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Empty idea  作者: 坂津狂鬼
《恍然自失》
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9/18

chaos trance

「成る程……俺の予想は外れたわけか」

改札口周辺には予想通り、大勢の女性がいた。

誰かを待つように佇む女性。なにかの紙を配っている女性。場所を尋ねている女性。

そのどれもが片手に携帯を持っていた。

(……交通機関を丸ごと潰してしまったら徒歩で移動されて捕捉するのは困難になる。それならば交通機関は活かしておいて俺をここに誘い込み、捕えた方が楽ってわけか…………)

つまり空は反崎の罠に嵌ってしまったということ。

反崎は濁川空についての情報を何も知らない。その為、どんな些細な事であれ情報が必要となる。

だから何か特徴的な人物が、女子高方面に向かいそうな場合に、自分に携帯で知らせるように命令しているのだろう。

そして最悪なことに空は銀髪というとても目立ってしまう容姿の持ち主だ。

情報はすぐさま反崎に伝わってしまうだろう。

(……俺の情報が反崎に伝わってしまったのなら仕方が無い。それならば次の手を打てばいい……)

空はそう考えてICカード型乗車券を取り出す。

考えだしてある空の次の手とは、ただの強行突破である。

交通機関の使用が可能ならば、あとは改札すら突破すればいい話だ。

「あ、あの……」

しかし空が改札を過ぎ去った瞬間、その思惑はすぐさま崩れ去ってしまう。

気弱そうな少女が彼に話し掛けてきた。

それも当然のことだろう。その少女は現在コードによって他人に操られている状態で、目立つものに注意するように命令されていて、銀髪の少年を見かけてしまったのだから話し掛ける行動は当然の事だ。

「なんですか?」

「聞きたい事が有るんですけど…………」

割と動揺せずに対応している空だが、この状況は芳しくない。

無視して逃亡を図れば、すぐさま反崎に完全な情報として出回り、ここで捕まる可能性が高い。

だからといって少女の質問に答えたところで、いつ解放されるか分からない。

空としては、迅速かつ周囲には秘密裏にことを済ませたい。

(……やるしかないか。最悪の手段だが、この場においては最善の策だろう……)

自身の中である決断をすると、空は少女の言葉を無視してその耳元に顔を近づけた。

相手の反応を見る前に、彼はあることを呟き。

「ぁ、あ……ぁぁぁあああああああっ!!」

空が離れると共に少女は突然に泣き叫びだした。

突然の出来事に周囲の人間が少女に気を取られている間に、空はそのままホームまで移動。

何事かもを無視して電車に乗り合わせる。

(……奴らは命令をされているだけだ。視覚や聴覚の共感はされない。つまりは反崎には現場のアクシデントに対応することが出来ない。それを利用すれば数十秒や数分であれ時間を稼ぐことはできる……)

