True plan
「……見つけた…………」
自室に戻り、ありったけの情報網を使い調べた結果、一つの事が判明した。
通り魔事件最初の被害者である男は、過去に犯罪歴があった。
容疑としては強姦。その時に捕まりはせずに被害者女性もその事を言いだせずにいたそうだ。
その事実が判明したのはそれから数ヶ月後に被害者女性が自殺し、その遺書に書かれていて初めて判明した。
男性は罪を認めず、証拠としても弱いために事件は不起訴。そのまま世間からも忘れ去られてしまった。
それがおおよそ、今回の通り魔事件の原因。動機は怨恨というところだろうか。
「つくづく、嫌な事件だ……」
空は目を通していた資料を机に置き、そのまま席を立ってインスタントのコーヒーを作り始めた。
コーヒーに含まれているカフェインには何でも集中力を高める効果があるそうで、その話を聞いて以来、空は何かがあると進んでコーヒーを飲むようになっていた。
「お邪魔しまーす。ってあれ、何飲んでるの?」
「まるで友達の家に上がり込むかのように入ってくるんだな、お前は」
溜息を吐きながら空は時計を確認する。
時刻はすでに16時過ぎ。たしかに沈村四葉が来てもおかしくない時刻だった。
「コーヒー、飲むか?」
「ん……いいや。苦いの苦手だし」
四葉は靴を脱ぎながら断り、まるで我が家かのように室内へと足を踏み入れる。
空はそんな四葉の姿を見ながら、少しばかり疑問に思った。
「お前、家に帰ってないのか?」
「だって、そんな事をしたら勉強教えて貰う時間が減るでしょ」
昨日と同じ制服姿のままの四葉は、席に座り鞄を降ろしながらそう言い訳する。
溜息を吐きながらコーヒーを啜った後、空は四葉へとあることを告げる。
「今日は5時になったら帰れ。強制な」
「えぇー」
「あの電話の説明だけじゃ親御さんは変な事に巻き込まれたんじゃないかって心配する。だから今日帰ってちゃんと説明して、それから明日来ればいい」
「うぅー」
「返事は?」
「…………はい」
「よろしい。さて、今日は時間が無いから色々と詰め込み方式で教えていくぞ」
コーヒーを一気に飲み干して空は四葉が座っている席へと移動する。
四葉を帰らせたのは最後のピースを埋めるため。
ようは情報整理と欠けている情報を自分の中で補完するための時間が欲しかったのだ。
四葉が来る前まで読んでいた資料を読み終わった後、机上にデタラメにばら撒かれた資料を眺めながら思考をまとめていく。
まず空自身が捕まえた通り魔。イラスト部部長は真犯人ではない。それは沈村四葉の証言によりアリバイが実証できている。
だが警察はイラスト部部長を通り魔として扱い、事件を収拾しようとしている。その原因となるものはイラスト部員全員の証言。まるで口裏でも合わせたかのように、居なかったと証言している。それに関してはコードが絡んできているのだろう。
そして罪状。通り魔に現在掛けられている罪状は二つ。傷害罪と殺人未遂罪。そのうち殺人未遂罪の方は沈村四葉が告訴事態を取り下げるつもりでいる。つまりは傷害罪でしか起訴できない。刑も相当軽くなっただろう。
それらが現状。そして重要なのはここから先。
通り魔事件の最初の被害者である男性は過去に強姦の犯罪を犯している。
その時の被害者女性は数ヶ月後に自殺。それによって発見された遺書から強姦の事実が判明したが、男性はそれを認めず結果、不起訴となってこの件は終わった。
強姦事件について深く調べていくと、どうやら実行犯が一人だけではない疑惑が出てきた。
犯行が複数で行われた可能性を示唆して、通り魔事件の被害者男性の過去を調べていくと……嫌な事にビンゴしていく。全員過去にその強姦事件に関わった人物ばかりだ。例外は一人もいない。
つまりこの通り魔事件の発生原因は、過去に起きた強姦事件である。
さらにそこから推察できることは、通り魔事件の黒幕は被害者女性の親族または親友などのどちらかであるという事だ。
「……本当、後味悪い事件になりそう」
再度入れ直したコーヒーを啜りながら大体が見えてきた事件の全貌に落胆する。
こんな私情ばかりを交えている事件にはあまり関わりたくはない。感情ほど厄介なものはないからだ。
空はすぐさま思考を入れ替え、この通り魔事件を成り立たせているもう一つの根幹に手を掛ける。
(……敵コードについて。今回の事件における異常は女性。つまり敵コードの制限として女性限定、もしくは同性限定である可能性が非常に高い。さらにイラスト部部長と沈村四葉の発言から察するに精神面に関与するコードであると推察できる。これらの要点を踏まえると……)
コードで起こせる現象は"マインドコントロール"、制限は女性限定のコードであること。
おそらく今までの通り魔事件として犯人役を務めてきたのは全て女性。
女性がいくら刃物を持ったところで男性の方が筋力面などが上なため、複数の人間を操って殺したのかもしれない。
ともかく女性を使って強姦事件に関わった男性を全て殺した。その途中に混ぜた傷害事件に関しては、おおよそ傷が残らない程度の浅いもので助かったように演出したのだろう。
そして殺人事件との間に幾つもの傷害事件をいれることで、ただの通り魔として目を晦ませることができた。
告訴の取り下げも、証言もコードのせいだろう。コントロールされた人物が証言して、さらには告訴をわざわざ取り下げてきた。
だが、これでは説明不足。
(沈村四葉に関して、途中でコントロールが切れたと推測できる。その原因としては違和感に気付いたから……つまりこのコードの弱点は自分自身がコントロールされている事に気付く事……)
別に操られていた事自体に気付かなくてもいいだろう。違和感を疑問に思い考えるだけで、このコードは解けてしまうのだろう。
範囲、対象は広いがコード自体の効果が解かれやすい。
それがこのコードの弱点。
(それをどう攻めるか…………)
幸いこちらにはコードによるコントロールが解けている沈村四葉がいる。この駒を使わない手はないだろう。
だが彼女にも一人前に用事というものがある。まずはそれを解消してから。
そしてその沈村四葉が用事を済ませてる期間中に、こちらはコード使用者を捜し出す。
空はまとまった思考を飲み干すかのようにコーヒーを口に含んだ。
急展開っすねぇ……
試験まであと一週間。できればそれまで終わらせzZZ