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狗鷲  作者: 瑠璃蝶草
3/3

怨みと仮契約

殺したいほど怨んでいるのなら、代わりに我が狩りましょう…あなたと良い縁が結ばれますように…

(許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!)


女は怨みの塊だった。

なんの変哲も無い、穏やかで平和な日常。

それ以外を望んだことなど一度たりとも無かったのに……。

……女は人生を狂わされた。


強姦。


それが女の怨みの原因で、根本で……人生が狂った元凶だ。


(許せない許さないあいつらあいつらあいつらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


笑って自分を穢して、面白そうに映像にまで残して。

ゴミを捨てるように自分を雨の中に捨てていった。


警察にも言った。でも……余計に辱められるだけだった。

余計に精神が壊れただけだった。


それなら……それならば!!


私が、私がこの手でコロシテヤル!!!!


ナイフを片手に持ってひたすらに覚えているあいつ等の顔を捜す。


忘れられない……忘れられるわけがない!!

自分をこんなにまで穢して、辱めて……人生を狂わせたのだから!!!


(どこだどこだどこだどこだどこだどこだ……)


「……お姉さん」


ゴスロリ姿の黒髪の少女が女に話しかける。

だが、女は見向きもせず少女の横を通り過ぎた。

しかし少女は気にした風でもなく、女を追いかける。


(コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル)


「すごい怨みの塊ですね。

 そんなに“そいつら”が憎いのなら……私が【狩って】あげましょう」


全く反応を示さないのに、独り言のように女に話しかけ続ける少女。

その口元はとても楽しそうに弧を描いている。


(憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっっっっ!!!!!)


「報酬はたった一つ……これと同じものを手に入れて、

 手に入れた場所さえ教えてくれればいい……」


少女が手に持ったのは一枚のディスク。

それを女の背中へと差し出す。


(許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!)


「さぁ……どうしますか?」


ガシッ!!


女は鬼の形相で振り返ると、差し出された物を手ごと掴んだ。


「殺してあいつらを!! もっとも残酷で残忍な方法で!

 啼いて喚いて命乞いをするくらいに! 

 でも、絶対に殺して!!!!!!!!」


至近距離で吐かれる怨嗟の叫び。

しかし、少女は怯むことなく、その手を握り返す。


「仮契約完了。それではコレと同じものを手に入れ次第、

 手に入れた場所を書いたメモを添えてどこでもいい、

 川へとお投げください。確認後、速やかに依頼を遂行しましょう。

 もし疑わしかったらそのディスクは破壊してください。

 その場合は契約解消。この話は無かったことになります。

 

 それでは良い縁が結ばれることを……」


恭しく一礼をすると……少女はまるで最初からそこに

いなかったかのように消えた。


女はぼけーっとした表情でそれを見届けた。

……先程までの怨み怒り憎しみは、嘘のように

消えていた。しかし、忘れたわけではない。

ただ……そう、一番酷かった部分を「持っていかれた」。

そんな気分だった。


夢だったんじゃないかとふと視線を下に降ろすと。


その手には確かにさきほど受け取ったディスクが。


そして一枚の付箋が。


「…………………“狗鷲”……?」


女は書いてある文字をそのまま読む。


「……絶対、殺してやるんだからっ」


先程よりは落ち着いた、しかし鋭い殺意の篭った目で

空を睨むと、まずはディスクを手に入れようと、

踵をかえした。




――某ゲームセンター――

先程消えた少女が、遠く離れた場所で再び姿を現した。

そこはあるゲームセンター。

少女はため息をつくと、その中に入っていく。


余所見をすることも、何かを探すそぶりすらもみせず、

奥に、奥に進んでいく。


そしてピタリと足を止める。

視線の先にはゾンビのシューティングゲームで遊ぶ、

黒髪をハーフアップした少女がいた。


「おかえり~夜劒くん。どうだった?」


黒髪の少女は後ろを振り向かずに、ゴスロリの少女を夜劒よつるぎと呼んだ。

それに応える様にゴスロリの少女……夜劒は肩をすくめて返事をした。



「言われたとおり接触してきたぞ。

 お前の言うとおり向こうは即行で仮契約を結んできた…。

 …正直あれは怖かったぜ」


女と話していたときと打って変わって、少年のような声で話す夜劒。


「しかし……なんでまた、俺は女装しなきゃいけなかったんだ?」


スカートの裾をひらりとつまんで口をへの字にする。

そう、実はこの少女……否、少年・夜劒零よつるぎぜろは黒髪の少女に頼まれて

女装をしていただけなのだった。


「それはね~。今回のあの女性が酷く男性に対して

 怨みが強いからね~。もし女装してなかったら

 …夜劒くん、刺されてたかもよ?」


「俺、そんなに柔じゃないぜ?」

「もしもの話だから。それに……っと!!」


大型ボスに出くわしたらしく、気がそっちに逸れる。


「それにしても…いいのか? そんな女性と仮契約して」

「うん……むしろああしないと……本当に彼女の人生が

 終わるよ……」


確かに。

もし夜劒があそこで女に話しかけなかったら。

今頃不審者……最悪傷害事件を起こして捕まっていたかもしれない。


「……お前、そこまで考えて」

「なぁ~んてね。だって怖いじゃん。ナイフ持ってうろついてるなんてさ。

 それに夜劒くんの女装見たかったし」

「最後が本音か!! ……はぁ……見直した俺がバカだったか」

「うん」

「はっきり言うな」

「事実だ……ああああっ!!!死んだぁ!」

「ざまぁ」

「うっさい!」


コンテュー画面で少女は迷い無く「NO」を打ち抜き、

夜劒に向き直る。


「じゃあ、行こうか。」

「ああ……  。」


夜劒が名前を呼ぶが、雑音に消されて聞こえない。


「違うよ、今は……【狗鷲】だ」


そう答えた黒髪の少女の瞳は……金色に光っていた。

夜劒君はありがとうございました!もう一人は…なんとなく分った人はいるかと…

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