032.カラクリマキナ
レッサーテングの巣は静かすぎた。
討伐を終えたはずなのに、“終わった”という感覚は誰も思っていない。
機械と生命体が融合した、謎のモノノケの出現。
捜索対象者は痕跡のみで本体は不明。
静寂な空間とも相まって、その不気味さは一層深まっていた――。
「……こんなもんで良いわね」
パーレットが呟く。
ミルフィのスケッチブックを使って、レッサーテングの巣窟のマッピングを終えた。先ほどまでの騒乱が嘘のように、静けさが辺りを包んでいる。
マッピングは、巣窟内を念入りに調査し、内部の状況や戦闘箇所、資材置き場の位置までを詳細に記載。
どんな報告書にも引けを取らない出来栄え、だと思う。
「……それにしても、行方不明の3人が見つからなかったわね」
セルン、ファート、シュベア。
3人の残留品は、いくつか確認できたが、彼ら自身はまだ見つかっていない。
無事に逃げることができた、という可能性を信じたいが、あの惨状を見るに、誰もがそれを希望的観測だと感じている。
それとは別に、パーレット達のようなこの異世界の人も知らない技術。
消えた捜索対象者と合わせて、実に不可解な点が多い任務であった――。
「――ん?」
ミルフィがクシードの服の袖口を引っ張った。
「あ、あれ……」
彼女が指を差した先。
資材置き場だ。
「こ、これ、使われ、へん、かな……?」
厳密には資材置き場ではなく、隣接する廃棄物置き場。
無作為に廃棄されたガラクタの中に、ミルフィは、散弾銃を見つけていた。
他の銃火器類が無惨に破損しているものの、唯一、この散弾銃は原型を留めている。
「これが銃やって、よう分かったな」
「ぱ、パパと、ママと、ティーナとね、あの……、ハンティングに、行った、こと、あんねん……」
「ハンティング、ほんで知ってたんやな!」
「ぅん……」
――この異世界では高額な銃を、趣味で所持。
やっぱりセレブだ、この女。
「内部が壊れとるだけかもしれへんし、持って帰るか」
◆◆◆
「皆様、お疲れ様でした。また、危険な任務を受けて頂き、ありがとうございました」
夕闇の帷が降りる頃、チェマへ帰還したクシード達は、すぐに町長の元へ向かった。
「昨日の冒険者様は結局、行方不明ですか……。どこかで生きていることを切に願うばかりです」
重い声が沈む。
そのような中でも、クシード達は今回の任務の報告に入った。
「――ところで、あたし達、新種のレッサーテングと遭遇し討伐したのですが、何かご存知ですか?」
ビーム砲を放ったあの奇妙なレッサーテングのことだ。
姿、攻撃方法など、対峙して得た情報について、詳しい報告に入る。
「そして最終的には、あたしの類い稀な戦闘技術が光り――」
「そーゆー話は後でええねん!」
パーレットの説明は途中から武勇伝になりつつあったので、クシードが割って入る。
「なんでよッ! 言わせなさいよッ!!」
荒ぶる自称高潔、パーレットの眉毛は鋭角になっているが、黙って聞かされるチェマ町長の眉毛は対照的で鈍角だ。
「――仲のよろしいところ申し訳ございません」
チェマ町長は仲裁するわけでもなく、間に入る。
「その件については少し、お話しをさせてよろしいでしょうか……?」
穏やかに聞いていた町長の表情が、急に険しくなった。
町長はひと呼吸置く。
重苦しい沈黙を破り、町長が口にした言葉は聞きなれない響きを伴っていた――。
「カラクリマキナ……」
「……何ですか? それ?」
クシードの問いかけに、町長は低い声で説明を続けた。
「西側から流れてきた機密情報ですが、ロクエティア軍の兵士のことです――」
西側……。
町長が言うのは、聖騎士団ロクエティアとの戦闘が続く最前線都市でもあり、ミルフィの故郷でもある目的地“オウレ”のことだ。
「――兵士とはいっても金属とモノノケの融合体で、もはやモノノケと呼べない存在です」
「……」
皆が息を呑んだ。
「……なら、これもカラクリマキナと関係ありそうですか?」
クシードは、レッサーテングの巣窟で回収したタワー型のモニュメントを机に置いた。
「これってぇ〜、モヤモヤしてたのがぁ、スッキリした時のだよねぇ〜」
「せや。これは最初、ランプ部分が光ってたんやけど、この裏にあるスイッチ押したら消えたんやで」
「へぇ〜、そぉなんだぁ〜」
アマレティはモニュメントを手に取り、まじまじと眺める。
「……私も詳しいことは分かりませんが、何か因果関係があるのかもしれません。解析のため、これは知り合いの憲兵に提出いたします」
「お願いします。多分ですけど、コレ、魔力の検知を妨害する装置かもしれないですよ」
「なんか、知ったような言い方ね」
パーレットの鋭い意見が刺さった。
「あの状況考えたら思いつくやん! 百戦錬磨のパーレットさんなら気づいてたんとちゃうん?」
「なっ……、と、とーぜんよッ!」
強がりなんか言いよって。
だが、アンテナの様な突起物の多さと、アマレティのスッキリした発言から、妨害装置と断定しても良いだろう――。
「――さて、パーレットさん、クシードさん、ミルフィさん、アマレティさん! 本日は危険な任務を引き受けた上に、脅威となるモノノケを始末していただき、本当にありがとうございました! また、皆様の成果は憲兵にも共有致しますし、配慮も致します!」
深々と頭を下げるチェマ町長に見送られ、クシード達は行政庁舎を後にした――。
◆◆◆
「――それにしても報酬額は安っすいわね!」
「ホンマやな。あの町長、見た目の割にケチやんな」
パーレットとクシードが愚痴る。
帰り際、“カラクリマキナを斃した”、を口実に報酬金額の交渉も行った。
結果としては全員で8,000ジェルトではなく、一人ひとりに5,000ジェルトが支払われる。
1番の強敵は町長だったな……。
「――まぁいいわ。宿屋代とご飯代がタダになるんだから、今夜はもうパァーッと行こッ! 打ち上げよッ! 打ち上げッ!」
「やったぁ〜! 打ち上げぇ〜!」
不満げなパーレットではあるが、はしゃぐアマレティを見てミルフィは微笑んだ。
「どうせタダになるんなら、高級料理店がええな!」
「そうしたいけど、こんな汚れた格好じゃあたしはイヤッ! 騒げるビアガーデンに行くよッ!」
「うんうん! ウチぃ、どこでもついて行くぅ〜」
笑顔を見せるアマレティ。
しかし、彼女の紫水晶色の瞳は、一瞬だけであるが影を感じた。
それを振り切るかのように、賑やかな笑い声が夜の空に溶けていく――。
オープンテラスのビアガーデン。
星が美しく瞬く空の下、彼らは杯を交わした。
勝利の宴、労い。
無事に帰ってこれたこと。
4人のパーティは夜遅くまで続く――。
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