてから首を縦に振った。
それを聞いて部屋の隅で座禅を組んでいた殿内は眉をひそめた。
芹沢は鉄扇で首筋を叩きながら、後から追いついた山南に言った。
「お前、ずいぶんとこそこそしてるよな」
「そ、そうですか・・・?」
悪いことをしている訳ではない。
村の人が困っているのを放っておけず、何やかんやと手伝っている内に時間が過ぎているのだ。
そのせいで、帰りが遅くなり、こそこそしているように見えるのだ。
「何だかよくしらねえけど、そっちの事に関しても近藤の旦那は怪しんでたぜ」
山南はため息をついたが、芹沢はそんなこと気にせず、ハッハッハッと笑って続けた。
「いい女知ってんなら、紹介しろよ」
そして、腰でブラブラしている幾つものひょうたんを一個取り上げるとふたを外して酒を傾けた。
「ガッハッハッハッ、いっちょパーっとやってやろうぜッ」
「・・・芹沢さん。勢いよくなりすぎじゃないですか・・・」
芹沢は山南の肩に手を回すとガッハッハハッとますます豪快に大笑いをした。
「んなこというなよ。世の中どんどん暗くなってく。辛気臭くなってく。俺らは京都の治安を預かる浪士組だぜ?そんな俺らが暗くなってちゃそりゃ、京の街も暗くなるさ。んだったら、俺らは明るくいこうぜッ」
山南はその言葉に魅力を感じた。しかし、それは所詮酔っ払いの戯言なのだ。そう自分に言い聞かせると、四出井家の前に立った。
「申し訳ないが、中沢良之介はこの屋敷にいらっしゃいませんか?」
ガッハッハッハッと大声で笑って当てにならない芹沢を無視して山南は言った。
門の所に立っていた浪士組の隊士はボリボリと頭を掻いて言った。
「それは拙者の事でござるが・・・」
「あんたなのかよっ」
山南は浪士組に入ってから誰かの発言に鋭い発言を返す技術が身について来たようなきがした。
これが後のツッコミスキルと呼ばれる物とは知らずに。
芹沢は、どさりと山南に寄りかかると酔っ払ってろれつも回らないにもかかわらず中沢に話を始めた。
「お前がぁ・・・竹刀をもってった・・・つー話があるんだがよぉ」
中沢は少し顔を引きつらせた。
武者小路に貸した竹刀は壊れてしまっていた。
「・・・」
山南は顔を引きつらせて静止した中沢をみつめてたまりかねたのか、
「別に、お咎めがあるとか、そいうことではないでいから修行で使って壊れてしまったのならそういってくれればそれで終わりだが・・・」
と妥協をした。
まぁ、竹刀の一本ぐらいの弁償ならできるので、これ以上詰問しても時間の無駄だと判断したというのが本音だった。
「俺が弁償してやっからよ。使っちまったんなら、そう言ってくれりゃそれで終わりだぜ?」
山南が意外そうな顔をした。そういったのは芹沢だったからだ。
中沢が頷くと芹沢は用はそれだけだ、と言って千鳥足で反対方向に歩き出した
山南は取り残されて慌てていたが、中沢にお辞儀をすると芹沢の方へ早足で駆け寄った。
「ど、どこ行くんですか」
「決まってんだろぉ・・・。竹刀を買うんだぁよ」
山南は驚いた。
「い、今からですか?」
それはあまりにも急過ぎないか。
「お金、大丈夫なんですか?」
芹沢は酒に遊びにいろいろなところで散財しまくっているので、当然のごとく貧乏だ。
「いーや、全然。どっかで手に入れるよ」
平然という芹沢に山南はため息をついた。結局自分が出すことになりそうだ。
「さぁっさとしねぇと、土方の野郎に中沢が殺されちまうぜーー」
芹沢の言葉は案外的をいている。
殺すということはないだろうが、酷く責められはするだろう。
「3秒立ち止まるぐらいなら、その分走った方が何かできるだろぉ?」
そういって芹沢は千鳥足ながらも早足であるいていった。
山南はフウとため息をついた。今後、近藤とこの男の仲がよくなるということはないのだろう。
その二人を同じ八木邸に押し込んだ上層部の判断を、山南は恨めしく思った。
近藤は何だかんだと言って真摯な男だ。
自分の決めたことに対して真摯で、かつ真面目にことをこなしていく。
山南はそこに惹かれた。今まで出会ったことのない真面目さ。
親切心でついてきてしまったが、芹沢の様な放蕩男は嫌いだ。
結局、山南が金を出して竹刀を買った。
芹沢が年末に払う、と言ったのだが、店主は丸で信用してくれなかった。
