エピソード17 ラスボス
雄太はその日、一大決心をしていた。
今日こそ彼女に好きだと言おう。
そう心に決めていた。
彼女とデートらしきものが出来るようになって、既に半年が過ぎていた。
本屋だけでなく、映画や芝居も見に行ったし、食事をしたりバーで飲んだりもした。
けれども、雄太は彼女に好きだと告白できなかった。
チャンスは何度もあった。
けれども、勇気を出せずにずるずると月日だけが過ぎてしまったのだ。
このままではいけない。
今日こそは告白するんだ。
雄太は、固い決意を胸に仕事場へと向かった。
彼女はいつものように忙しく仕事をしていた。
今日は食事の後、『月の雫』に誘ってそこで告白しよう。
雄太のポケットの中には、彼女へ渡すプレゼントがしまってあった。
そして、その日の昼休み、雄太は彼女の席へと赴き、言った。
「岩波さん、今日よかったら食事にいかない?」
「いいわよ。でも、その前に本屋に寄りたいの」
彼女が読んでいた本から顔を上げていった。
「じゃあ、本屋で、待ち合わせしよう」
雄太が少しぎこちない仕草で言った。
彼女を意識すればするほど、緊張の度合いが増してくる。
雄太はそそくさと自席へと戻っていった。
その日の夜、食事を終えた二人は『月の雫』へとやって来た。
彼女と来るのは二回目である。
雄太は、緊張を悟られないように注意しながら、手にしたグラスを傾けていた。
彼女は前回と同じように、壁に掛かっている絵画をゆっくりと眺めているようだ。
バーテンは気を効かせてくれたのか、雄太たちから少し離れてくれている。
告白するなら今しかない。
雄太は、勇気を振り絞り彼女の方へ向き直った。
「あ、あの、岩波さん」
真っ赤な顔をして雄太が彼女に話しかけた。
「なあに?」
彼女も雄太の方を向き、言った。
「あのね、えーと、なんていうか、そのう…」
中々次の言葉が出てこない。
「どうしたの、堀尾さん。どこか具合でも悪いの? 顔が赤いわよ」
彼女が心配そうに、雄太の顔を覗き込んだ。
「えーとね、実はね、僕ね、なんていうか…」
さらに緊張して、言葉が続かない。
「一体どうしたの? 堀尾さん変よ」
彼女が雄太を見つめながら言った。
「えーとね、岩波さんは、好きな、人は、いるの?」
雄太が消えそうな声で彼女に尋ねた。
「好きな人? 急にどうしたの?」
彼女が聞き返す。
「いや、ちょっとね。やっぱりいるよね」
雄太は下を向いたまま答えた。
彼女は少し困惑した表情を浮かべていた。
しかし、少しすると真顔になり雄太に話しかけた。
「いるわよ」
その言葉を聞いた時、雄太は目の前が真っ暗になった。
予想していたことではあった。
彼女くらい綺麗な人であれば、好きな人がいてもおかしくはない。
そうか、やっぱり好きな人がいるのか。雄太の顔は赤から青へと一瞬で変わってしまった。
それを見た彼女が、微笑ながら言った。
「目の前にね」
雄太は思わず、顔を上げて彼女を見た。
目の前にいるだって? それってもしかして…。
彼女は優しく微笑んだまま、雄太を見ていた。




