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Empty idea  作者: 坂津狂鬼
《下位上達》
16/18

Night


「ごめんなさい! 貴方とは付き合えません! 友達からとしても無理です! ごめんなさい!!」

雨上がりの清々しいほど蒼い空の下、少女の謝罪の声が響いていた。



「そりゃまた盛大に断ったな」

四葉が告白を断ってから数時間後、とあるボロアパートにて少年はそんな感想を口にした。

「少しバカにしてる? 私だって恥ずかしかったんだから」

勝手に冷蔵庫から飲み物を取り出して、四葉はチマチマと飲みながらそう呟いていた。

とにもかくにも、これで空の予想通りの展開になるだろう。

四葉にそのことについて警告するのもいいが、そうしたらまた何と言われるか分かった物じゃない。

「まあ俺から言えることは、夜道に気を付けろってことくらいか」

「なにそれ。私、襲われでもするの」

まさしくその通り。

……と言いたい衝動を抑えつけて、空は曖昧なことを言った。

「コードっていうのは膨大な力でもある。悪用すると決めたら、大犯罪だって簡単にやってのける。この前の通り魔のようにな。だからお前も気を付けるべきだ、という忠告だ」

「そんなに網野君って悪い人なの?」

「別に悪人ではないはずだ。しかしだな、警察だって、教師だって犯罪を犯してしまう様な時代だ。犯罪を犯す事はないと思っていた人が、ある日突然、犯罪者になっていたということもありえなくはない」

