008.冒険者ギルド
ルシュガルの中央通りを進む。
すると冒険者ギルド「シーブンファーブン」の看板が見えてきた。
オレンジの塗り壁に、赤茶色の化粧柱が可愛らしい外観だ。
玄関の扉を押し開けると、木の温もりが感じられる開放的な空間があった。
なんだか思ってたんと全然違う……。
冒険者ギルドと言えば、武骨な猛者たちが集う殺風景なところを想像していたが、ここはまるで都会のカフェだ。
時刻は昼すぎ。
そのためか、人はまばらで落ち着いていた。
「――こんにちは。依頼をしたいのですが受付はここですか?」
「はい! どのような内容でしょうか?」
クシードは受付にいたモカ色のウサギ耳の女性に話しかけた。
受付嬢は、元気な声と笑顔を向ける。
同時に、受付嬢はクシードの後ろにも視線を向けた。
「あれ? ミルフィさんじゃないですか?」
「なんや? 知り合いなん?」
ミルフィはコクリと頷く。
「筆談の“方言”女子、ミルフィさんですからね!」
「カッコええ通り名持っとるやん!」
クシードが茶化すと、ミルフィは赤面し、手にしていたスケッチブックで顔を隠した。
和やかな雰囲気の下、クシードは受付嬢に護衛の募集について聞く。
「んー……、オウレは今、軍が駐屯している最前線ですからね」
「……最前線?」
「はい! ロクエティアに抵抗するため軍が置かれているんです」
受付嬢が言うには、ルシュガルから西へ向かうとロザーカと呼ばれる西側の最大都市があるらしい。
その先に、ミルフィの故郷オウレがあるのだとか。
「――カロッサ・ヴァキノからロザーカは、直線距離で大体150ルぐらい離れています。結構遠いですよ!」
受付嬢は地図を広げて指でなぞる。
なるほど。
確かに遠い。
道はまっすぐじゃないので、実際はもっと……、いや、結構あるな。
そもそも“1ル”が何キロメートルなのかはわからないが……。
どこかのタイミングで確認が必要だ。
それに、カロッサ・ヴァキノとロザーカ間は鉄道が通じていたが、ロクエティアによって破壊されてしまい、今は街道を通るしかないとのこと。
つまり、移動は徒歩がメイン。
長い日数がかかる。
道中も安全が保障されていない。
さらに、護衛は同世代の女性限定という条件付き。
コミュ障のミルフィは異性相手には緊張して話せない。また、“今までボッチだったので、ガールズトークをしたい”という理由もある。
何ともお気楽な……。
同性だから気を遣わなくて良さそうであるが、命を預ける護衛がそんな友達感覚で良いのか、とツッコミたくなる。
そのため、護衛探しは難航の一路を辿った。
しかし、護衛探しが厳しいのは逆に好都合である。
そのタイムラグを利用して、他に仕事を見つけるつもりだ。
「……話変わりますけど、冒険者の仕事って何をするんですか?」
「冒険者業はモノノケ退治がメインです! 他にお使いや草むしりといった雑務もありますよ!」
「モノノケ?」
知らない言葉。
クシードの眉が歪む。
「……んーと、憲兵さんの業務外のお仕事ですね! 企業さんからの依頼で、輸送車や馬車の護衛、出張退治が多いですよ」
どうやら元の世界のモンスターと同じような認識で良いだろう。
「その冒険者って、誰でも簡単になれるものなのですか?」
「はい。身分証さえあれば登録できますよ!」
そう言って受付嬢は、反対側にあるカウンターを指差した。
「実は、ミルフィさんも冒険者なんですよ!」
「ウソやん!? マジで!?」
ミルフィは気まずそうに視線を逸らした。
「メッチャかっこええやん!」
本当に誰でも簡単になれそうだ。
だが、身分証が必要となるとハードルは一気に上がる。
あぁ、そうだ――。
「――そういや、身分証を無くしとったな」
◆◆◆
受付嬢からアドバイスをもらい、クシード達はルシュガルの行政庁舎へやって来た。
庁舎は街の中央部に位置し、地上12階建と他の建物より圧倒的に高い――が、高層ビルに見慣れたクシードからすれば、なんということもなかった。
身分証は1階にある、戸籍管理課で発行できるそうだ。
早速、足を運び再発行を申し出る。
「――再発行ですか? 無くした経緯を聞かせてください」
対応にあたったのは、シワが刻まれた目元の渋い男性職員。
「経緯かぁ……? なんや、思い出されへんなぁ……」
「その発音……訛り……、もしかして西側からの疎開者でしょうか?」
「……まぁ、そんな感じですね」
“異世界人に身分証は発行できるのか?”
単純な疑問がクシードにはあったが、会話を重ねてきたミルフィの喋り方にヒントがあった。
彼女の話し方はこの国の西側特有の言葉遣い。
幸いにもクシードの話し方と類似していた。
それに役所の記録は紙ベース。
電子照合のような機器類は見当たらない。
これは何世代も前のやり方だ。
それに災害などの緊急事態により、身分証を無くしたなんてよくあること。
こうやって“疎開中に紛失した”ことにすれば案外すんなり行くかもしれない。
とクシードは読んでいた。
「――ここまで来るの大変でしたね」
彼の目論み通り、“疎開者”と言う言葉に、職員は手慣れた様子で、引き出しから1枚のカードを取り出す。
「これに名前を書いて、魔力を注いで下さい」
名前はミルフィに代筆してもらい、クシードはカードを手にした。
そもそも“魔力を注ぐ”とはなんだろう。
よくある創作物同様、何かをイメージすればよいのだろうか。
カードを指で挟み、魔力的な何かを念じるようにクシードは目を瞑った。
「……こんなもんで、いいですかね?」
クシードはカードを職員に渡す。
「あぁ、無属性なんですね。久しぶりに見たな」
「えっ!」
まさかの魔力持ち――。
異世界転移の特典だろうか。
珍しい属性とか特殊性があり、異世界転移の主人公っぽくて良い。
「ちなみに、無属性の人って、結構珍しいのですか?」
思わずテンションが上がり、少し興奮気味で聞く。
「んー、100人に1〜2人ぐらいですかねぇ」
地味に多いやんけ。
血液型で言えばAB型みたいな感覚で言われた……。
――こうして、クシードは無事に身分証を取得できた。
「これで冒険者登録ができるんやな」
「……?」
ミルフィは首を傾げた。
「あーいや、その……、冒険者登録するんも、ミルフィも冒険者やん? 通訳するんには、同行せんなんから、オレもしておいた方がええかなぁ〜、って思ってん」
苦し紛れの説明をしながら、クシードは再びシーブンファーブンへと向かった。




