033.曲者たちの曳行
「ああああぁぁ〜〜あ゙だぁま゙〜、いだぁいよぉ〜!」
宴の翌朝。
宿屋の穏やかなロビーに、アマレティの情けない呻き声が響いた。
「飲み過ぎなのよッ!」
パーレットの叱責がこだまするが、アマレティはぐったりと椅子にもたれかかっている。
「強い酒、ガンガン飲むヤツ初めて見たで」
呆れ顔でクシードがため息を漏らすと、アマレティは急に立ち上がった。
「吐きそぉ…… 」
「ちょ! 早くトイレに行きなさい!」
パーレットの慌てる声に押され、ミルフィはアマレティを連れてトイレに向かった――。
「……やれやれ」
パーレットはコーヒーカップを傾けつつ、一息つく。
「町の観光もどうぞって言われたけど、何をしようかしらね」
「今日も一泊できるんやし、装備品の準備、そんなもんでええやない? オレとしては、昨日入手した、散弾銃が使えるか知りたいし――」
ふと冷静に考えれば、パーレットは指名手配犯だ。
彼女の名前はモロバレしている。
ところが昨日、町長が言っていた“憲兵への配慮”があるからだろうか、目立った動きはなく、町は穏やかだ。
いずれにしろ、なるべく同行は避けたいところである。
「まぁ、アマレティが戻り次第、オレはミルフィと一緒に町へ出かけるわ――」
◆◆◆
「――姉ちゃんは見た目によらず、立派なモン持ってんだな!」
チェマで適当に見つけた武器屋の店主――コーヌ族のオヤジは、レッサーテングの巣窟で拾ったショットガンを見て感心していた。
ちなみに、意外にも破損は無いという。
「このレバーアクション式のショットガンは、男のロマンが詰まってるからなッ!」
武器屋の店主は、スピンコックで魅せる。
「おぉッ! めっちゃカッコええッ!」
まるで西部劇映画でも見ている気分だ。
実戦で使えるテクニックかどうかは分からないが、成功すればとても華がある。
ただ……。
「まぁそれ以外、ポンプアクション式に負けて取り柄は無ぇけどなーッ!」
ガハハと店主は豪快に笑い飛ばした。
ウソやん……。
まさか、実用性よりロマン重視だと知ってレッサーテング達はそのまま廃棄したのだろうか……。
「使いにくそうねんな……、売却をお願いします」
戦場で優先されるのはロマンよりも命。
ロマンは趣味の範囲内であってほしい。
「ごめんなぁミルフィ。せっかく見つけてくれたんに……」
“気にしてへんよ”と、彼女は首を横に振った。
「なんでぇ? このショットガン“ハーヴィスロート”っつーんだけど、強化弾使用可能な頑丈なヤツで、鈍器にもなるんだぜ!」
「えっ……、ってことは、メッチャ強いんですか?」
クシードは眉を上げて聞き返した。
「あぁ、メッチャ強いぜ! クセモンだけどなッ!」
「曲者……」
「おぉよ! あのリバレートに匹敵する強化スラグ弾が撃てるみたいなんだぜ!」
リバレート。
それに曲者。
赤く燃えるような銃身も相まって、まるでパーレットみたいだ。
そう思うと一瞬、やはり売却が頭をよぎるが、やはりやめておこう。
「ねぇ、店主、この子を暴れされる弾薬、もらえますか?」
任せておけと、店主は戸棚から弾薬ケースを持ってきた。
「散弾とスラグ弾だ。姉ちゃんみてぇなロマン銃の使い手と出会えて、俺は嬉しいぜ!」
クシードはスラグ弾の入ったケースを手にとった。
しっかりした重さ。
形状は元の世界同様、大きな弾丸である。
熊なんて出ても、一撃で殺せそうだ。
そんな強力な弾薬が1ケースあたり25発。
「リバレートに匹敵する破壊力……か」
パーレットが魅せた剣技は、サイボーグ化したレッサーテングを一刀両断。
一撃で葬り去った。
この弾丸が、あの攻撃力に匹敵するのであれば、これからの戦闘はかなり優位になる。
むしろ、パーレットと再戦したときは、もう負ける気がしない――。
強力な武器を手にすることができたと、クシードの口角は静かに上がっていた。
しかし――。
「あっ、それ、普通のスラグ弾だぜ。ウチの店じゃ取り扱いねぇから、デケェ街へ行かねーと手に入らねぇぜッ!」
「あんだけ煽っておきながらッ!?」
どないやねん!