空が行ったのは、つまりはそういう事。

自分に話し掛けてきたあの気弱そうな少女を利用し、彼女に注目が集まる様に仕向けた。

ではどうやって、空はあの少女が泣き叫ぶように仕掛けたのか。

答えは簡単。反崎と同種の方法。つまりコードの使用。

彼自身のコードを使って、そうなるように仕向けたのだ。

濁川空のコードは《忘我混沌》。相手を精神状態を操るだけのコードだ。

精神状態を操る、とはいったものも反崎のコードのように人の意志や行動を操れるわけではない。

感情制御という表現が一番捉え易いだろう。

人の喜怒哀楽や催眠状態や集中状態などの精神状態を自在に操作することができるのだ。

ただし、その対象となるのは一人だけで二人同時にコードを使用することはできない。

そのコードを利用してあの少女の感情を一時的に、変動させた。

具体的に言えば、いきなり感情が抑えきれないように仕向けたのだ。

その結果、少女はいきなり泣き叫びだしてしまった。

空がコードで起こした現象は、ただ相手の感情を高ぶらせただけ。

「はぁ……」

軽く溜息を吐きながら彼は、空いている座席に座り携帯を取り出す。

そのままキーをして何かを調べた後、空はしばらくの間の休息に入った。




親友が死んだという事を来た時には、驚きのあまり呆然と立ち尽くし、涙を流すことしかできなかった。

昔から仲良くしていたし、よく互いの家にお泊りとかもしていた。

小学校も中学校も一緒で、中学の時に部活に入った理由も彼女が入部しようと誘ってくれたからだ。

だから親友である彼女が死んだときいた時には泣く事しかできなかった。

それからお通夜に参加したときもずっと涙が止まることが無かったし、しばらくの間、学校でも暗い気分でいた。

数ヶ月が経って、彼女の両親にたまたま会った。そしてその時に彼女の遺書のことを知った。

そこに書かれてある内容を読んだ時には驚愕と激怒が入り混じった感情が込み上げてきた。

強姦された事に対しての怒り。それにその事によって彼女が身籠った事への怒り。そしてその事を何故自分に相談してくれなかったのかという悔しさと虚しさ。

彼女のご両親はすぐさまそれを警察に訴えたそうだが、なんでも証拠が不十分という理由で正当に扱ってもらえなかったらしい。

マスコミにこの事を晒すという手段もあったけど、彼女のご両親の精神状態はもうそれに耐えられないレベルまで落ちていた。

だからこそ、私が復讐をする。

彼女が死ぬほど思い悩んだんだ。ならそれに関わった人間も死ぬべきだ。

どうせ私には身に余る力がある。もしも使い時があるとしたのならこの時だけだろう。

情報を集めるのは案外苦労したけど、集めきった。あの事件に関わった人間すべてのリストを。

本当は私が直接手を下してやりたかった。でもこの正しい復讐で私が裁かれるのはとても気に食わなかった。

だから力を使った。証拠の隠滅から辺りに対する警戒まで、徹底的に人数を多く使ってでもやりきった。

そして毎回、殺害を犯す人間を変えていった。一人に連続殺人などを背負わせるのは酷だと思ったから。

大体の復讐が終わり、最後の一人となったところで私の計画を邪魔しようとする奴が現れた。

『出来るさ。俺なんだから』

そう言い切った男は、現在、私を捕まえる為にこちらに向かおうとしているはずだ。

何故、私の復讐をするのか……分からない。

考えられる要点があるとするのならば…………男があの事件に関わっていたという事ぐらいだ。

ならば殺さなければいけない。殺してもいい人間だ。殺すべき存在だ。

だから全力で排除しなければならない……。

「間違ってるんじゃない。それ」

沈村四葉という名の男の使いは、そう易々と私の言葉を否定してきた。

女子高から移動して近くのカラオケボックスに隠れている私に、一緒に人質として連れてきた彼女から問いかけてきたのだ。

「何故、貴女はこんな事をするの?」

その疑問に対して私は、その全てを語り……そして沈村四葉はそれを否定した。

「どこが……間違っているというの」

「怒るのは分かるよ。悔しいのも、殺してやりたいって思ったのも理解できる。でも貴女のやってる事は復讐であって復讐じゃない」

「…………何を言うかと思えば。別に私にとっての復讐でいいのよ。彼らに罰すら与えられれば」

「貴女、楽しんでるだけなんでしょ。それを言い訳にして」

「……へっ?」

聞き間違えかと思って、私は思わずそんな情けない声をだす。

だって、私がやってる事はどう考えたって復讐だ。罪から逃れたものたちに罰を与える。立派な復讐だ。

それを楽しんでるだけなどと……それは侮蔑以外の何物でもない。

「ゲームみたいに楽しんで……復讐なんてただの言い訳。だって本当にただの復讐なら関係無い人達を傷付けないはずでしょ」

「それは……通り魔という架空の存在を創りだして、一貫性を分からなくさせるためで…………」

「それも言い訳。復讐だったら、むしろ偶然殺されたというよりも当然殺されたっていう風にした方が良いと思う。通り魔だったら偶然そこに居たから殺されたっていう……復讐としての意味がなくなっちゃう」

「それは…………」

「私は貴女を許さない。無関係である部長に人を傷付けさせて、さらには私まで殺させようとした。部長は本当はいい人なのに……そんな危険な事を無理矢理やらせようとした」

「…………」

彼女の言葉に、何か言い返せる言葉を私は知らなかった。

彼女の言ってることは正しい。私は今まで無関係の人間を操って殺させて、無関係の人間を傷付けた。

でも私はただアイツらに、親友が死んでしまう原因になったアイツらに罰を与えたくて……。

「裁かれない罪に怒りを覚えるのは普通だと思う。でもね、だからって人を殺してまで勝手に罰を与えていいってわけじゃない。無関係の人間を、無理矢理、犯罪者にさせていい道理にはならない。だから私は単純に、貴女を許さない」

「…………うるさい」

言い返せる言葉はただそれだけ。

……私だってどこかで分かってた。そんな事は心のどこかで理解してた。

でも、それでも私は復讐をしなければ……この気持ちを一生晴らす事はできない。

「お前に―――」

感情のまま彼女に言葉をぶつけようとした瞬間、タイミング悪く、内線電話が鳴った。

おかしい。ここの店員は女性だった。つまり大きくいえばこの店は私の支配下にあるはずだ。

だから今、私と彼女がいるこの部屋はいつまでも貸切状態であって出て行く必要もない。

だから内線電話など掛かるわけがないのに……。

何か、とてつもなく嫌な予感がした。

しばらく放置しておくと、電話は自然と鳴り止んだが……。

「電話掛けたんだから出ろよ……まったく」

直後、ノックも無しに銀髪の少年が部屋に入ってきた。

まったく、分かり難いッタラありゃしない

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