エピソード11 二面突入
雄太が彼女と話が出来るようになって、既に三か月が過ぎていた。
少なくとも毎週一回は、彼女と本の話題で話ができるようになっていた。
彼女の本好きはかなりのもので、彼女は次から次へと雄太に面白い本を紹介してくれた。
それに対して雄太はというと、週一回くらいで紹介するのがやっとだった。
それでも彼女に紹介する本を探すために、毎日かかさずに本を読み続けていた。
ここで雄太は、次の段階に進むことを決意した。
彼女をデートに誘うのだ。
これは、女性とデートしたことがない雄太にとっては、とてもハードルの高いことだった。
どうやったら彼女を誘い出せるのか、雄太は知恵を絞った。
雄太が出した結論は、本屋に二人で行くと言うものだった。
彼女に面白い本を見繕ってもらう。
それならば、雄太でもなんとか彼女を誘い出せるだろう。
本屋に寄った後に、食事でもできれば文句がない所ではあるが、第一回目は本屋だけにしておこう、と雄太は思った。
急に食事に誘って、気味悪がるかもしれないし、何よりも食事まで誘える自信がなかった。
その日の終業後、帰り支度を始めた彼女に、雄太が近づいた。
「岩波さん、あのね」
雄太は、恐る恐る声を掛けた。
「なあに?」
彼女が帰り支度の手を止め、雄太の方に振り返った。
髪がなびき、彼女の香りが漂った。
「もしよかったら、これから、一緒に、本屋に、行かない?」
雄太が声を振り絞って言った。
彼女は突然のことに一瞬、驚いた表情を見出たが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「いいわよ。一緒に行きましょう」
彼女が雄太に言った。
雄太は、よし、と心の中で叫んだ。
本屋は、駅ビルの中にあった。
有名書籍店の支店でこの辺りでは最も在庫の種類が豊富だ。
書籍は分野別に並べられていて、彼女の好きなイギリス文学のコーナーもある。
雄太もよくこの本屋には来ていたので、どのあたりにどういった本があるか、大体把握していた。
本屋までに道すがら、彼女は雄太にどういった本を探しているのか聞いてきた。
雄太は、中津宗助と言う作家の本を探していると答えた。
以前に呼んだ中津宗助著の本が、とても面白かったからだ。
すると、彼女もその作家のことが好きだと言うことが分かった。
しかも、雄太以上にその作家の本を読んでいて、面白かった本のタイトルをいくつか挙げてくれた。
雄太は、そんな彼女に感心しつつ、好みが同じことにとても嬉しい気分だった。
本屋に着くと、二人は真っ直ぐに中津宗助の本があるコーナーへと向かった。
現代日本ファンタジーのコーナーである。
すると彼女が中津宗助の本を手にとった。
「これが特に面白いのよ」
そう言うと、手に取った本を雄太に差し出した。
タイトルは『僕とカーテンとミニバイク』。
雄太はまだ読んでいないタイトルだ。
「面白そうなタイトルだね」
雄太が本のカバーを見ながら言った。
「ここに出て来る主人公がね、とっても奇抜な考えの持ち主なの。是非読んでみて」
彼女が目を輝かせて雄太に話しかけた。
雄太は、精一杯の笑顔で答えた。
「うん。じゃあ、この本にしよう」
結局その日は、『僕とカーテンとミニバイク』と言う本を買っただけで、それぞれの家路についた。
それでも、雄太にとっては大きな進歩だ。
彼女と二人きりで本屋に行けたことそのものが、とても嬉しかったからだ。
雄太は早く彼女と食事がいけるくらいのデートがしたいと思っているが、まだ自分に自信がないことも承知していた。
今日は、本屋デート出来ただけでも充分だ。
第二面はまだ始まったばかりだ。
焦ることはない。
雄太は逸る気持ちを抑えながら、自宅へと帰った。