「それに、俺、リバレートできねぇし、強化スラグ弾も撃ったことねぇから、本当にそんだけの破壊力があるのか、わかんねぇな!」
「メッチャ経験者は語る的な言い方でしたやん……」
「まあな! メーカーの謳い文句だしよ!」
ガハハと再び店主は豪快に笑い飛ばす。
話半分で聞いときゃよかったな……。
クシードは、クセの強いマスターにお礼を言うと、ミルフィと共に武器屋を出た。
「――ミルフィのおかげで、ええもんが手に入ったわ。しかも安くッ!」
「ぅん……」
彼女は優しく微笑む。
「よっしゃ! 頭撫でたるわッ! ほぉーらっ! いい子いい子ぉ〜!」
「――」
ミルフィの顔は照れくさそうに紅潮する。
嫌では無い。本人は尻尾を楽しそうに振り、満更でも無い様子だった――。
◆◆◆
さらに翌日。
いよいよチェマを発つ朝が来た。
「オウレって、結構遠いんだよねぇ〜?」
二日酔いから解放され、すっかり元気になったアマレティ。
「そうよ。まだまだ先よ!」
パーレットが力強く答えると、アマレティは人差し指を口に添えて、申し訳なさそうに告げた。
「実はぁ、ウチぃ、今回の任務でぇ、ソロになっちゃったんだよねぇ〜……」
なんとアマレティはのびあがり、なかまになりたそうにこちらをみている。
なかまにしてあげますか。
はい。
いいえ。
――と、どちらかを選択しなければならない。
見た目はセクシーだけど、中身はアレなお姉さんの同行許可など、独断では決められないな。
クシードは、ミルフィとパーレットを見た。
「あたしは4人パーティだと思ってたけど、そんなにソロになりたい?」
ミルフィは、何か文字を書いてスケッチブックを掲げる。
「うれしぃ〜! みんなありがとうぉ〜!」
アマレティは屈託のない、ふにゃふにゃの笑顔を見せた。
なんで即決やねん……。
全員“見た目だけ”の美女が3人。
全然嬉しくないハーレムパーティやわ……。
「――でも、西側に行くにつれて、ロクエティアの脅威が増すわ。辛いことが多くなるけど、弱音は受け付けないからね!」
パーレットが釘を刺すと、アマレティは無邪気に笑った。
「その分〜、楽しい思い出も作っちゃおうよぉ〜」
「ピクニック気分じゃん!」
パーレットは楽しそうに笑う。
それにつられて、ミルフィも微笑みを漏らしていた。
「――さぁ、次の町はトサブジエカ! 田舎町みたいだけど、気合い入れて行くわよッ!」
曲者揃いの旅路。
だが、それもまた一興。
ミルフィの故郷を目指す旅には、カラクリマキナとの戦いがあるかもしれない。
だから今は少しでも長く、安らぎの時間を過ごしていたいと、クシードは感じていた――。
◆◆◆
場所は変わり、トサブジエカのとあるバーにて。
1人の男が、1枚の書類を見て呟く。
「――そっかぁ……ねぇ、グリバス。こんな田舎町で5日間も待機だよ」
「……」
「んー? 言語機能の調子が悪いのかなぁ……。まだまだ調整が必要なカラクリマキナだねー」
男は席を立つと、グリバスを連れてバーを後にした。
「まぁ、人間のカラクリマキナ化でも考えながら気長に待とっか。僕はロクエティアの中じゃあ、優しい性格だもんね――」
第2章 異形の存在とチェマ編 終わり
第3章より、毎週木曜日に更新します!
これから始まる4人の物語を、どうぞよろしくお願いします




