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第6話「タッグ選び」

あの自己紹介から一週間が経った。

その一週間で上級修練生達による歓迎会に行ったり、荷物が届いたものを必要な物とそうじゃない物に分類したり。

お婆様に貰った甲冑や剣もその荷物の中にあった。

そして始めの週である月の曜日。曜日は月・炎・水・風・地・闇・聖の七つに分類される。

闇と聖は休日ということでその二日は休みになる。

それぞれ属性が曜日の由来になってるんだけど、魔法が一般的になってからは魔法に属さない聖の属性は魔法ではなく神術と呼ばれていて神が扱っていたものらしく。

神の力、神力というもので唱えるとか。


詳しくは知らないけど、モニカに曜日の説明と共に聖について教えてもらったのはそのくらい。


お婆様と一緒に暮らしていた時はほとんど森の中での生活だったから曜日なんてまったく気にしてなかったなぁ。




「では今話した通り地・闇・聖の曜日の三日間で、新修練生である一年――つまりお前達にトーナメント形式で戦ってもらう」


「クルビル先生、なんでまたそんなことを?」


「……聞いていなかったのか。一年共の実力がどれほどあるか見極めるのが目的だ」


科別新修練生実戦トーナメント――通称・新人戦。

クルビル先生が言うにはこれは毎年やっていることで入学から月が変わる前にやってしまうらしい。


このトーナメントの結果によって科別の一年間の授業や訓練の内容が大きく変わるとか。


一週前までは結構雰囲気は柔らかかったけど、今は固く、重苦しい雰囲気を呈している。

モニカやアリスちゃんも真面目に耳を傾けていて、真剣そのもの。

自然と私の気も引き締まる。



「場所は校舎地下に設けられた地下訓練場の特別舞台にて行われる。他の先生方も見に来られる。くれぐれも恥じぬように頼むぞ」


地下訓練場――基本的には修練生なら誰でも出入りが許されていて、訓練場は科別に分かれている。


何年とかそういうのは関係ないこともあって上級修練生の訓練風景も見られて少し勉強になった。

確か見たのは二日前。

地下訓練場にみんなで案内された時。


初めて見た時は凄いって思ったけど、次は二回目だからきっと大丈夫。


驚かない自信はあるよ、うん


「まあ精々、訓練場で心身を少しでも鍛えて頑張るといい。科別の新人戦が終わるまで授業も訓練も行わないことになっているからな注意しろ」


「授業も訓練もなしなんて何を考えてますの?」


「さあ……ボクたちがどういう行動を取るか試されてる。とか」


クルビル先生の終わるまで授業も訓練もなし発言にメリッサさんもアリスちゃんも先生には聞こえない程度の小声で不満を漏らしている。


私が聞こえてるから、もしかしたらクルビル先生にも聞こえてるかもしれない。



「では今から開始時刻や注意事項が書かれた紙を配る。足りない奴は前に出ろ」


クルビル先生は大量の紙を前の席の人達の前に置く。

それを後ろに回して、紙が後ろの人達に行き渡る。


「はい、クーアちゃん」


「ありがとうモニカ」


私の左隣の席に座っているモニカに結構な量の紙を渡されて、一枚抜き取ると右隣の人に渡す。


「……足りない奴はいないか?」


「いませーん」


クルビル先生が配り終わったのを目で確認した後に問う。


そして一番後ろの右端に座っている人が声を大にして言った



「よし! それでは本日は以上。解散」


クルビル先生は満足した表情で頷くと一言、解散の号令を出して教室を後にした。



「これが……」


一番上に【科別実戦トーナメント案内表】と大きく書かれている下にトーナメントの日程とか注意事項が――そこの一つに目がいった。

トーナメントは全てタッグ戦のため、必ず二人一組で出ること。

二人一組……ということは誰かと一緒にってお願いしないといけないんだよね。

どうしようかな


「あのクーアちゃん」


「? モニカ、何?」

モニカが話し掛けてきた。

私はモニカの方を向いて耳を傾ける


「えっと、良かったらタッグ戦を一緒に――」


「ああああっ! ありませんわ!」


急に大きな叫びにも似た声が耳に響く。


声が聞こえた方に目を向けるとメリッサさんが机の中へ手を入れたり机の上で何か探してる


「メリッサさん、どうしたの?」


「それがトーナメントの紙がないらしくて……」


事情を訊くとメリッサさんじゃなくてアリスちゃんが答えてくれた。

メリッサさんは――真っ青な表情で何処か遠くを見ている。

大丈夫かな


「えっと、それなら教員準備室に行って先生に貰ってきた方が良いんじゃないかな?」


「一人で行くのは怖いですわ! アリス、一緒に――」


「やだ。あの先生、怖いから行きたくない……特に目が」


私の提案にメリッサさんはアリスちゃんに救いを求める。

だけど、アリスちゃんにすぐに拒否されてしまう。


「うぅ……そんなあんまりですわ…………この学校で一番怖い、クルビル先生の下に単身赴けと良いますの? そんなの産卵時期のドラゴンの巣へ丸腰で突入するようなものですわ」


