026.砂利
ミルフィの故郷までの道には、これからもこのような脅威が潜んでいるに違いない。
これは、試練なのだろう。
“人の成長は未熟な過去に打ち勝つこと”
心に巣食う悪魔との戦いであると、先人は言葉を残した。
厄災を払い退けるため、荷電粒子砲という、この異世界はおろか、22世紀でも実現不可なオーバーテクノロジーなんかに臆してはならない。
しかし、現実は……。
肌を焼く熱。
耳を裂く収束音。
空気そのものが悲鳴をあげる、あの感触。
電気を持った粒子を圧縮し、閃光の如く射出された。
アニメでは憧れた光景だが、実際目の当たりにすると身の毛がよだつ――。
「――ッ、ハァ……、ハァ……!」
焦げた砂利道。
鉄と血の焼ける匂いが立ち込めている。
赤黒く変色した地面は今なお燻り、熱波が肌を刺した。
間一髪。
死線をすり抜け、全員、命は繋がる。
代わりに、心は確実に焼かれてしまった。
「――な、なるほど、炎属性の魔導銃ね……」
パーレットは平静を装いながら呟く。
だが、それは見当違い。
ルシュガルを発つ前に、ミルフィが持つ魔導銃のチャージショットを見たことがある。
あの光景に似ているが、今のは魔力の光ではない。
放電音、そして空気が裂ける収束音だった。
それに、魔導銃ならばもっと華美であってもいい。目の前のそれは、異様なほど機能美に徹した無骨な砲身だ。
「――アマレティ、“検知”ッ!」
「んん〜?」
「早くッ!」
パーレットの急かす声に促され、アマレティの魔力は空間に放たれる。
「……2体だけ。他はいないよぉ〜」
「クシード! あっちを任せるわッ!」
パーレットが鞭剣を肩に担ぐと、不敵に笑った。
「さぁ、“どっちの炎”が強いか勝負しようじゃない」
彼女の視線の先。
指揮官は無表情のまま、淡く光る右腕の砲を構えていた。
その構図は、まるでヒーロー作品のクライマックス。
ただ、ここには救いの展開は望めない――。
パーレットは先手を打った。
蛇のようなステップで的を絞らせず、一気に間合いを詰める。
「――ミルフィとアマレティは後方! 防御に専念しとってくれ!」
クシードもまた走り出す。
残るレッサーテングの掃討に向かった――。
焼け焦げた一本道の傍ら、怯えたレッサーテングが腰を抜かしている。
戦意はもはや感じられない。
失禁し、震える手が命を請うように宙を彷徨っていた。
銃口の向こうから伝わる、生の恐怖。
声なき命乞い。
――終わりが来るのは、一瞬だ。
激痛、寒気、意識の崩壊。
見たかった景色も、やりたかったことも、全てが無に散り、物語の続きが書けなくなる。
それが“死”。
全てが終わる。
「……」
クシードはふと思った。
――あの砲撃。
こいつを巻き添えにしていたら、避けられなかった。
全員、無事では済まなかっただろう。
撃鉄にかかる指圧が、微かに揺らぐ。
だが、このモノノケ達も、同じことをしてきた。
犠牲になった人がたくさんいる。
帰らぬ人を今も待ち続けている人もいる――。
クシードはルミナエルスの撃鉄を起こすと、鈍く重い音が静かに鳴り響いた。
「――ハァッ!」
視線を最前線に戻せば、パーレットと指揮官が激しく交錯していた。
斬撃と砲口が火花を散らし、地を削る。
ここに来て、指揮官の動きが変わった。
距離を取ったかと思えば――連射。
出力を抑えたビームが連続で放たれている。
それでも威力は桁違い。
味方を巻き込むことなく撃てる状況になった今、容赦が消えた。
「にゅあ〜ッ!」
アマレティの悲鳴が耳を打つ。
流れ弾だ。
障壁魔法に当たり、割れんばかりに軋んでヒビが奔っている。
部下達を殲滅し数では勝っているが、今の状況は決して良いとは言えない。
パーレットに加勢して、流れを変えねば――。
クシードは指揮官に照準を定めた。
予測、軌道、着地点、重力、弾速。
理論などではない。
直感。
狙うは右腕の砲台――。
――今だ。
約44口径の弾頭が流星の如く、空を駆る。
ヒーローの奇跡など存在しない。
あるのは、終わりを告げる隕石――。
だが――。
「!」
指揮官は、身体を仰け反らせた。
躱された。
狙いは完璧だったのになぜ……。
しかし、一瞬の隙が生じていた。
パーレットの鞭剣が唸る。
鞭に変形した刃は、指揮官の首を狙い疾躯。
「――クソッ!」
これも躱された。
砲口がパーレットへ向けられる。
「チッ!」
彼女は咄嗟に地面を蹴った。
せめてもの目潰しになればと小石を飛ばすが、指揮官はスウェイでいくつかを避ける。
砲口はブレていない。
照準を絞られてしまっている。
再び、エネルギーの収束音が始まった――。
クシードはもう一度撃つ。
指揮官は身を屈めて躱した。
――なぜだ。
度重なる回避。
ここまでくると、偶然とは思えない。
もはや、予知能力の範疇だ。
そう考えながらも、クシードは地面に弾を撃ち込んだ。
無意味なのは分かっている。
少しでも牽制し、体勢を立て直さなくては……。
巻き上がった砂利の弾幕。
指揮官は腕を盾にして防いだ。
「――!?」
なぜこれを避けなかった。
予知能力があれば、容易なはずなのに……。
もしや――。
「パーレットッ! 砂利をたくさん飛ばせッ!」
「分かってるわッ!」
流石の戦闘センスだ。
彼女も勘づいている。
「でもコイツは、あたしが斬るからねッ!」
獲物は横取りさせない、だろう。
クシードは鼻を鳴らした。
「ほな、第2ラウンドと行こうか!」
――剣と銃弾が大地を穿つ。
再び舞うのは、砂利の洪水。
大胆に飛ばし過ぎたのか、指揮官は跳び、空へ逃げた。
――チャンスだ。
空中では身動きはとれまい。
無防備である。
パーレットも身を低く構え、狙いを定めた。
決着は次の一撃。
そう思った矢先、空が煌めいた。
空間を裂く光の乱舞。
ビーム弾の流星群だ。
大気が焼かれ、地面が抉れ、空気が悲鳴をあげる。
「チィッ!」
クシードは転がりながら、光弾を避け続けた。
視界の隅ではミルフィとアマレティが身を寄せ合って、立ち止まっている。
このままでは……。
狙われる。
「走れぇぇぇーーーーッ!!」
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次話は、1月9日に更新します




