冬休みの宿題
宿題に悩まされるのは夏休みだけではない。
冬休みは冬休みで年末年始の慌ただしい中、テキストを解いたり書き初めをしたりと大変だ。
特に書き初めは、墨染で部屋を汚さないようにするために新聞をひき、邪魔をしないように家族に言付けなくてはいけない。書道というものは、精神統一から入るのだから。部屋の汚れは心の汚れだ。
書いている文字は『希望の光』という定番の四文字。先ほどから何枚にも渡りこの言葉を書いているが、どうも納得のいく作品にならない。
明日から学校だから、もう妥協しようとは思うのだが……。書道にこだわりがあるから、中途半端なものは書きたくない。
和室で正座をして悩んでいると、建付けの悪いふすまが音を立てて開く。
「父さん、書き初め出来た?」
私に宿題を押し付けた息子が入って来た。
「いや、まだだ」
息子は呆れ顔で私を見る。
「いいって、適当で」
「でもなぁ。第一、これはお前がやるべきだろう。もう頼むのはこれきりにしてくれよ。忙しいんだ」
「そう言わないでよ。頼りにしているんだから」
調子のいい顔でにやにやしている。こいつは昔からこうだ。
私がため息をついていると、また勢いよく音を立ててふすまがまた開いた。
「パパ、書き初めは……て、なんでおじいちゃんが書いてるのさ! うますぎるからおじいちゃんに頼んだらダメだって去年言ったじゃん」
元気の良い孫が父親に悪態をつく。元気が取り柄のサッカー少年なのはいいが、落ち着きがなく口の悪いところが玉に瑕だ。
「なんだよ、パパ習字も書けないのかよ。ダセェ」
孫は軽蔑した目で父、私にとっての息子を睨む。私も同様の視線をなげかけた。
「まったくだ。お前は昔からそうだ。まさか、自分の息子の宿題まで私に頼むとは思いもよらなかったが」
私の息子は、いい年をして親と息子に睨まれてへらへらしている。
情けない。私の教育は間違えていたようだ。新年そうそう、今年も反省しよう。
了