エピソード12 二面攻略
次の週末にも、雄太は彼女を本屋へと誘った。
食事の誘いは未だに自信がないが、本屋であれば、何とか誘うことが出来た。
それでも、彼女と二人きりでいると、緊張してうまく話せなくなるのはあいかわらずだ。
そして、三回目の本屋デート(と雄太は思っている)の時、雄太は次のステップに入るための大事なキーワードを、彼女の口からきいた。
「私ね、お芝居を観るのが好きなの。映画もいいんだけど、やっぱり生の役者さんを近くで見れる、お芝居はとても魅力的だわ」
彼女が一冊の本を手に取りながら、目を輝かせていった。
その本は、最近舞台化が決まった現代フランスの小説本だった。
本の帯に『舞台化決定!』と大きく書かれていた。
雄太は、その本のタイトルをまじまじと見た。
『黄色い空の向こう側』。
その本が、どんな内容かは想像できなかったが、彼女は既に読んでいたらしい。
「堀尾さんは、この本読んだことある?」
彼女が、本を手に取ったまま、雄太に尋ねてきた。
「いや、まだ読んで、ないよ」
どきまぎしながら雄太が答えた。
すると、彼女がその本について語り始めた。
「この本はね、ある有名な画家が、自分の半生について振り返ると言う小説なの。その半生と言うのがとても波乱万丈でね。読み始めると、ついつい本の世界に吸い込まれてしまうのよ」
彼女は、本を見つめたまま言った。
雄太はそんな彼女の横顔を眺めていた。
「じゃあ、次は、この本を、読んで、みようかな」
雄太も本を手に取って言った。
「絶対おすすめよ」
彼女が微笑みながら言った。
そんな彼女の微笑に、緊張の度合いが増してしまう雄太であった。
その日は、『黄色い空の向こう側』を買って、家路へと着いた。
彼女の絶対おすすめ本である。
気合を入れて読まないと。
自宅へ帰ると、雄太は早速本を読み始めた。
『黄色い本の向こう側』は、今まで読んだ本の中でもトップクラスに入る面白さであった。
読み始めると、次の展開が楽しみで止まらなくなってしまう。
結局、雄太は徹夜をして本を一冊読み終えてしまった。
読み終えて、雄太は彼女の言葉を反芻していた。
『私、お芝居を観るのが好きなの』
それは、雄太に次なるアイテムを手に入れるための、キーワードだった。
彼女を、芝居を観に誘う。
芝居は夕方から夜に行われることが多いから、その後食事に誘ってもおかしくはない。
これは、次のステップに進むためのチャンスだ。
雄太は心が躍るような気分だった。
本についていた帯には、舞台化のホームページが記載されていた。
雄太は早速、そのホームページをパソコンで開いた。
公演は、来月の下旬からおよそ一か月間で、チケットはもう発売されていた。
しかしまだ、完売にはなっていないようだ。
雄太は、週末の夕方、仕事が終わってから観れる時間の回のチケットを購入した。
問題は、彼女をどうやって芝居を観に誘うかだ。
本屋で芝居のことを話しているから、直接面と向かって話をして誘ったとしても、断られる確率は小さいだろう。
けれども、彼女に対して上手く話せる自信はないし、万が一断られたらと思うとますます自信がなくなる。
もしも彼女が既に舞台のチケットを持っていたら、もしも彼女が雄太と二人きりで観ることを嫌がったら、と考え始めると、雄太は段々と憂鬱になってきた。
どうしようか。
雄太は頭を抱えて悩んでいた。




