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029.血塗られた証

 激闘の末、金属と肉体が歪に融合したレッサーテングを退けたクシードたち。

 行方をくらませた冒険者――、かつてのアマレティの仲間たちの手がかりを追うため、捜索を再開していた。

 

 昼下がりの日差しが白々と岩肌を照らす頃、地図上に記されている“亀裂の入った岩壁”をようやく見つける。


「――アレっぽいわね」


 パーレットが指を差した先。

 まるで大地が裂けたかのような、暗い入り口が待っていた。


「行く前に、ちょっと休憩しましょう。あたし疲れたわ」


 戦闘終了後、休まず移動したため、体力の消耗は隠せない。

 パーレットの提案に、異を唱える者は誰もいなかった。


「見通しのええ、あの辺で休もうか」


 クシードが選んだ場所は、岩壁から少し離れた高台。敵影を察知しやすく、安全確保に最適な場所だ――。



 

 

 


「――ねぇねぇクシードぉ〜?」


 休憩中、簡単な食事を取っていると、アマレティが艶やかな黒髪を揺らして擦り寄ってきた。


「ウチぃ、へるぷぅ〜って助けを求めたでしょぉ〜?」

「あぁ、そうやったな」


 盾の体当たり(シールドチャージ)を喰らって転倒し、危機が迫る瞬間、敵を撃ち抜いたあの時のことだ。

 

 “ありがとう”と感謝でも伝える気だろうか。

 そうだとすると、健気で好感度の高いお姉様である。

 

「そんときぃ〜……」

「うん」


「パンツ見たぁ〜?」

「なんでやねんッ!」


 斜め上と言うか、とんでもない角度の発言やんけ。


「見たぁ〜?」

「……」


 顔を覗き込むように、彼女はグイグイと迫る。


 そ、そりゃあ見たさ。

 妖艶さを極めた紫に、黒のレースが煌めくオトナのしゅばらしい魅惑のデザインをガッツリと。


「見たんだぁ……」

「不可抗力やがな」


「あぁ〜あ、先に助けて欲しかったなぁ〜……」

「……先に? 目の前に斃せるヤツおったし、すぐ斃して助けたやん!」


 アマレティは頬をふくらませて、わざと拗ねてみせる。


「でも、危ない状況だってわかってたんでしょ? 女の子が危ない時は、最優先でしょうがッ!」


 パーレットの言葉にアマレティは頷く。

 そしてミルフィまでも……。


 あー、これってもしかして……。


『男1、女3のハーレムパーティだけど、キャッキャウフフな展開は期待できないので気をつけます』

 

 こんな感じのサブタイトルが付きそうなシチュエーションじゃあないか。


「……すいません。次から気をつけます……」


 うん。

 下手に言い訳すると、反感買うパターンだな。


「えへへぇ〜。じゃあ〜、次からはぁ、ウチのことぉ、守ってねぇ〜」


 ふにゃっとした笑顔でアマレティはクシードに抱きつく。


 豊満な胸に挟まれる柔らかな体温と、甘い香水の香りが鼻をかすめるも、なんでだろうか。

 

 全然嬉しくない。

 逆に計算高さを感じ、戦慄さえ覚えた……。


「はいはい、イチャイチャしないで、そろそろ出発するわよッ!」

「はぁ〜い!」


 パーレット、アマレティ。

 クセの強い女たちだ。


「……ん?」


 背後から何か視線を感じる。

 

 振り返ると、スケッチブックを抱えたミルフィの姿が。

 目が合うとプイッとそっぽを向き、イカ耳になって尻尾をピシピシと左右に揺らしていた。

 

