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サイコ×ロジック  作者: 独楽
虚構
23/97

-003-


 二十分後。

 机に頭を乗せて、うなだれる憂沙戯の姿があった。


「……あー……」


 ホログラフ・モニタのチェス盤では、後手――黒のキングがチェックメイトの状態にあった。

 浮かんでいる勝利の文字。

 先手――白、憂沙戯。


「……なんとか……勝てた……」


 勝利こそしたものの、疲労困憊の体である。

 案の定、相手はIAデバイスを用いて勝負を仕掛けたのだろう、憂沙戯がここまで苦戦するのもめずらしい。

 こういった理論ゲームを行う上で、IAなどプログラミングされたコンピュータが有利な点は、選択肢を総当たりできることにある。すべてのルートを軒並み視野に入れた上で、最善手を選択する――言ってしまえば簡単に聞こえるが、人間の思考能力でそれを行うのはやはり難しい。

 それを相手に勝利してしまう憂沙戯も大概であるわけだけれど――しかし、相手は時折、およそ憂沙戯が思う最適解ではない指し方をしてきた。

 誘うような愚手。

 人間味の感じられる悪手。凡手。

 チェスにおける中央演算処理装置(Central Processing Unit)のグランドマスタークラスになれば、流石の憂沙戯だって勝てはしなかっただろう。もちろん、コンピュータだって、無量大数に近いパターン・ルートをすべて演算しきれるとは言い難いが……それにしたって、人間が機械に勝てる道理はない。

 つまり、それは相手が憂沙戯と同じように生身で――もしかしたら、IAデバイスを使わずに挑んできたのではないだろうか?

 と、憂沙戯は疑念を抱く。


「……わざとだったんですか?」


 呟いてはみるが、もちろん反応は返ってこない。 

 IAじゃないのか……それとも、手加減をされたのか……。

 憂沙戯は眉を寄せて、画面をにらみつける。その疑念を払拭するに足る根拠はない。



 [匿名]:強いですね



 ログに書き込みがあった。

 憂沙戯はげっそりとした顔でそれを見、



 [うさ]:そりゃまたどーも



 と、書き込む。

 あなたも相当でしたよ――と、賛辞でも送ってやろうかと思ったが、このレベルの相手と、しかもチェスで連戦するのは避けたかったので、素気ない返事を返した。



 [匿名]:月野さんにお勧めしたいゲームがあります

 [匿名]:興味はありませんか?



「はっ?」


 うめき、顔をしかめる。

 なぜ顔も名前も知らないはずの相手が、“月野”という自分の名字を知っているのか――

 憂沙戯は前のめりにキーボードホロを叩く。


 [うさ]:あなただれ?

 [うさ]:ストーカーさんですか?

 [匿名]:違います

 [匿名]:警戒しないでください

 [うさ]:こっちは名前を知られてるってのに

 [うさ]:軽快しないわけにはイかないでしょう

 [うさ]:警戒

 [匿名]:それもそうですね

 [匿名]:僕の名前は



「……“スマイル”……」


 さっきの対戦相手――じゃない?

 たしかに、そうなると納得する部分もあった。

 ゲーム理論の最善手を瞬間的に判断・取捨選択しなければならない格闘ゲームでは、やり込みによる反射もあるが、頭の良さ――言い換えれば、相手を誘導する策・思考が顕著に出る。

 さっきフルボッコにしてあげた『koma』というプレイヤーは、お世辞にも強いとは言えなかったし、言っては悪いが、頭の良い人間がプレイしていたとも思えない。しかし、いまチェスを相手した人間は――少なくとも、憂沙戯と同程度の知略を見せた。それは同時に共感性を持って、疑念を払拭するに足る根拠のない根拠となる。

 ヘビーゲーマーの直感が囁く。

 “コイツは生身の人間だ”、と。

 だから、違う人間だと言われれば、憂沙戯もそれは納得だった。

 が、


「……いや……誰? いきなり名乗られても困るんですけど……」


 軽快に警戒を解く応えにはなっていなかった。



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