山南は竹刀を担いでサッサと歩いた。
芹沢は数歩遅れて千鳥足でついてきた。
その時、二人の後ろを笑いながら駆けずり回っている男の子がいた。
「わーい」
団子を片手に嬉しそうに駆け回る男の子の後ろではそれを嬉しそうにみつめながら、後ろを歩いている父親は気をつけて走りなさい、と声をかけていた。
次の瞬間。お決まりの展開が待っていた。
ベチョ。
「あぁん?」
団子を袴につけられた芹沢の顔には明らさまな怒りが映し出されていた。
「あっ、あっ、芹沢・・・鴨・・・」
父親の顔が引きつった。
芹沢はこの時既にキャンプファイアー野郎、ではなく浪士組の荒くれ男として京都で名が広まっていた。
その男が明らかに怒りを浮かべたがごとく立ちはだかっている。
男の子は泣きそうな顔をして立ちすくんでいたが、芹沢は袂に手を突っ込むとチャリチャリ音を立てて中を弄った。
山南は一体何が起こるんだ、と内心気が気ではなかった。
あまりの剣幕に手も出せない。
しかし、いざとなったら。
「悪いな、俺の袴が団子食べちゃったよ。これでもう一個買いなさいね」
芹沢は男の子の頭に手をおいてポンポンとやさしく叩くと小銭を渡してその場を去っていった。
「まさかお前があんな事をするとは思わなかったな」
自分の袴についたミタラシ団子を引き剥がしてモシャモシャ言いながら口に放り込んでいる芹沢を見つめながら殿内はいった。
「俺はこう見えても子供は好きなんでな」
芹沢はミタラシ団子の串についた団子を削ぎ落とすように口にくわえた。
「こう見えても・・・自覚はあるんだな」
「大いにな」
芹沢は言いながら串を放り投げた。
山南は非難を示す視線を芹沢に向けてから回れ右して串を拾うと芹沢の顔面に突き刺した。
「アベシッ」
芹沢はブツブツ言いながらその串を袂に入れた。
山南は思った。こいつの袂には面倒くさがって捨てていない様々な物が大量に入っているのだろうと。
「・・・」
そう思うと、さっき渡した小銭は汚いな、と山南は身震いをした。
それから、思いだしたように振り返ると懐をまさぐった。
「近藤さん、土方さんはどうしたんですか」
八木家で沖田は壁によりかかったまま言った。
「道場だ」
近藤はお茶を啜りながら言った。
さっきこちらに顔を見せたのは道場に入った直後に竹刀の不足に気づいたからだろう。
「何?飯だって?飯だ飯だッ」
入ってきた永倉がわめき出した。誰もそんなことは言っていない。
「ぬぐ・・・」
浪士組随一の剣の腕を持つ者。それは沖田でも土方でも近藤でも芹沢でもない。この永倉だった。
沖田はその永倉に文句が言えないままこの騒ぎを見守ることしかできなかった。
「何?もう昼食だと?それもよいか」
土方が入ってくるなりそういったとき、沖田は壁に背中を預けたまま誰かこの状況を打破してくれ、と本気で願っていた。
「しばし待たれよ」
突如現れた鵜殿は大声で言った。
「まだ朝四ツ半。昼食には少なからずや早いかと存じ上げる」
沖田は壁に持たれたまま小さく頷いたが、内心では感動にうち震えていた。
「何用で参ったのでござろうか」
土方が振り向きざまにその低い声で言った。
「総員、清川さまの元へ集結せよとの命令だ」
一同に緊張が走った。浪士組内では原田の疑問のように浪士組の集結目的について組全体が疑心暗鬼になっていた。
「左様か。すぐ参る」
近藤はその場からスッと立ち上がって言った。
「近藤さん。何か聞いていますか」
沖田がソッと近藤のそばに寄って尋ねた。
「いや。何も。しかし、あのお方に言及する可能性は低いだろう」
近藤には一つの確証があった。
もしツクヨミについての言及を行えばまず間違いなく混乱が起こる。それは黒船来航以上の波紋を広げる。
浪士組が巻き起こした混乱の広がりは、やがて日本という共同体が崩壊するだろう。
「そうなることは清川には分かる。聡明な男だからな」
近藤はフッと不敵な笑みを浮かべて言った。
八木邸から一同が出てくると芹沢と山南が戻ってきた。
鵜殿は二人にも同じように口上を述べた。
それを聞き終わった山南が沖田の方へやってきた。
「お、沖田くん。お腹空いてないか?」
「は?」
何だかうれしそうに離す山南に沖田は危険な物を感じた。
「これ、お土産に買ってきたんだ。もしよかったら食べてくれ」
