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025.刹那を迷う

 異世界へ飛ばされて、初めての大きな戦いだ。

 これまでの個vs個の戦いとは違う。


 しかし――。

 基本的な戦い方は、元の世界と変わらない。

 護るべきものがあるのも変わらない。


 戦術の基本にして、最も脅威となる戦法がある。

 前衛がプレッシャーをかけ、後衛が死角から狙い撃つ戦い方だ。

 

 つまり、意識外からの攻撃。

 “隙”を見つけ、撃つ。

 

 だが、それは敵にも適用される――。



 ここは森を抜け、開けた地形だ。

 

 クシードの目には、低く構えた4体の弓兵が映っていた。


 弾薬は再装填済みで6発。

 始末できる弾数であるが、弓兵はこれで全てなのだろうか。

 

 疑念を抱くも、迷っている場合ではない。

 パーレットは今も指揮官と交戦中だ。


 弓兵の注意を引きつけなければ。


 敵の布陣は扇型。

 間隔を広めに保ち、射線を複数構築している。

 目を奪われれば、その瞬間、貫かれる。

 


 注意を散らされてしまうが、それこそ敵の戦略。

 惑わされてはいけない。

 

 遠距離攻撃型にとって最大の天敵は、近接者なのだ。

 

 クシードは走った。

 1体の弓兵に狙いを絞り、全力疾走――。

 

 瞬きを許せば、すでに距離を詰めている。

 

 ――さぁ、どう動く。


 

「ギィィヤァァーーーッ!!」


 接近を許したレッサーテングは吼えた。

 同時に弓を引きながらバックステップを踏む。


 クシードも影の如く追随。

 リズムを合わせた。


 拳を構え、低く潜る。

 

 ――貫くのは、みぞおち。


 沈み込む一撃は内臓をも抉った。

 空気が抜けるような音と共に、レッサーテングの小さな身体が、くの字に曲がって浮く。


 さらに追撃。

 

 クシードは右手で首を締めつけると、その姿を他のレッサーテングに晒した。


「グゥゥウェェ……」


 血液と酸素の循環を遮断されたレッサーテングは、四肢をバタつかせて抵抗する。

 しかし、その短い手足はクシードに届かない。

 

 1体のレッサーテングは、仲間の危機を救うべく弓を引いた。


 その様子はクシードの視界の隅に映っている。

 彼はこの挙動を見逃さない。



 ――優しいな。


 飛来する一矢。

 クシードは手にしているレッサーテングを盾にして防いだ。


 矢は肩口を貫き、鈍い音が立つ。

 細い手足は痙攣すると、やがて静かになった。


 刹那、クシードはルミナエルスを抜く。

 照準は、矢を放ったレッサーテング。


 アイアンサイト越しに見えるのは、仲間を射抜き動揺した姿だった。

 手は震え、瞳は揺らいでいる。


 知能を身につけることは、何も良いことばかりではない。

 仲間を思いやる“感情”も生まれる。


 だが、知能の高さは人間の方が上だ。

 人間は、その情けを踏み越えられる。


 無慈悲に乾いた2つの音が、もう1体を肉塊に変えた。


「迷って死ぬのはこっちなんや……」


 クシードは憂い気味に呟くも、まだ戦闘は終わっていない――。





 

 視線を戦場の中心に向ければ、指揮官とパーレットの戦闘が繰り広げられていた。


 斬撃。

 体術。

 回避。

 牽制。


 熾烈な戦い。

 

 距離を開けば指揮官の砲撃。

 標的はパーレットだけではない。

 その周りへ向けられることもある。


 油断大敵。

 それこそ弓兵の不意打ちもある。

 

 戦闘に集中できるよう、弓兵たちを早急に始末をしなければ――。

 


 

 

 ――クシードより数秒遅れて、アマレティとミルフィがようやく到着した。


 これはレッサーテング達からすれば増援でもある。

 敵陣に緊張が走った。

 

