エピソード8 新アイテム獲得
その日の夜、部屋へと戻った雄太は、次なる作戦を考えていた。
彼女は、面白い本があったら教えて欲しい、と言っていた。
ここで、彼女に本を勧められれば、彼女は雄太のことを、とても趣味が合う人だと認識してくれるであろう。
1ランクレベルアップというところだ。
しかし、雄太の本好きは、彼女と話をするきっかけ作りのための、俄か知識に他ならない。
雄太がこれまでに読んだ本は、『不思議の国のアリス』の他に、『ロビンソン・クルーソー』『ガリバー旅行記』の三作だけだ。
有名なこれらの本は、きっと彼女なら読破しているに違いない。
彼女が求める面白い本とは、本好きの彼女ですら知らなかった、未知なる本なのだ。
雄太にとっては非常にハードルが高かった。
どうやって面白い本を探し出すか。雄太は頭を抱えた。
次の日の土曜日、雄太は朝から図書館へ行くことにした。
とりあえず、どんな本があるのか、目で見て確かめるためだ。
そして雄太は、彼女に進める面白い本を、イギリス文学以外から見つけることに決めた。
それは、彼女のテリトリーであるイギリス文学から、彼女がまだ読んでいない面白い本を見つけるのは非常に困難だと思われたし、また、雄太が別の分野にも精通しているようにアピールすることもあった。
雄太は足早に、図書館へと向かった。
図書館には、それこそ何千何万と言う書物が置かれていた。
この中から一冊、彼女に勧める面白い本を見つけるのは、海の落ちてしまったコンタクトレンズを探し出すようなものに、雄太は感じられた。
雄太は思わずため息をついた。それでも、何とかして探し出すしかない。
雄太は小説のコーナーへと向かった。
小説コーナーは、作家別に分類されていて、国内外の作家がずらりと並んでいた。
雄太が知っているような有名小説家の名前もあった。
しかし、大半が名前を聞いたことも見たこともないような作家が多かった。
特に国内は蔵書が充実していることもあり、雄太の知らない作家が大半だった。
雄太は一瞬途方に暮れてしまったが、それでもすぐに気持ちを入れ替えて、本の前へと進んでいった。
雄太が最初に目を付けたのは、国内の新しい作家たちだった。
どの作家が新しいのかは、名前だけではわからなかったが、単行本が新しくてあまり汚れていなければ、それだけ新しい出版だと思い、そう言った本を中心に探し始めた。
とりあえず、興味を引くタイトルで、まだ汚れていない単行本を数冊手に取り、閲覧コーナーに腰を下ろした。
そして、最初の二、三十ページほどを読むと、本のタイトルと書き出しの要約、そして本の評価を、持参したノートにメモしていった。
本来なら前頁読みたいところであるが、それでは時間が余りにも足りない。
小説は冒頭の数ページが勝負、と言うことをどこかで耳にしていた雄太は、冒頭部分だけで評価することに決めたのだった。
そして、持ってきた本を全て読み終わると、また小説コーナーへと赴き、数冊選び出しては閲覧コーナーで読むということを繰り返した。
そして、図書館が閉まる頃には、三十冊弱の本を、評価し終えていた。
最後に、雄太はノートを見返して、もっとも評価が高かった本を一冊選び出した。
それは、『ぼうママ』という、とある女性の半生を描いた小説だった。
特段に奇抜なことも、非日常的なこともないが、女性の半生が丁寧に描かれている、とても好感が持てる作品だった。
この本の出版は今年の初めとなっている。
蔵書にされて間もないのだろう、本は新品同様だった。
これならば、彼女がまだ読んでいない可能性が高い。
そう思った雄太は、この本を借りて、家路へとついた。
その日の夜から、雄太は『ぼうママ』を読み始めた。
読んでいくにつれて、止まらなくなった。
とても面白い小説だったからだ。
結局、雄太は徹夜をして、一晩で本を読み終えてしまったのだ。
読み終えた雄太は、哲也の疲れも感じず、とても安らかな気分になった。
これならば、きっと彼女も面白いと言ってくれるに違いない。
雄太はそう確信した。