028.未知なる既視感
天地を引き裂くような爆音と共に、突然の閃光が炸裂した。大地を抉り、爆風と共に生じた黒煙が視界を覆う。
ビーム兵器とは違う爆発。
暴発……、自爆……、いや、あれはどちらとも思えない。
一体、何が起きたのだろうか。
漂う焦土臭に混じって、砂利と共に細かな金属片が弾け飛び、それぞれは虚しく地面に転がる。
そよ風が黒煙を連れ去り、やがて浮かび上がったのは、一つの人影。
それは華奢ながらも、引き締まった体躯だった。
蛇腹状の剣を鮮やかに振り、まるで戦いが終わったことを告げるように、堂々と鞘に収める。
煌めく金髪をオレンジ色のリボンで結い上げ、エルフのような耳長をもった女。
「――パーレットッ!」
彼女は腰に手を当て、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「これが、類い稀なあたしの戦闘センスよッ!」
まるで劇的な舞台の幕引きのように、彼女は声高らかに宣言した――。
「――あれは、何が起こったん?」
戦闘後の静かな時間。
クシードは率直な疑問をぶつける。
「聞きたいの? しょうがないわねぇ――」
――どうやらパーレットは、ミルフィやアマレティが魔法を放った瞬間、空高く跳んでいたそうだ。そのまま空中からの真っ向斬りを繰り出すも、わざと外したと言う。
「どうせ躱されるのなら、最初から当てなきゃいいのよ!」
砂利を飛ばせば、斬撃が可能。
おそらく彼女はセンサーというものを知らないだろう。
しかし、それをすれば攻撃が可能であることだけは理解していたみたいだった。
勝利を確信していたからこそ、地面を叩き砂利を飛ばす。センサーを撹乱させ、無力化に成功した後、そのまま鞭剣を振り回し、指揮官を一刀両断したのだと言う。
だが、それだけでは説明がつかない。
その直後に起きた“爆発”。
あれは一体――。
「剣技よ!」
パーレットはドヤ顔で答えた。
「剣技? そうはならんやろ?」
「なったでしょうがッ!」
「えぇ〜、どぉやったのぉ〜?」
「なになに? どうやったか聞きたい?」
パーレットの眉間に寄っていた皺はなくなり、再びドヤ顔になった。
やり方については、そりゃ、もちろん――。
「いや、ええわ……」
「何でよッ! 聞きなさいよッ!」
ドヤ顔で言われると、何か聞く気が失せるんだよなぁー。
「あの剣技はね、魔法と剣技を合わせた技なのよッ!」
頼んでも無いのにパーレットは得意げに言う。
承認欲求が強いな、この自称高潔女。
「“リバレート”でグリスタの魔力を解放して、一気にバァーンって決める爆発剣技の1つよッ!」
「リバレート?」
ミルフィは首を傾げるもの、アマレティは頷く。
「そう! リバレート! あたし魔法が苦手だから、コッチに全振りしてるわけ――!」
つまり、グリスタの魔力を武器に転化できる応用技か何かなのだろうか……。
「――渾身の一撃と炎魔法の合体技。これがルークォス流剣技、獅子閃光斬・焔よッ! どう? カッコいいでしょッ!?」
「あー、まぁそうやな」
クシードの素っ気ないリアクションに、パーレットの目つきは再び鋭くなった。
「何よ、そのリアクションッ!! せっかく斃したのにぃぃーーッ!!」
「あぁ……、いや、その……」
ここは体育館の裏か何かなのか。
半グレな剣幕で、胸ぐらを掴まれた。
「しょ、正味な、リバレートって言葉が引っかかってな……」
「じゃあ、知らないってすぐに質問しなさいよッ!」
そんな火の玉ストレートで言われても……。
「リバレートはねぇ〜、グリスタ内の魔力をぉ、グオォォォンとやってぇ、ドュバァーンってやるとぉ、できるんだよぉ〜」
傍で聞いていたアマレティが解説してくれる。
でも……。
「全然分からへんわ……」
◆◆◆
場は落ち着き、結局“リバレート”が何なのかは、よく分からない。
それはチェマに戻った時に再確認することとし、今は任務を続行する。
クシードは、指揮官の残骸に目を向けた。
「……」
「これ、変わった防具だよねぇ〜」
「ねぇ! これ、身体と一体化してない!?」
ミルフィも興味深そうに見ている。
虚しく地に横たわっているのは、下半身のみ。
この世界の住人たちも初めて見るこの金属と肉の塊は、やはり異質なのだろう。
鈍色に輝く金属の装甲部分の材質は、分からない。
切断面からは配線が飛び出し、繋がっていたパイプからはドロりと液体が漏れ出していた。
ちなみに、ニオイは無い。
「……この装甲、剥がれそうやな」
どうやら嵌合式。
スリットにナイフを差し込み、こじ開けた。
「うわ! 何コレ!?」
「えぇ〜、キモいぃ〜」
「ぐ、グロ……」
制御盤とそこから複雑に伸びる配線、配管。
人工筋肉だろうか、筋繊維系のシートの姿があった。
機械を見慣れた者からすれば何とも思わないが、ここの女性陣からは大不評だ。
「気味が悪いわね……、あたし、こんなモノノケ、初めて見るわ」
「ウチもぉ〜」
仮説が確証に変わった瞬間。
地球とは全く違う第3世界からの転移者が他に……。
いや、このような部品類が存在するとなると、その世界と繋がっている可能性もある。
「……ん? これ文字か?」
内部の制御盤に、記号が羅列されているのを見つけた。
「ヒーズル語じゃないわね」
パーレットが知らない言語みたいだ。
そして、これはヨーロッパ圏でも見られない。
この文字列は、直線と曲線が入り混ざった複雑な形状をしている。逆に簡素な形状も混ざっており、一貫性は無かった。
「他の国の文字かなぁ〜?」
「ヒーズル語は近隣国でも使われてるって、あたし聞いたことがあるわ」
つまり、誰も知らない言語。
自律AIミオがいれば何かヒントがあったかもしれないが、肝心のナノマシンスーツは、この異世界にやってきてから充電切れのままだ。
「――なんか変だし、気になるのも分かるけど、調査にあんまり時間は割けられないわ。あたし達の目的は、捜索。そろそろ行くわよ」
太陽は既に最高高度を過ぎ始めている。
目的地へと足を進めつつも、心には得体の知れない不安が静かに広がっていた――。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次話は、1月15日(木)ごろ更新予定です
ボス戦が終わり捜索再開前のインターミッション回です
少し間が開きますが、次回もよろしくお願いします!