 仲間を次々と失い、指揮官は強襲され応戦中。

 次の指示がない。


 そこへ増援だ。


 

 さらに――。


 

雷系魔法(エリメ)前方三点放射弾(タークドュロート)ッ!!】


 着いて早々、アマレティがいきなり魔法名を叫んだ。


 黄色の魔法陣が現れ、(いかづち)の球体が3つ。空間を裂き、盾を持った3体のレッサーテング達を襲う。

 

 バチバチと高音が鳴り響いた。

 絶縁体でもある木製の盾を、迂回するように雷撃が奔る。

 

 感電による独特なステップを踏まされた敵兵は、焼け焦げた臭気を放ちながら斃れていった。


 

 現れるや否や魔法をぶっ放す。

 容赦無いな、このツノ女……。


 クシードの口元が引きつりそうになるが、弓兵はまだ残っている。


「アマレ――」


 クシードが言いかけた瞬間、アマレティは魔法を重ねた。


不意に現れる(ヴィロド)硝子細工の衝立(・ディバーヨ)ッ!!】


 ガラスのような障壁が展開され、彼女とミルフィの背後を守る。

 

 おそらく防御魔法。

 彼女、攻守共に優れている。

 

 なんだか、勝手に戦ってくれそうだ……。

 かと言って静観している場合ではない。



 

 クシードは、なおも残る弓兵を見据えた。


 手にしているただの肉塊を、近接攻撃部隊に向けて投げつけ、弓兵を斃しに距離を縮める。

 

 銃口を向けながら、1歩、2歩――。


 着実に近づく死神に、レッサーテングは矢筒から矢を抜こうとするも手は震えてしまい、掴めていない。


 クシードは、引き金に指をかけた。


 その瞬間――。



「クシードぉ〜ッ! へるぷぅ〜ッ!」


 アマレティの助けを求める叫びがあった。

 名前を呼ばれ、クシードは無意識に、声の方向を振り返る。


 彼女は3体のレッサーテングに囲まれ、メイスを必死に振るいながら後退していた。

 その後ろには、恐怖に凍りついたミルフィ。


 ――すぐに助けなければ。

 いや、目の前にはもはや敗北が確定している敵がいる。

 

 どちらを優先すれば……。


 秒数にして、0.1秒以下。

 ほんの一瞬の迷い。

 

 クシードは敵を減らすことを優先した――。


 すぐにアマレティとミルフィを襲うレッサーテングたちに照準を向ける。


 メイスは弾かれ、アマレティは体勢を崩されていた。

 今、まさにシールドでタックルを喰らう。


「――!」


 ルミナエルスから放たれたのは3発の銃弾。

 地面に倒れているアマレティの救助へと向かう。


 クシードはさらにトリガーを引いていた。

 4発目、5発目は向かえていない。


 弾切れ――。

 弾薬は3発しか残っていなかった。

 


 


 1体は手斧を振り上げたまま、黒い血飛沫を散らし斃れるも、残る2体がアマレティへ迫っている。


 間に合わない。

 

 スピードローダーを用いても弾薬再装填(リロード)が――。


 だから、クシードはナイフを抜いた。


 大地を蹴る。

 

 一刻も早く、アマレティの元へ――。



 

 クシードのつま先の緊張が解かれようとする、まさにその瞬間。


 2体のレッサーテングの首が宙を舞った。

 胴体は音もなく崩れていく。

 


「一旦、()退()よッ!」


 パーレットによる一閃。


 ところが彼女は、剣を構えたままだった。

 その表情は険しい。


「撤退……?」


 その言葉の意味……。

 まさか……。


「!」


 指揮官はまだ生きている。

 目立った外傷もない。


 それより、右腕の銃。


 収束音を発している。


 圧縮された灼熱。

 空気が焼ける振動が響く。

 スパークを散らしながら、眩い光が収束していた。


 ビーム砲の発射準備が整っていく。


 

 

「来るでぇぇーーッ!!」

お読みいただきありがとうございます


次話は、1月8日に更新します

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