表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

009.スナッチ

「なぁ、ミルフィ」


 身分証を取得し、シーブンファーブンへ戻る途中。


 目の前では建築現場の作業員が大量のレンガを担いで、2階まで軽々と跳躍していた。

 

 作業員の服装はタンクトップにヘルメット。

 安全装備なんて皆無。


 ナノマシンスーツの身体能力強化(フィジカルアシスト)機能を使用せず、高さ3〜4mを跳ぶなんてありえない。


「――あの人、なんであんなに高く飛べたんやろうな?」

「……?」


 隣にいたミルフィに聞くも怪訝な顔をされる。

 これが普通だけど、と言った顔だ。

 


「実はさ……、コッチへ来る時にモン……、モノノケの襲撃にあってな、その……、魔法とか、色々と記憶が無いんやわ」


 “んなアホなッ!”とクシードは心の中でツッコミを入れつつも、知らないことは聞くしかない。

 異世界人という身分を隠すためにも、ご都合主義に記憶喪失者を演じるしかない。

 

 幸い、純粋な性格のミルフィは記憶喪失をすんなり信じてくれた。



「……あ、れ、は……、グ、リ、ス、タ……」

「ぐりすた?」


 ミルフィはスケッチブックを開き、慣れた手つきで文字を綴る。

 

 不思議な顔をしているクシードに、ミルフィは手を前に差し出すと、サファイアのように青い水晶玉が現れた。


「うわッ! なんやこれッ?」

「グ、リ、ス、タ……」


 透き通る蒼色の球体はビリヤードの球ほどの大きさ。


 どのような原理かわからないが、おそらく、収納魔法か何かだろう。

 

 

「その“ぐりすた”については、夜メシの時にでも教えてくれる?」


 ミルフィはコクリと頷く。

 さりげなく夕食の確約も取りつけて、クシード達はシーブンファーブンへ向かった。




 ――冒険者ギルドに着く頃には、すっかり日は傾いていた。

 

 クシードにとって、冒険者業は元いた世界の仕事と似ている。

 元の世界へ帰る方法は見つからず、この世界を生きていく以上、仕事が必要だ。


 ミルフィの通訳業務の契約はあくまで口約束。

 いつ解雇されるか分からないため、早めに他の仕事を見つけておくのが賢明だ。

 


「――冒険者登録をしたいんですが」

 

「新規登録?」


 数時間前に案内されたもう1つの受付には、濃いアイメイクの受付嬢がいた。


「そろそろ冒険者達が帰ってくる時間だしさ、もっと早めに来てくれない?」


 濃いアイメイクの受付嬢は、投げやりに書類を取り出す。

 

 記入は、いつも通り代筆をミルフィに頼んだ。

 

「ハァ? あんた字も書けないの? ミルフィは字が書けるけど喋れない。逆にあんたは字は書けないけど喋れる……。変にバランス保ってんじゃん」


 嘲るような笑いとこの言い様……。

 態度が悪い。

 

 反対側にいるウサギ耳の受付嬢とは全く違う人種だ。


 

「ってか、使用武器とジョブも書けよ!」

「ジョブ?」


「……何で知らねぇんだよ」


 濃いアイメイクの受付嬢は、ため息混じりに面倒臭そうな顔で言う。


「ミルフィは白魔導士なの。依頼をこなす時の適任ジョブ確認や、パーティメンバー募集時に必要でしょ」


 よく分からないがジョブとは、資格みたいなものかもしれない。

 

 使用武器欄には“銃”と記入してもらい、ジョブは――。


銃使い(ガンスリンガー)ですね」

「……ハァ? 何それ?」


 受付嬢の鋭い視線が突き刺さる。

 

 銃を扱う人は、街中で何人も見かけている。

 銃使い(ガンスリンガー)職のような専門職があってもおかしくないハズなのだが。


「銃を使うので――」

「あー、メンドクサイから狩人にしておいてよ!」


 食い気味で否定され、勝手にジョブを決められた。


「明日、朝9:00! オリエンテーションするから! 以上! 今日はもう帰りな!」


 濃いアイメイクの受付嬢は、煙たそうにシッシッとクシード達を払いのけ、半ば追い返されるように冒険者ギルドを出た。



◆◆◆



「あーーーッ! ったく、あの受付嬢なんやねんッ! ほんまハラタツわぁーッ!」


 

 その日の夜。

 宿近くの大衆食堂にて、クシードはビールを煽りながら、憤慨していた。


「まぁでも、これで冒険者登録ができたし、後は仕事をこなすだけやんな」

「……」


 しかし、ミルフィの顔は浮かない。


「……で、でもあれやで。毎日シーブンファーブンに顔出しとれば、そのうち護衛も見つかるんちゃう?」

 

 彼女にとって最優先は護衛探しだ。


「――やし、オリエンテーション終わったら、護衛探しでもしような!」


 そう告げると、ミルフィは小さく頷いた。

 



 翌日――。

 シーブンファーブンにてクシードはオリエンテーションを受講していた。

 

 内容は冒険者としての心得や依頼の流れなど。

 受講者はクシードを含み3人。

 

 冒険者ギルドは全国に存在し、シーブンファーブンもそのひとつだ。

 そして、ギルド商工会がありシーブンファーブンはここに所属しているため、他の町へ行っても依頼が受けられるとのこと。

 

 その証として、各冒険者ギルド固有のバッジがある。


 シーブンファーブンのバッジはアーチ型で、色によってランク分けされる。

 クシードのような新人はパープルカラーから始まり、最高ランクはレッドカラーである。

 

 ちなみにシーブンファーブンとは、虹色の架け橋という意味で、“様々な人との繋がりを結ぶ”のが理念らしい。


 仕事内容は雑用などから始まり、主な業務は異形の生物“モノノケ”の駆除だ。


『――モノノケを斃したら、スナッチで処理して下さい』


 “スナッチ?”

 

 初めて聞く用語。

 しかし、他に受講していた2名は納得している。

 

 あとでミルフィに確認しよう。


 

 

「――以上がオリエンテーションとなります」


 約1時間の講義を終え、クシードが研修室を出るとミルフィが待っていた。


「これでオレも仕事受けられるで!」


 クシードのにこやかな笑顔につられて、ミルフィの表情も柔らかくなる。


 時刻は10:30前。


 早速依頼を受けようにも、午前の部の時間帯は既に過ぎている。

 

 少し時間ができてしまったな――。

 

 クシードとミルフィは冒険者ギルド近くの公園へ移動し、2人並んでベンチに座った。

 


「――ところでミルフィ、スナッチって何かわかる?」

「……」


 ミルフィは目をパチパチさせると、いきなりクシードに向けて腕を伸ばした。

 

 その指先は空を掴み、そして“ナニカ”を手繰(たぐ)り寄せた。


 瞬間、全身の血が逆流するような圧迫感がクシードを襲う。


「ぐっ……」


 身体が重い。

 一体、何が、起こったんだ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