持たざる者の咆哮【中編】
「一秒」の壁を越えた翌日。
連日の過酷な修行でカズマの肉体が悲鳴を上げているのを見かねてか、雷知は珍しく「今日は休みにする」と宣言した。
(自由時間か……。よし、師匠に何かプレゼントを買おう)
カズマは意気揚々と商店街を歩き回った。だが、不器用な男の買い物は迷走を極める。
「服……は、いつもあのパーカーだし。食べ物……いや、形に残るものがいい」
カズマは師匠のことを知っているつもりで実際の所は強くてたくさん食べていつも同じパーカーを着ている女性というくらいしか知らなかった。
武器にも疎くファッションもわからないカズマには1日という時間はあっという間に過ぎた。
日が傾き始めた頃、路地裏の小さな露店で、透明な雫の形をした小さな石のペンダントが目に留まった。
「お目が高いねぇ。それは持ち主の属性に反応して色が変わる不思議な石だよ」
老婆の言葉に、カズマは雷知の金髪を思い出した。
「これだ……。これ、ください!」
日が完全に落ちた街の広場。街灯の下で、いつものパーカーのフードを深く被った雷知が、少し眠そうに待っていた。
「遅いよ。腹減ったんだけど」
「悪い、師匠! ……えっと、その前に、これ。いつも修行に付き合ってくれてる礼だ」
雷知は不思議そうに箱を開け、透明なペンダントに触れた。
その瞬間、石は彼女の魔力に感応し、淡く、けれど力強い『黄金色』の光を放った。彼女の髪の色と同じ、美しい雷の色だ。
「…………」
雷知は珍しく言葉を失っていた。街灯とペンダントの光が、彼女の寂しげな瞳を柔らかく照らし出す。
「……ふーん。あんた、ほんとにセンスないと思ってたけど。悪くないね」
フードをぐっと引き下げ、顔の半分を隠して微笑む師匠。
その帰り道、彼女は前を歩きながら静かに口を開いた。
「明日から教えるのは、本当の意味で『命を削る』技術だよ。今日買ったその石みたいに、綺麗に光って終わるか、泥臭く生き残るか……あんた次第だね」
「一秒」の壁を越えた。だが、実戦で使える「一分」への道は、想像を絶する絶望の連続だった。
カズマは何度も雷を纏っては、数秒で激痛にのたうち回り、地面を転がった。
「……はぁ、はぁ! 師匠、これ……気合だけじゃ、無理だ……!」
「当たり前だよ。垂れ流すだけじゃ一瞬で空っぽさ。いいかカズマ、『静』と『動』を思い出せ」
雷知は、ボロボロの弟子に非情な助言を飛ばす。
「攻撃を放つ『動』の瞬間だけ電圧を上げ、回避や移動の『静』の時は出力を最小限まで絞る。雷の脈動を、心臓の鼓動と同期させなさい」
そこからは、まさに「精密機械」を目指す修行だった。
失敗すれば全身に電撃が逆流し、成功しても精神が削り取られる。
精神力や気力をエネルギーに戦うカズマにとって、それは「針の穴に糸を通し続けるような格闘」だった。
十秒、二十秒、四十秒――。
一ヶ月。来る日も来る日も、カズマは意識が飛ぶ寸前の限界領域で雷をコントロールし続けた。
そしてある夕暮れ。岩場を縦横無尽に駆け抜けたカズマの体が、ついに「一分」を超えて輝き続けた。
「……はぁっ、はぁっ! 師匠……一分……超えたぞ……!」
それは一分二十秒という上々の出来だった。
汗だくで膝をつくカズマ。それを見つめる雷知の瞳に、初めて「戸惑い」が混じった。
(魔力5の男が……一ヶ月でここまで洗練されるなんて。……もう、私の知っている『初心者』じゃないね)
雷知はゆっくりとパーカーのフードを脱ぎ捨てた。
「……いいだろう。カズマ、今のあんたなら、相手をする資格がある」
「え……?」
「全力で来い。私を本気にさせてみな」