産卵時期のドラゴン。

それって確かドラゴンが神経質になってどの時期よりも一番凶暴化するって本で読んだ気がする。

クルビル先生は産卵時期のドラゴンと同じ。でもなんか納得してしまう自分がいる……だってクルビル先生ってそれぐらい言ってもおかしくないくらいに怖いんだよね。顔が



「もし良かったら、私が一緒にクルビル先生のところに」


「行ってくれますの!?」


「う、うん……いいよ?」


私が最後まで言い切る前にメリッサさんが食い気味に言ってくる。

その通りだったから私は正直に頷く。


「良かったですわ……わたくし、どうもあの先生と面と向かって話すのが苦手でして」


「そうなんだ」


「……クーアちゃん」


行こうと立ち上がった時、右から負のオーラを纏ったモニカの低い声が。

しまった、モニカの話がまだだった……どうしよう怒ってる? でも訊くしか


「も、モニカ?」


「はい。なんですか?」


いつもは笑顔で言ってくれるんだけど今は笑みがない。

なんか怖い


「えっとさっき何か言い掛けたけど、何を」「もう良いです! クーアちゃんなんて知りません!」


「え? え? モニカ?」



そっぽを向いて頬を少し膨らませている。

私はモニカを怒らせてしまったらしい。

どうやったら機嫌を……


「さあ行きますわよ? クーアさん」


「え? ちょっと待――」

「待てませんわ! わたくしがトーナメント案内表を手に入れられるかどうかの瀬戸際なのですから!」


私がどうやってモニカの機嫌を直してもらうか考えていたらメリッサさんに半ば強引に腕を引かれて教室の外に連れ出されてしまった。

はぁーモニカとは寮部屋が一緒だから次、顔を合わせる時、気まずいよ……



「さあ、行きますわよ?」


「うん……」


一階まで降りて、教員準備室の前まで来る。

今はクルビル先生より、モニカに会う事が怖かった。

折角出来た初めての友達だし、早く仲直りして笑顔を見たい。

でもそれをするにはクルビル先生に会って、メリッサさんの案内表を貰わないといけないんだよね。


うう、さっきより気が重い


「クーアさん、大丈夫ですの?」


「……だ、大丈夫だよ?」


「そうですか、では参りましょう」


メリッサさんによって開かれる教員準備室のドア。

そこから見えるのは数人の教師らしい女の人の姿。

その中にはクルビル先生の姿があって、出来たらいないでほしいと心の中で思った自分がいることにクルビル先生を見た瞬間に気付いた。

正直、どの修練生よりも私が会う方が辛いと思うんだ。

だって試験の時のアレで良くは思われてないと思うから



「クーアさん、先に」


「え? うん……」


開けても全然教員準備室に入る素振りがないと思ったら後ろに下がって、私の背中を押す。

私に先に入ってほしいらしい、意外とメリッサさんって臆病なのかもしれない。


クルビル先生を前にしたら誰だって臆病になるだろうけど……私は今、ドラゴンの巣に入る気持ちで教員準備室に足を踏み入れた。


「む? ダリアスにルートシグマか。何か用か?」


瞬間、クルビル先生の鋭い眼孔が私達の姿を捉える。

それだけで恐怖心を煽られているような――そんな気分になる。

何も悪いことなんてしてないよ? でもね、クルビル先生を前にするだけで怖くて


「えっと実はメリッサさんのトーナメントの案内表がなくて」


「何? それは本当かルートシグマ」


「ひぃっ!? ほ、本当ですわ!」


メリッサさんは怖いらしく私の後ろに隠れている。

だからクルビル先生の目はずっと私のみを捉えていて怖い


「あの時、無ければ言えと前に出ろと言わなかったか?」


「い、言ってましたわ……」


「その、気付いたのは先生が教室を出た後だったんです。だから」


咎めるような口調。

私が理由を言ってみたら先生の鋭い目がもっと鋭くなった気がした。

正直、早く出ていきたい。

逃げ出したいって思うよ? でもそんなわけにもいかない……だって案内表は絶対必要で、大切なものだから


「ふん……なるほどな。分かった、少し待て」


先生は理解してくれたみたいで机の上を漁っている。

少しして一枚の紙を持って、私達のところに戻ってきた



「これが先程、渡したものと同じ物だ。受け取れ」


「メリッサさん?」


「はい……ありがとうですわ」


クルビル先生は私が貰ったものと同じものを差し出す。

私が前に出るように促すとメリッサさんは少し怯えた様子でクルビル先生の前に出て、科別実戦トーナメントの案内表の紙を受け取って頭を下げた。


「今後はこのようなことがないようにな」


「はい、ありがとうございます!」


私も頭を下げてクルビル先生にお礼を言って、怯えたままのメリッサさんと一緒に教員準備室を後にした。



「良かったですわ。何事もなくて」


「そうだね。ちょっと緊張したよ」


メリッサさんの言う通り何事もなく終わった。

まあその前に色々あったけどね……とりあえずメリッサさんが喜んでくれてるみたいで良かった


「その、この案内表を見て思いましたのですけれど」


「うん? 何?」


「よ、良ければ一緒に」


私はメリッサさんの顔を見る。

気のせいかな少し頬が赤いような


「やっ、やっぱり良いですわ! だから今のは忘れてくださって結構ですわ!」


「あっ、メリッサさん! ……行っちゃった」


メリッサさんは急に走り出して何処かに行ってしまった。

いったい、なんて言おうとしたのかなぁ……少し気になる


「考えても仕方ないか。メリッサさんのことはメリッサさんにしか分からないよね」


私は寮に戻ろうかと思ったけど、お腹が空いたから校内の食堂に行く事にした。


別にモニカと会うのが気まずいからじゃないからね?