そういって渡されたのは団子だ。
「なんで・・・、僕にこんなものを・・・」
「君って団子好きじゃなかったっけ」
無邪気な笑顔で言われると沖田も返す言葉がない。
山南はそれじゃあ先に行ってるね、と言って去ってしまった。
沖田はどうすることもできない団子をぶら下げていた。
「おお、いいもん持ってんじゃん」
そこへやってきたのは同じく浪士組、藤堂平助だった。
沖田は嫌そうな顔をした。
団子をもらったのはどうしようもなかったからだが、何となくこの意地汚い顔でこちらを見てくる藤堂にくれてやるというのは腹が立つ。
「おおっ。それは団子っ」
もはや食い物探知機と化している永倉から団子を隠し果せることは不可能だ。
「お前ら・・・」
沖田はだんだん意地でも団子を渡すもんか、という気分になってきた。
「元気が羨ましいな」
殿内がギャアギャアわめく三人を見つめていった。
「まだそんな年ではないだろう・・・」
土方はその言葉を聞いてボソリとつぶやいた。
新徳寺。そのあまり広くない境内には人がごった返していた。
「ここで話をするのか・・・」
近藤が呆れ顔で言った。
沖田はスッと入って人ごみに消えた。
「何をあんなに慌てているんだ・・・」
近藤は辺りを見渡して気がついた。
「あ、汗臭い・・・」
素振りを終えて半裸のままの永倉と道場で訓練をしてきた土方の間にはまされた近藤は文句を言うために口を開くことすら許されない状況で話を聞かなければならないハメになった。
「さて・・・どう動くかだ・・・」
土方がうなっていると、さらに後ろに芹沢がやってきて不潔臭が加わった。
「もういや・・・逃げたい・・・」
近藤は泣きかけの顔で言った。
「諸君・・・我と志を伴とせんとするものは来たまえ」
清川は唐突に話を始めた。
「我々は幕府の庇護を離れる」
一同に衝撃が走り、その場はざわついた。
「ほほう、おもしろい掴みだね」
「頭のいい男ですな」
清川は浪士組200人のざわめきに負けぬよう大きな声を張り上げて言った。
「我々は朝廷に付き従うっ。強制はせぬ。しからばこの場にて意義ある者は述べよっ」
清川が話し終わると、即座に手をあげたのは他でもない近藤であった。
「我々は幕府の名の元に集結し、幕府存続の為ならばこの命惜しくはないと覚悟を決めてこの地に参った。我ら試衛館の者共は朝廷の軍門に降るを良とは致さん」
近藤は三人の筋肉男に囲まれて必死にそう述べた。
「おっしゃッ、俺もそうさせていただこうっ」
そういって派手な声をあげたのは近藤の背後、芹沢だった。
「男は一度決めたことを違えさせはしねえ。俺も幕府の元に残ろう。たとえそれが沈みゆく船であったとしても、俺は一度乗ったらおりたりはしねぇ」
「すごい不吉な事言ってるぞ・・・」
沖田は遠くで喚く芹沢の声を聞きながら頭を抱えた。
「了解した。しかし、これについては全体で行っていただきたいのは三月三日、即ち将軍家茂さまが上洛なさる前日、の夜に警戒を行う。それには全員参加せよ。以上だ」
話が終わると同時に近藤は境内から飛び出した。
「いい加減な茶番ですな」
それについてきた土方が隣に立って言い放った。
「そうだな・・・。清川殿も焦りが見える」
近藤は満足そうに顎を撫でた。
清川をあせらせる。そして、幕府に対する中途半端な忠誠心を無理やりこそぎ落とす。
その結果、清川が頼るのは朝廷。天皇だ。
しかし、それも妨害工作があるらしい。
お庭番衆の報告によれば、朝廷にも内通者がいるとのことだった。
「少なくとも邪魔者はかなり減らせるであろうな。後はじっくり炙っていくか」
近藤の邪悪な笑みを見ていると、冷酷な土方でも少し背筋が凍りつく。
「それと、昼食はまだでござろうか」
近藤は頭を抱えた。有能な男だが、剣と飯が絡むとどうも調子が狂う。そんな気がした。
そして、近藤はさらに頭を抱える事態が背後で巻き起こっていた。
芹沢と永倉が服を天高くに放り投げた。
「ヌンッ」
「フムッ」
「おぉー・・・」
「何してんだぁっ」
筋骨隆々の芹沢と永倉を見て近藤は吠えた。
「筋肉美を比べてるのさ」
近藤は刀に手をかけた。
「まぁまぁまぁまぁっ」
沖田は近藤を諫めたが、なんで自分がこんなことをしているのか分からなかった。