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サイコ×ロジック  作者: 独楽
虚構
20/97

-003-

 Chapter 1 / Fabrication......_



 *



 Monday July.XX,A.D.2102 /

 Toyama Area-ⅰ / japan / at 17:30......_



 富山県、エリアⅠ。

 富裕層が住む、通称ファーストと呼ばれる区域。その賑わいを見せる繁華街を、蒼井雫は歩いていた。

 等間隔に並べられた人口樹、街頭――ゆったりとした幅のある二車線の道路には、音もなく過ぎ去っていく小型全自動車が見える。ちかちかと輝く街並みには、ホログラフが所々に浮いていて、それは人と建物と交わって景色を彩っている。

 とぼとぼと歩く雫とは対照的に、街のそれは面倒臭いほどに明るい。

 通い慣れた道とは退屈なものだけれど、今日はいつもにも増してつまらなく映る。その原因はやはり学校で――あの友人の言葉を、自分は引きずっているのだろう。


(…………)

(……もう、どうでもいいや……)


 諦めに似た感情が重苦しくまとわりつき、また一つと溜息を促す。

 こんな嘆息も様になってきたな……と苦笑いを浮かべた。

 雫の進む各種店舗の前にはホログラフ広告が設置されていて――これは誰の目にもそう映るのだろう、広告が自分のほうへと向きアピールをする。それはデフォルメされたキャラクターだったり、アニメーションだったり、著名人が宣伝するCMだったり多種多様。店によってさまざまだ。

 骨董店の前を通り過ぎると、広告の一つが雫に向かってふよふよと近づいて来た。

 アニメ調の厚い本。

 それは歩く雫の隣に沿うように浮き、パラパラとめくれて見せる。やがて止まったページ、見開きのそれを横目で確認すると、その内容は紙媒体の書籍広告だった。

 自分の購入歴を辿ったのだろうか――たしかに購入した覚えはある。

 22世紀の今では、紙を使った本というのはめずらしく、特定のタイトルを入手するのは極めて難しい。雫は読書が好きで、よくそれを購入していた。電子書籍のそれでもいいけれど、紙媒体書籍には、質感を持って読み解く良さというものがあるし――なにより目に優しい。

 雫は広告を見、


(……哲学書……かな?)

(読んでもいいけど、興味無い……ごめんね)


 どうやら恋愛物ではなさそうだったので、視界ホロを指でさっと弾いてどかす。アニメ調の本はパタリと閉じ、骨董店の前へと勝手に戻っていった。

 目的の量販店に着くと、雫は迷うことなくフラワーショップへと向かった。


「いらっしゃいませ、蒼井雫さま。いつもの花をお求めですか?」


 店内に入ると、にこやかな笑顔が雫を迎えた。

 礼儀正しく一礼してみせる女性店員。

 彼女は人間ではなく機械――ヒューマノイドだ。

 かつて人間の仕事だった接客業は機械に委託され、個々のAI――人工知能を持ち、仕事に従事している。ここに足を運ぶ機会の多い雫の顔を、この機械の店員は覚えてくれていた。


「お墓参り……ですよね?」

「はい」

「偉いですね。きっと喜んでくれますよ」


 どうぞ、と、ヒューマノイドは包装した白百合の花を差し出す。

 雫はそれを受け取り、礼を言って会釈をした。


「支払いは電子マネーでお願いします」

「承りました。ご請求の方は内部端末リンカーを通して送らさせて頂きます。本人確認のため、スキャニングをお願いしてもよろしいですか?」


 雫は手で髪を抑え、カウンターに設置された網膜スキャナーを覗き込む。

 ピピっという認証音のあと、顔を上げた。


「ありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」


 笑顔で店員はそう。

 並べた台詞も完全にマニュアル対応のそれではあるけれど、人間のような感情という厄介なものがないぶん、ある意味ではヒューマノイドは素直と言える。

 ぺこり、と丁寧に頭を下げる店員を後ろに、雫は店を出た。

 雫が生まれたときからヒューマノイドは人間の生活の一部で、ショップの店員は大抵機械だ――という認識が社会には定着している。たまに飲食店に入っても、店員が機械なのか人間なのかどうかの判別なんて付かない。

 一度雫はヒューマノイドだと思って親切心で、


「あの、店員さん。頭の人口毛髪がハゲ散らかってますよ?」


 と言ったら、信じられないくらい怒られた覚えがある。

 だから雫は見知った店にしか足を運ばないし、基本的に外出することもしない。

 学校が終われば――“何もなく帰してもらえれば”――雫は自宅マンションへと一直線に帰る。

 それが雫の日常。

 けれど、今日は違った。


「……お父さん、お母さん……」


 向かったのは墓地。

 陽も落ちかけて、辺りには誰もいない。

 雫は白い花束を手に持ち、吹き抜ける風に長い髪を揺らす。

 墓場の奥には高いフェンスがあり、飛行場があった。滑走路には航空機と戦闘ヘリがいくつもならんでいて、銃を持った兵士の姿も遠くに見える。


 いまにも泣きだしそうな夕暮れの中――

 雫は花を置き、静かに手を合わせて、死んだ両親に黙祷を捧げた。




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