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12.最期のメッセージ

 二月十一日、午前三時。ちゃんと目覚ましは鳴った?

 おはよう。でもあんまり眠れてないよね。ごめんね。

 誰にも気付かれる前に、匠君には私の気持ちを知っていて欲しくて、そしてお願いを聞いて欲しくて手紙を書いています。


 きっと驚いたよね。勝手に決めてしまってごめんなさい。でも匠君には生きていて欲しかったから。風邪、少しはよくなった? すぐだからまだあまり効き目はないかな。風邪にはビタミンだからね。早く治してね。


 ねぇ、今の私はどんな風? 眠ってるみたいになってるかな? もし格好悪かったら直しておいてくれると嬉しいです。皆があまり悲しくならないように。お願いします。



 匠君はこの家に来てどんな事を思ってた? 私はね、この家に居られた事を誇りに思ってるんだ。


 ちょっと無愛想で強面だけど、いつも体調を気遣ってくれる木村さん。肩車が高すぎて怖かったのを覚えてる。でもそうやってよく遊んでくれたんだよ。それに私が小さい時これが良いって言っちゃったから、それからずっとスキンヘッドにしてくれてる優しい人。もう髪伸ばしても良いよって伝えてもらえる?


 言葉は乱暴だけど、花を綺麗に咲かせてくれる稲葉さん。稲葉さんの作る庭が大好き。晴れた日に裏庭で本を読むのが自分へのご褒美だった。実はたまに花の手入れしながらハミングするお茶目な所もあるんだ。意外でしょ? いつも綺麗なオブコニカを咲かせてくれて、毎年歳を重ねるのが楽しみだった。出来ればこれからも、って言ったら嫌がるかな?


 ちょっと不器用だけど、頑張り屋のむつみさん。可愛いお姉さんが出来たみたいで嬉しかったな。丁寧に話そうとしておかしな言葉になっちゃうのが面白くて、そうしたら馬鹿にしないでよ、って顔真っ赤にさせるんだよ。可愛いよね。本当はね、一緒にお出掛けしてみたかった。買い物とかそういうの。姉妹みたいに並んで街を歩いたりしてみたかった。それがすこし残念だな。



 私を大切に育ててくれたお父さんとお母さん。二人と出会わなかったら、こんなに幸せでいられなかった。あの時、無愛想だった可愛くない私に感謝しなきゃ。私の為にいつだって一生懸命で、過保護ってくらい守ってくれて、愛してるって何度も抱き締めてくれた二人が、本当に大好き。

 何の恩返しもせずに先に居なくなってしまうなんて、親不孝者だよね。でもこれ以上私の事で悩んで欲しくないんだ。自分達を犠牲にして欲しくないの。

 伝えてくれる? 私は、本当はここに居ない筈の人間だから、私が居なくなっても元通りになるだけだから。だから、泣かないでねって。たまたま拾ったものをあった場所に返すだけなんだから。それに少し時間がかかっただけだから。だから、笑っていてねって。

 よろしくお願いします。



 あのね、順さんの事、もう嫌わないでね。本当は優しい人だって私分かってるから。小さい頃いつも一緒に遊んでくれたお兄さんだから。順さんのお陰で大きな家も寂しくなかった。私はその気持ちを受け止められなかったけど、順さんの優しさに気が付いてくれる人が絶対居るから。私の所為で悪者にしちゃっただけだから、これ以上嫌わなくていいからね。



 匠君、ずっと私を支えてくれてありがとう。守るから、って言ってくれてありがとう。あなたと出会えて本当に良かった。大切な、大好きな人。

 我儘ばかりでごめんなさい。自分勝手でごめんなさい。何もしてあげられなくてごめんなさい。

 

 他の誰かが私を見つけるまで、自分の部屋でじっとしていて。私の部屋には来なかった事にしてね。

 もし、もしも一緒に居た事に誰かが気が付いて、あなたを責める事があったら、全て私のした事で巻き込まれただけだって、そう言って。本当にそうなんだから。私があなたを巻き込んだだけだから。

 あなたが苦しむ必要はないからね。


 ずっとずっと、私の為に無理をしてくれてありがとう。幾ら感謝してもし足りないけど、ありがとう。

 最後のお願いを、叶えてください。



 あなたは私のオブコニカ。だからどうかその花言葉のように、新たな道へと進んで行って。隣には居られないけど、幸せなあなたで居てくれるだけで私の生きた意味を感じられるから。

 あなたを愛せて、幸せだった。ありがとう。



 雪


 




 <花言葉>

 初恋・幸福感・――・――・運命を開く・――

               ありがとう


 

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