「コカトリスのタマゴサンドセットをください」


「あいよ」


私は食堂に着くとコカトリスのタマゴサンドセットを注文した。

私、好きなんだタマゴサンド。


「お待たせ」


「ありがとうございます」



注文したものが置かれると私はそれを持って、座るテーブルを探す



「あ、アリスちゃん!」


「ん。さっきぶり」


一つのテーブルにアリスちゃんが座っていた。

それに気付くとアリスちゃんはフォークを加えながら左手を挙げて返事をしてくれた


「ここ、良いかな?」


「いい。ボクも君に話したいことがあったから」


「クーアで良いよ。話したいこと?」


私はアリスちゃんに許可をもらうと椅子を引いて座る。

アリスちゃんと向かい合う形になる。


アリスちゃんが食べてるお皿には山盛りのお肉が乗っていた。

それを休みなく四角く小さめに食べやすいサイズに切られてるお肉を休みなく口に運んでいる。


それがなんだか可愛くてそれについて触れようと思ったけど、話したいことが何なのか。

そっちの方が気になって訊いてみた


「うん、科別実戦トーナメント。君……クーアと一緒に出たい」


「私と? でもメリッサさんは」


「メリッサより、クーアとが良い。ボクじゃ、だめ?」


な、なんでだろう。

メリッサさんより私がって。

私、アリスちゃんとはあんまり話してないような気がするんだけど、いったいどうして。


「駄目じゃないけど……なんで私?」


「自己紹介。あの時、剣聖になるのが目標って言ってた」


「うん、剣聖様になるのが私の夢なんだ」


確かに私は言った。

剣聖になることが私の最大の目標であり、夢だから。

でも出来たらフォークで指差すようにして言うのはやめてほしいな



「剣聖を目標にしている人なんて君以外にいなかった。ボクは強くなること……剣聖を目標にしている人と、クーアとタッグ組みたい」


「そ、そうなんだ。えっと考えさせてもらっても良い? まだ決めるのは前日まででも大丈夫みたいだし」


私の目を真っ直ぐ見つめて言うアリスちゃん。

私と組みたいのは剣聖を目標にしているから? 出来るだけ高い目標の人とってことかな。


「いいよ前日まで待ってる」

「あ、お肉……」


そんなことを考えていると、アリスちゃんは立ち上がってそれだけ言ってお皿の返却口に。

お肉がまだ余ってることが気になったんだけど


「……肉、詰めて」

「あいよ」


袋にお肉を詰めてもらっている。

部屋で食べるのかな、お肉。


「あっ、全然食べてない……」

アリスちゃんの話に集中してて食べるのを忘れてた。

私はタマゴサンドを食べ終わると返却口にお皿を入れて寮に戻る



「はぁ……緊張するなぁ」


部屋の前。

モニカは部屋にいるかな…ああ緊張する



「クーアさん!」


「? メリッサさん?」


ドアノブに手を触れた瞬間、背後から声が聞こえた。

振り返ってみるとそこにはメリッサさんが立っていた




「メリッサさん、どうしたの?」


「その、やっぱり聞いてもらいたくて来ました。聞いてくれますか? クーアさん」


「え? う、うん。いいよ?」


聞いてほしいって何をだろう? やっぱりってことはさっき言ってたことと同じものだったりして


「わたくしと一緒に科別実戦トーナメントに出てほしいんですの」


「トーナメントに?」

……アリスちゃんに続いてメリッサさんまで。

剣聖を目標にするってそんなに珍しいかな。

剣聖になることがとても難しいことは私にだって分かってるつもりだけど