 ――クセが強いのは、全員か……。



 ◆◆◆



「――これ、行方不明の冒険者たちがやったんかな?」


 目的地の岩壁前。

 岩の隙間を縫うように、洞窟の入口があった。


 そこには明らかな戦闘の痕跡が残っている。

 岩肌に刻まれた新しい亀裂、抉れた地面、乾いた血痕などなど……。


「あ〜、この壁のヒビぃ〜。たぶんファートかもぉ〜」


 アマレティが呟く。

 苦い記憶が蘇るのか、瞳が一瞬、曇った。


「モンク……だったわね?」

「そぉ、拳でぇ、岩を砕くような男ぉ~」


 やはり、ここで激しい戦闘があったのだろう。

 状況からして最悪の結末も想像できてしまうが、それは誰も口にはしなかった。

 


「アマレティ、“検知”」


 パーレットが指示し、アマレティはすぐに展開する。

 

「ん〜、反応無しぃ!」

「よし! 行くわよ――って、その前に……」


 パーレットはバックパックを漁った。


「防臭スプレー!」


 ひみつ道具のように取り出したのはいいが、何に使うのだろうか。


「レッサーテングって激クサじゃん! ほら、みんな並んでッ!」


 確かにアイツら臭かった。

 においの付着対策だと思うと、女性冒険者らしいな――。




「――あっ! そうそう〜。ウチもあるよぉ〜」


 アマレティはリュックサックを漁った。


「暗視ゴーグルぅ〜!」


 これまたひみつ道具のように取り出しはいいが、何に使うかは察しがつく。


「ウチぃ、これを用意してたらぁ、置いていかれちゃったのぉ〜」

「ウソやん! それ、いるヤツやろ!?」


「“凝視”のグリスタで十分〜、って言ってたんだよねぇ〜」

「あたしは炎魔法で明るさをまかなえるけど、グリスタより松明や暗視ゴーグルを選ぶわ」

「……? 何でなん?」


「あたしはグリスタ、3つしか装備できないから、貴重な1枠を支援グリスタで埋めたくないの!」


 衝撃的な事実だ。

 だが、冷静に考えてみれば、グリスタをたくさん装備した者勝ち、みたいなところも感じていた。


 グリスタは相変わらず装備できないが、以前、ルシュガルの街でミルフィが、容易にグリスタの出し入れをやっていたのも、戦闘中に換装も考慮しているからだろう。

 

 制限があるからこそ、状況に合わせてグリスタの選定が必要。それ以外にも、そのグリスタも使いこなせなければ意味がない。


 ずいぶんと戦術性が求められるな……。

 

 ちなみにミルフィは4つまで装備できるそうだ。


「1つ多いって本当に羨ましいわ」

「ほんで、アマレティはナンボいけんの?」

「6つぅ〜」


 その場の空気が一瞬止まったかのように、ミルフィとパーレットはアマレティを見て、息を呑む。


「これから敵陣へ行くのよ。そんなネタは面白くないわ」

「ほんとだもぉ〜ん!」


 “ほら見てよ!”と、アマレティは両手を伸ばす。

 すると6つのグリスタが本当に現れた。


「ヤッバ……、ウソでしょ……」

「すごい……」


 あの勝気なパーレットが言葉を失い、逆に無口なミルフィが言葉を発する。

 グリスタが6つも装備できるとは、相当すごいことなのだろう。


「王族直営軍に所属した方がいいんじゃない?」

「やだよぉ〜、堅苦しそうだしぃ〜」


 まぁ、そもそも、こんなマイペースな性格は適さなそうだな。


「あー、あと、これもして行くわよ!」


「……ガスマスクまで用意してんのやな」

「だってぇ、すごく臭いんだよぉ〜」


 いくらニオイは慣れるとは言え、ここまで対策するとは、女性らしい発想だな……。

 


 臭気と暗闇に備え、防臭スプレーを浴び、ガスマスクと暗視ゴーグルを装着する。


 装備を整えた4人は、ゆっくりと洞窟の奥へ。

 未知の暗闇へと踏み込んでいった――。


お読みいただき、ありがとうございます!


次回以降の更新スケジュールは、

1/20(火)、1/22(木)

1/27(火)、1/29(木)


火曜日と木曜日に、1話ずつ更新していきます

引き続き、よろしくお願いします!

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