027.無彩の花火
降り注ぐ光の槍。
砂利が爆ぜ、白く熾る熱線が大地を抉る。
荒れ狂う爆炎が、戦場を混沌の渦に巻き込んでいた。
「走れぇぇぇーーーーッ!!」
鼓膜が劈かれる中、かすかに届いたクシードの叫び。
“でも、どこへ?”
アマレティは思った。
ここへ来るまでの道中、クシードとパーレットはミルフィをオウレまで送り届けるため、護衛を務めていると言っていた。
だからミルフィを守ってほしいと言われている。
協力するのは全然構わない。
けれども、灼熱の豪雨を掻い潜るのは、さすがに足がすくむ。
ミルフィを連れての一歩目が、中々出ない……。
アマレティとミルフィは、展開していた防御障壁を背にして身を寄せ合っていた。
そんな彼女達の前を、白い閃光が通過する。
爆ぜる轟音。
跳ねる砂利。
それらが、魔法の障壁を叩いた。
――闇雲に動いては攻撃が当たってしまう。
どこを目指せばよいのだろう……。
アマレティの視線は右往左往と泳ぐ。
ふと、クシードが、必死にハンドサインを送っているのを見つけた。
なるほど、行き先はわかった。
あとは1歩目の勇気――。
生唾を呑み込み、アマレティは覚悟を決めた。
――瞬間。
ビーム弾が間近に着弾。
爆発が巻き起こり、白熱した砂利が飛び散る。
「いやぁぁぁーッ!」
「み、ミルフィ〜ッ! こっちへ行くよぉ〜!」
怯えるミルフィの手を強く引き、アマレティは駆け出した――。
◆◆◆
――妙だ。
滞空時間が異様に長い。
クシードは空中の指揮官を睨む。
「!」
目を凝らせば、機械化された脚部の装甲から熱源があるのか、陽炎が揺らいでいた。
推進器。
空中で制動をかける推進機構まで備えているとは。
ルミナエルスはあと2発で弾薬再装填だ。
あの状態でも攻撃は通用するのだろうか。
クシードは試しに狙撃を試みる。
瞬時にスラスターが反応し、銃弾は避けられてしまった。
自動回避――。
ここまでくると、おそらく、センサーを搭載しているのだろう。
そのセンサーを周囲に展開して索敵し、攻撃の軌道を瞬時に演算する高度な回避能力を持っているとしか思えない。
しかし、これには限度がある。
砂利の散弾を避けられなかった。
つまり、撹乱させれば無力化させられるかもしれない。
これなら勝てる。
と思うが、問題はどうやるか……。
敵も学習する。
砂利弾幕は、そう何度も通用しない。
地形は平ら。
武器は、銃、剣、炎、水、雷……。
考えろ。
戦場で壁にぶつかることなど、日常茶飯事。
とにかく考えるんだ――。
弾薬再装填をしながら、クシードは立ち回った。
ところが……。
「あイタッ!」
物理的にも何か壁にぶつかった。
なぜこんなところに壁が……。
いや、これは障壁魔法だ。
「邪魔やな……」
苛立って障壁を蹴ると、反動で砂利が小さく跳ね散った。
よく見れば、この透明な障壁は、ところどころに展開されている。
……これだ。
クシードの脳内を閃きが駆け抜けた。
「ミルフィッ! アマレティッ!」
タイミング良く、2人が駆け寄っていた。
「あの壁魔法、もっと出せるか?」
「うん〜? 出せるよぉ〜!」
ミルフィも息を切らしながらも頷く。
まさかミルフィも出せるとは。
しかし、これは好都合だ。
「アレを、ぐわぁーッてたくさん並べるでッ!」
語彙力の低さも否めないが、2人とも、目をパチパチとさせた。
「説明は後や! とにかくやんで――!」
指揮官はすでに地上に降りており、再び攻撃態勢に入っている。
クシードはパーレットにハンドサインを送った。
“戦ってくれ――”と。
自身は、ミルフィとアマレティと共に防御魔法、“不意に現れる硝子細工の衝立”の設置を始めた。
この障壁は、指揮官を誘い込む罠として仕掛ける。
本命は半円状。
そして怪しまれぬよう、フェイクも展開する――。
「ハアァァァ――ッ!」
依然として、パーレットと指揮官の苛烈な近接戦闘が続いていた。
剣戟が舞う。
敵は完璧な反射神経で悉く回避。
クシードは指揮官の脚部を狙い、視界の外からトリガーを引くも、案の定、躱された。
「パーレット! いつでも行ける! 加勢に来たでッ!」
本来であれば具体的に作戦内容を伝えたい。
だが、そんな猶予は無い。
戦闘センスに優れた彼女のことだ。
今まで何をしていたか、おそらく理解しているだろう。
だから、信じるしかない――。
激しく揺れる鞭剣と、轟音を響かせる銃撃。
パーレットの鋭い一撃が指揮官の装甲を掠めるも、すぐに反撃が来る。
回避と攻撃の応酬が続くが、ジリジリと、指揮官を避けられぬ処刑台へと導いていった――。
「ガッ……」
指揮官はパーレットの袈裟斬りを避けた。
カウンターとして繰り出されたフックが、パーレットの脇腹へ直撃。
彼女の身体が大きく曲がった。
「ま、だ……よッ!」
瞬時に鞭剣を地面に突き立て、自身の身体を支える。
そのまま回し蹴りも放った。
クシードも狙いを定め、銃のトリガーを引く。
推進器を稼働させて、予想通り攻撃は避けられた。
指揮官は砲口をパーレットに向けながら、地面を滑るように移動する。
入った。
今だ。
「ミルフィッ! アマレティッ! 行けぇぇぇーッ!」
障壁裏に待機させていた2人に、クシードは合図を出した。
水と雷魔法の詠唱が始まる。
【し、進撃を、拒む者。こ、此れを、突破、し……、貫くは、正義の、槍――】
【霹靂神の発する煌めきはぁ、爆砕の業なりぃ。灰燼の魔砲よぉ、今こそぉ、雄叫びの時ぃ――】
指揮官のビーム砲は、まもなくエネルギーの収束が完了する。
【水系魔法・直進する投擲槍ッ!】
【雷系魔法・乱闘大華輪ッ!!】
ミルフィの槍魔法が、先手を打った。
作戦通り、地表に激突。
砂利が舞い散る。
「!」
――パワーが、想定以下……。
であったが、指揮官の気は逸れている。
1秒未満遅れて、雷の爆発魔法が炸裂した。
石つぶてが爆ぜる。
花火の如く舞い散らかす。
計画的に配置された魔法障壁に当たり、乱反射。
無彩色の花火は2度咲く――。
「……?」
ところが、攻撃の肝となるパーレットが見当たらない。
センサーは無力化できているハズだ。
石の花火は3度も咲かない。
……まさか。
クシードの脳裏に戦慄がよぎった。
作戦が、うまく伝わっていなかった。
過信しすぎたか……。
ならば、もう一度。
いや、同じ作戦が通用するのだろうか。
どうやって立て直す。
どうやって次の一手を攻める。
どうすれば……。
策が思い浮かばない。
焦燥感から無意識に汗が額を伝った……。
一滴が地に落ちる。
その瞬間。
何かが落下した。
重音と衝撃波を発して。
そして爆発音が響いた――。
お読みいただき、ありがとうございます
次話は1/10(土)に更新します
その後は、少し間を開けて、1/15(木)に更新予定です
これからも引き続き、よろしくお願いします




