034.配達屋と剣客
「はぁ〜、やっぱ馬車は楽よねー!」
鮮やかな青空に流れる雲。
心地良いそよ風が髪を揺らす。
荷台で寝転ぶパーレットはご満悦だった。
チェマから次なる町“トサブジエカ”までは、終日歩け通せばたどり着く距離。
だが、やはり歩くのは億劫。
そんなジェルコ街道を賢く進む秘策がある。
それは――。
『ヒッチハイク』
もちろん闇雲に行っては危険だ。
通り過ぎる幾つもの馬車の中から、安全で親切な人に狙いを定めて交渉を行う――。
そして成功したのは、運送会社を営むウマ耳を生やしたケモ族のジコネー・ガモットという老人と、彼の幼馴染であり用心棒を務めるコーヌ族のオゥタニサ・シヨヘイヘと言う双剣を携えた老剣士。
2人は首都カロッサ・ヴァキノから故郷であるトサブジエカへ帰る途中だと言う。
「なぁお嬢ちゃん達、次の休憩所で少し休もうさ」
柔和な笑みを浮かべながら、ジコネーが手綱を握り、トイトッポと呼ばれる黄色いフワフワな羽毛に覆われた、ダチョウのような鳥を操る。
優しく揺れる荷台の上で、クシード達4人はのんびりと風に吹かれていた――。
休憩中のこと。
クシードは移動中、リボンでラッピングされた小包を見つけていた。
「――そういや木箱に紛れてプレゼントボックスがあったんですけど、アレも荷物なんですか?」
興味本位で聞くと、ジコネーは煙草をくゆらせながらシワ深い顔に優しい笑みを広げた。
「あぁ、あれか。あれはな、4歳になる孫娘のために買ったプレゼントだよ」
傍らでオゥタニサも立派な顎髭を撫でつつ、温かな笑い声を響かせる。
「リリーナちゃん人形だっけか? 都会でしか手に入らねぇ限定版なんだぜ!」
“リリーナちゃん人形”
この言葉にアマレティは嬉々として瞳を輝かせた。
「懐かしいぃ〜、ウチもぉ子供の頃ぉ遊んだぁ〜!」
「――ッ!」
それに合わせてミルフィも嬉しそうに頷く。
「あたし人形遊びよりも、戦いごっこやボール遊びばっかりだったなぁ」
「男の子寄りやってんな」
和やかな空気が満ちている。
乗せてくれたお礼にと、コーヒーを淹れるクシードの背景には、会話の花が咲いていた。
「――なんだか家に着いたら、俺の孫と一緒に遊んで欲しいくらいだな!」
「うん〜、全然いいよぉ〜」
冗談めかしたジコネーの誘いに、アマレティが屈託のない笑顔で応じる。
「おいおいジコネー。嬢ちゃん達は冒険者だぜ? 報酬が必要になるんだぜ!」
オゥタニサが茶化すと、“報酬なんて不要です”とパーレットが明るく返す。
温かな笑い声が馬車を満たすと、一行は再びトサブジエカを目指した。
◆◆◆
「やっぱ人手が多いと、作業も早いな!」
荷下ろしを終え、オゥタニサは老体をほぐす。
ここ、トサブジエカは今までのルシュガルやチェマとは違い、のどかな風景と家畜の独特なニオイが時折漂う、小さな町だ。
酪農が盛んであるが、これといった観光場所など無い。旅人は宿泊するためだけに立ち寄る、ただの宿場町である。
そのためか、若者の流出が問題となっていた。
「――なぁ姉ちゃん達、この後ウチでメシでもどうだ?」
「ん? アネニヨさん、怒んねぇかよ?」
「まぁ大丈夫だろ。多分」
アネニヨとはジコネーの奥さんである。
いきなり4人の来客が来て大丈夫な訳ないだろ、とクシードは内心感じるも、清々しい表情で誘う老人を無下にはできない。
ご好意に甘え、ジコネーの自宅へ行くことにした――。
「テメェらは何を考えてんだよッ! いきなり来客? それに4人も――」
家に着くなり出迎えたのは、ライオンの耳を生やしたケモ族の老婆アネニヨの怒声。
温厚なジコネーとは正反対で、こちらは血気盛んだ。
恰幅の良い身体でジコネーの胸ぐらを掴み、鋭い犬歯をチラつかせている。
「てか、女が4人って何だ? テメェはまだまだ現役なのかぁ、ジコネーさんよぉぉぉッ!」
「ち、ちが、違います! 断じて違います!」
「オゥちゃん(※オゥタニサ)も同罪だよぉぉー!」
「ははははいッ! 申し訳ございません!」
修羅場だな。
魔王の形相となっているアネニヨと、それにひれ伏す大の大人2人が見せる光景に、クシード達はただ言葉を失っていた。
そんな中、1人の小さな天使が平和をもたらす。
「ジジとおじぃじ、またわるいことしたのー?」
どうやらこのジジイ2人は常習犯なのか、いつものことのように小さな女の子が間に入った。
「そうだよアヴスーメ! 叱ってあげて!」
「ジジとおじぃじ、キライッ!」
プイっとそっぽを向くアヴスーメの登場により、魔王の怒りも緩むも、少女の視線は、ミルフィに釘付けとなる。
「……ママ?」
つぶらな双眸に映るのは似たネコ耳と、ロングストレートヘアのミルフィ。
だが、耳はライオンのような丸みは無く、毛色も空色ではない。
少女の毛色は濃い青色だった。
「アヴスーメ。ママに似ているけど、ババは今日帰ってくるとは聞いてないよ」
アネニヨは孫娘の頭を撫で、優しく諭す。
そうだ。
人間関係の苦手なミルフィに、隠し子なんているはずがない。
しかし、アヴスーメはミルフィに駆け寄り抱きついた。
「――!?」
“私、どうしたらええの?”とミルフィは困惑気味。
あたふたするミルフィに助け舟と、アマレティはプレゼントボックスを渡した。
「アヴスーメちゃん、みてみてぇ〜。ジジ達がぁ、リリーナちゃん人形ぉ、買ってきてくれたんだよぉ〜」
渡された箱を開封して、少女は歓声あげる。
「げんていひんだぁー!」
無邪気な少女の言葉に、一同は和んだ。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん達とぉ〜、一緒に遊ぼぉ〜!」
「うん! まっくらなおねぇちゃんもあそぼう!」
「ウチねぇ、アマレティって言うんだよぉ〜」
「ママもまっくらなおねぇちゃんも、コッチきてー!」
「ウチぃ、アマレティって言うんだけどなぁ〜……」
流石のクセ強アマレティも、子供には敵わないみたいだな。
「……と言う訳なんだ、ババ。一時だけ、娘が4人増えても良いだろ?」
「しょうがないね。食材が無いから買い物に出かけなきゃ」
「なら、お手伝いしますよ――!」
クシード達が田舎町で出会ったのは、ごく平凡な老夫婦と孫娘。その孫娘の両親はどこへ行ったかは、何となく予想がつく。
これは敢えて聞かない。
この異世界では珍しいとは、決して言えないことだからだ――。
第3章、始まりました
これからも、しっかりと書いて参ります!