「はい。今すぐに決めろとは言いませんわ……また後日、出来たら申請期限もありますからなるべく早く決めてもらえると嬉しいですわ」


「うん、出来るだけ早く。決まったら言うね?」


「はい、ではまたお会いしましょう」


メリッサさんは優雅に頭を下げると踵を返して歩き去っていった。

私は改めてドアノブを――あれ、開かない?


「カードキー忘れてませんか?」

扉の向こうから聞き覚えるのある声が聞こえる。

これはモニカの声だ。ということは中にいるんだ……っと今はドアを。

そうだモニカの言う通り、部屋に入るには鍵の代わりになる配布されたカードキーが必要なんだった


「あ、あった」


ポケットの中にカードキーがあった。

それを鍵口に入れて縦にスライドさせる。

ガチャッという音と共に鍵が開く



「おかえりなさいクーアちゃん」


「ただいまモニカ」


部屋に入ると自動らしく、鍵が掛かる音が背後から聞こえる。

そしてモニカの言葉が。

二段ベッドの上から見下ろす、未だ笑顔のないモニカ


「遅かったですね」


「うん、ちょっとね。……えっと、怒ってる?」


「怒ってます」


気になって訊いた言葉。

返ってきたのは怒っているという感情はあんまり込もってないモニカの言葉


「どうしたら、機嫌直してくれるの?」


「何でもします?」


「うん、する」


こんな雰囲気、私の望んだものじゃない。

モニカが笑って、いつものように接してくれるなら。

私はなんでもする自信はあった。あったけど



「じゃあわたしを抱きしめてください」


「抱きしめ――え?」

もっとこうシリアスで真面目な感じだと思ってた。

モニカは二段ベッドの上の奥に


「抱きしめてくれるまで許しません」


こんなお願いをされたこと、私にはない。

お婆様にそんなこと言われたこと――いや、あのお婆様がそんなことを言われたら。

ちょっと考えたくないね、うん



「抱きしめないと駄目なの?」


「駄目です。クーアちゃん、何でもするって言いましたよね?」


――言いました。これほど言わない方が良かったと思うことはないよ


「分かったよ。じゃあ今から行くからね」

「はい。待ってます」


私は二段ベッドの上の方に上がる。

モニカは横になって壁の方を向いている。



「モニカ……」


「あっ、クーアちゃん」


私も同じように横になってモニカの方を向いて抱きしめる。

他意がない、誰かに言われなかったらこれくらい私だって平気。

女の子同士だし……でもお願いされるとなんか気恥ずかしい気分になるんだよね。

分かってくれるかなぁ、この気持ち


「モニカ、これで良いの?」


「はい、大丈夫です。なんだかクーアちゃんに抱きしめられてると安心します」


「それ喜んでいいのかな」


なんだかそう言われると照れるな。こうやって見るとモニカ可愛い、近いし余計に


「もちろんです。クーアちゃん、これは強制じゃないんですけど……聞いてくれますか」


「うん、聞いてるよ」


モニカちゃんのお願い二度目かな? 今度はどんなお願いされるのかまた緊張が


「わたしと科別実戦トーナメントに出てほしいです」



――何となく分かってた。身近な存在だから。モニカと組むかもって……このモニカの言葉で私は誰と組むか決められた。決めた



アリスちゃんと組もうって

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