エピソード15 レベルアップ修行
それから、雄太は月に二回くらいのペースで彼女を食事に誘った。
食事の前には、映画を観たり芝居を観たりした。
彼女はいつも喜んでくれた。
そんな彼女の姿を見ると、雄太は最高の気分になれたのであった。
しかし、彼女との仲はそれ以上、中々発展しなかった。
時々本屋で会う。映画を観る。食事をする。そして家路につく。
そんなことが繰り返された。
それは口下手の雄太が、上手に彼女を誘えないから、であることが大きな理由だが、彼女の方もそれ以上は期待していないようにも思えた。
食事の後、何気なく「これから、どうしようか」と言ったことがある。
しかし彼女は、「遅くなる前に家に帰るわ」とやんわりと断って来た。
このままでは、ただの仲の良いお友達になってしまう。
雄太は焦りを感じつつ、次のステップに進むためにどうしたらよいのか、深く悩んでいた。
そして雄太が出した結論は、食事の後に洒落たバーに行くために、まずはそのバーを探すことだった。
お酒は好きという訳ではないが、下戸という訳でもない。
一人で飲むのは味気ないが、彼女と次のステップに進むためには、必要なことだ。
その日から雄太は、毎晩雰囲気の良いバーを探しに、バーのはしごをする日々が続いた。
努力の甲斐があり、ようやく一軒の洒落たバーを見つけた。
次は、このバーに通い、出来るだけ顔なじみになることだった。
「行きつけのバーがあるんだ」
そんなセリフを彼女に言って見たかった。
そうすれば次のステップに進めるかもしれない。
そんな考えが雄太の頭の中を過った。
そのバーは新宿にあった。
ビルの地下にある隠れ家的な店構えで、店はカウンター席が八席、テーブル席が二つという割と狭いバーだった。
何より雄太が気に入ったのは、店の壁に掲げられている絵画だった。
どことなく優しい雰囲気の風景画や、凛とした感じの肖像画などがずらりと掲げられていて、店の雰囲気をアーティスティックな感じにしている。
きっと彼女もこの雰囲気を気に入ってくれるに違いない、そう雄太は思った。
それから雄太は、毎晩そのバーに通った。
バーの名前は『月の雫』といった。
バーにはママとバーテンが一人ずつ。二人ともかなりの年配である。
雄太はすぐに顔見知りとなった。
さすがに毎晩通えば顔見知りになるのも早い。
口下手な雄太だったが、ママもバーテンもとても話し上手で、雄太はすぐに打ち解けた。
ある晩、雄太は、ママにこのお店に通っている理由を話した。
ママは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐにいつもの微笑に変わっていた。
そして、ママが言った。
「そういうことなら、私も協力しなくちゃね。私にできることがあったら、何でも言ってね」
雄太はジンライムを傾けながら、ママの話を聞いていた。
そして、その日がやって来た。
彼女と本屋で会った後に新宿に食事に出かけた。
映画や芝居を観なかった為、時間はかなり早めである。
これなら、その後にお酒に誘っても、もう遅いからと断られることはないだろう。
雄太は緊張した面持ちで、食事をとった。
食事が終わると、雄太が彼女に切り出した。
「この後だけど、よかったら、少し飲んでいかない? 近くに行きつけのバーがあるんだ」
彼女は意外そうな顔つきで尋ねた。
「堀尾さん、お酒好きなの?」
「そんなに強いわけじゃないけど、最近はよく行くんだ」
彼女は、返答を考えているようだった。
もしも断られたらどうしよう。
雄太は手に汗を握っていた。
「そうねえ。まだ時間も早いし。いいわ。飲みに行きましょ」
彼女がそう言うと、雄太は、よし、と心の中で思った。
これで次のステップに進める。
そう思うと嬉しさと不安と緊張がいっぺんに来た感じであった。