「物騒な時代だねぇ」

「そんな時代であれ、俺たちは生きていかなきゃいけないんだけどな」

空も冷蔵庫から清涼飲料水を取り出し、一気に飲み干す。

そんな空の姿を見ながら何を思ったのか、四葉は一つ訊いてみる。

「濁川君はさ、もしも私が襲われそうになったら助けてくれる?」

「二つの条件のうちのどちらかが当て嵌まったらな」

「条件……?」

首を傾げてその条件を考える四葉の姿をしばらく冷めた目線で見た後に、空は答えを口にする。

「俺がお前を利用してピンチになった時と、お前が俺に依頼した時だ」

「その時以外は助けてくれないの?」

「ああ」

「こんなに親しい関係なのに?」

「親しいと思ってるのはお前だけだぞ」

「…………えっ!?」

淡々と言った空の言葉とは対照的に、驚嘆を漏らす四葉。

まさか毎日毎日、遊びにくるだけで親しい関係を築けるとでも思ったのだろうか。

空にとっては仕事の邪魔なだけだというのに。

「私、そんなに態度悪かった!?」

「ああ、そうだが?」

「うそぉぉ……どこが悪かったんだろ」

「働かないところだろ」

他人の家に来て、毎日、飲み物をタダで飲んでいた四葉にはなにも言い返せない言葉だった。



そして、時刻が9時を過ぎた頃。

時間的にそろそろだと思い、空は適当な理由をつけて四葉を家から追い出して無理矢理に帰路につかせた。

これについて四葉は一つ文句があった。

そもそも夜の9時に女子学生を一人だけにするとはどういうことか。

普通は「女の子が一人だけだと危ないから送っていくよ」という一言を言うべきではないだろうか。

だがしかし、空の家には四葉が自主的に行っているし、それに空はいつもあまり長居するなという風に声を掛けているため、四葉はこの意見を強く言うことができない。

だが今日は少しばかり違う。

不審者に気を付けろというような言葉をかけた上で、この時間帯に一人で帰らせるなどあまりにも酷い。

本当に、金でしか動かない男だ。濁川空は。

「はぁ……本当に不審者が出てきたらどうしよう…………」

空からの忠告というものはよく当たる。まるで予言者ではないかというくらいに。

まあその忠告のほとんどは空自身が起こす、または起こさせる事についてのことばかりなのだが。

どちらにしろまた犯罪的なことに自身が巻き込まれなければ、案じることはないのだが。

考えれば考えるほどに、今こうして夜道を歩いていることが恐ろしくなる。

案ずるより産むが易しというが、そんな言葉に対して嘘だといいたくなるほどに恐ろしくなっていた。

ここは一旦、空の家に戻って今日は泊めてもらおう。

四葉がそう決心し、踵を返そうとしたとき。

「どうも沈村さん」

どうやら空の忠告通りの嫌な事が起こりそうな予兆がした。

「えぇーと……網野君、こんなとこで会うなんて偶然だね。家はこの近くなの?」

「いえ、別にそういうわけじゃないですよ」

「へぇー……じゃあ何でこんなところに?」

一応、四葉は淡い希望を込めて問いかけてみる。

空の忠告通りのことが必ず起こるとは限らないのだ。

もしもここで網野が適当に散歩していたなどを言って、このまま別れたら、空の忠告は無為に終わってくれる。

「君に会うためかな」

「そ、そう…………」

四葉の期待も虚しく消え去り、大体の状況とこれから起こる事、そしてその結末がわかってしまった。

ようはこの男、今から何か言った後に四葉をボコボコにするつもりなのだ。

精神的にボコボコにするのか、肉体的にボコボコにするのか、それとも他の方法でボコボコにするのか。

ともかくフラれたことに対する制裁を加えようとしているのだ。

本当に、空に送って貰えばよかった。

心の中で後悔しながらも、それをどうにか表情に出さないように堪える。

「で、でも、なんで今日、貴方を振ったばかりの私に会いたかったの?」

どうにか表情に焦りを出さない様にしているためか、四葉の台詞はチグハグになってしまい、さらにはまるで挑発しているかのような発言になってしまった。

やはり自分には嘘が向いていない。

四葉が後悔に後悔を重ねている中、時は無情に進む。

「ふふっ……白昼堂々公衆の面前で僕を盛大に振ってくださった、大胆でアホ面で馬鹿な君には少し分からないかもしれないけど、僕はとても怒っているんだ」

「そ、そんなに私にフラれたのがムカついたの?」

「僕そこまで傲慢な人間じゃないよ。フラれること自体は覚悟は出来てたさ……ただ場所と時とタイミングだ。それが僕を苛立たせた」

確かに、と納得できものが四葉にはあった。

学校の校門の前でフラれるということは非常に嫌だったろう。

ムカつくだろう。こんな恥辱を被らせた相手に復讐したいと思うだろう。

だから網野は今、四葉の前に立っているのだろう。

「まさか、あそこまでどうどうと断られるとは思っていなくてね。驚いてその場で絞め殺してやろうかと思ったよ」

「誰かの下につくのが嫌でたまらない。そんな網野は大勢の人がいる前で盛大にフラれるという恥辱を与えられた事が堪らなく頭にきた。だからわざわざ沈村を殺しに来たって訳だろ。そうさせたんだし、俺が」

「濁川君!? なんで……あっ」

いきなり現れた空に二人とも目線を向ける。

そして、なんでここにいるの、と問い掛けようとした四葉は問う前に気付いてしまった。彼が現れた理由に。

そもそも彼自身が言っていた。自分が助ける時は二つだけだと。

金を払われた時。それと自身が利用した時。

つまり四葉は前回同様、今回も空に利用された駒に過ぎなかった。

「濁川さん……あぁ、そういう事ですか。納得がいきますね」

「そうだよ。校門の前なんていう目立つ場所を指定したのも、四葉がお前をふる理由を与えたのも、それとついでに断るときの台詞も一緒に考えてやったか。それら全てが俺が仕組んだこと。お前に恥辱を与えるためにわざわざやったんだぜ」

「……一応訊きますけど、僕が貴方に何かしましたか?」

「いや別に。ただ俺は、生きてる中で一度たりとも負けたことがないとか勝ち続けてるような奴を見ると異常にムカついてな。たまたま沈村がお前の話をしてきたから、それを利用しただけだよ」

「はぁ……だから僕は、卑怯で卑劣で卑屈な人が嫌いになるんですよ。負け組よりもたちが悪い」

「お前も人のこと言えないだろ。コードの力で勝ってきた卑劣漢」

「気付いてたんですか?」

「コードとはよく関わるんでね。使う奴、特有の臭いとかが分かるんだよ俺は」

「そうですか。面倒な人ですね……でもまあ、黒幕が分かったすっきりしました」

そう言った網野はしばらく声を上げながら笑っていた。

彼もどこかで違和感を感じていたんだろう。四葉がわざわざ校門なんて目立つ場所でふってきた事が。

彼女自身にもデメリットがある。普通はどこか人気が無い場所で断るはずだ。

でもそれが濁川空のせいだと分かれば納得がいく。四葉が他人からどう評価されようとも、彼にはまったく関係ない。

むしろ網野に恥辱を与えられるメリットがある。

だから彼女があんな行動をしたんだと納得できる。そして彼女に対する怒りは消える。

消えた怒りは、空に対する憤怒へと昇華して網野を暴走させる。

「とりあえず、死んでください!」

空の懐へと大きく踏み込み、網野は握った拳を突き刺すように放つ。

そんな怒りにまみれた網野とは対照的に、空は至って冷静だった。自身が殴られそうな状況にあるにも関わらず。

それもそうだろう。彼にとってはこの状況すらも予定通り。四葉も網野も、彼の掌で踊らされているにすぎないのだから。

まったく動じることもない。だが、だからといって棒立ちのままでいるわけでもいかない。

網野がコードのことを認めたため、空の思考はスムーズに進む。

おおよそ網野健司のコードは相手の機能面を低下させる、または自身の機能面を向上させるコードなのだろう。

つまり網野が繰り出そうとしている拳は、空が絶対に避けることができない一撃であるはずだ。

最悪の場合、その一撃で空を昏倒させることすら可能の威力を持っているはずだ。

そういう風にコードが、現象が働いている。

絶対に避けることができず、圧倒的な威力をもつ拳をかわす方法。

そんなものは相手のコードを無効化するか、相手にコードを使わせないかの二種しかない。

反崎泉希のときは相手にコードを使わせない方法をとったが、今回はそうもいかない。

なにせ時間がない。相手の心を揺さぶるだけの時間が。

故に、その二種以外の方法を空はとる。

(……心情変化(トランス)、走馬灯。認識速度上昇…………ッ!!)

心中で唱えると共に、空の視界上に移るものが途端に遅くなる。

事故や落下によって人が危機的状況に陥った時、時間の流れが遅くなるように感じることがある。

空はコードによって無理矢理、精神状態を危機的状況だと誤認させてその状態となったのだ。

理由は一つ。網野の拳を躱して、反撃するため。

この心情変化って簡単に言えば、バーストリ……うわっ何をするやめ(ry

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