024.機械との融合
敵の本拠地は岩場にあるというが、正確な位置の記載は無い。
手がかりは、“切り立った岩壁に亀裂がある”。
ただ、それだけ。
目印としてはとても曖昧だ……。
「……変ね」
パーレットが呟いた。
「レッサーテングは何十体もいるはずよ。なのに静かすぎるわ」
これまでに遭遇したのは2体。敵地へ近づいているのであれば、他にいてもおかしくない。
――予想が外れたのか。
この奇妙な静けさは不気味だ。
そう思っていた矢先……。
鬱蒼とした森を抜けた。
広々と河原のように開けた地形が、目前に広がる。
岩と砂利の大地は、陽光を反射してとても眩しい。
「おひさまの光ぃ〜」
アマレティが両腕を広げて空を仰いだ。
暖かな日輪の抱擁と、優雅な風によって黒艶の髪がなびく。
意図せず、緊張が揺らいでしまいそうだ。
だが――。
「開けた所は、音とかが抜けやすいねん。警戒を怠ったらアカンで」
「はぁ〜い」
クシードは釘を差す。
風に乗って、女性陣の香水の匂いが広がらなければ良いのだが。
「んー……、どうしようかしら?」
パーレットは腕を組み進行方向に悩んでいた。
「右か、左か……、なんやな?」
そこに切り立った岩壁なんて見当たらない。
さて、どちらへ――。
「ん?」
クシードも思案していると、彼の鼻腔を何かが刺激した。
「なんや? この……ニオイは?」
獣臭とは違う。
何日も風呂に入っていないような……、皮脂が酸化し発酵までした感じの重い悪臭。
思わず顔が歪んだ。
「クシード、双眼鏡を貸して」
パーレットも鼻を押さえ、クシードから双眼鏡を受け取る。
視線を彼方へ走らせ、数秒――。
「……ビンゴよ!」
「何がやねん」
双眼鏡を返してもらい、クシードも同じ視線を辿る。
「なんや、アレ……」
先ほど斃したレッサーテングは、粗末な皮布を身に纏っていた。しかし、双眼鏡に映るのは、木や鉄製の防具で武装した姿。
「――1体、変なのがおるで……」
二回りは大きい身体が映る。
この個体は特別なのか、他の個体が荷物を手分けして運搬しているのに対し、これに限っては何も運んでいない。
「てか、あのデカいやつの防具、初めて見るわね。たぶん指揮官っぽいし、あたしが相手するわ!」
“初めて見る防具”と、パーレットは鞭剣を握りしめて言うも、あれは脱着式ではなく、どちらかと言うと一体化していた。
右腕が筒状の砲身。
両脚は装甲を纏っている。
関節部はボールジョイント。
そして、金属のチューブが巡っていた。
まるで機械と生物が融合した変異体である。
この異世界に転移する前に遭遇した、新種のモンスター達も機械と合わさっていた。
サイボーグ化。
何か因果関係でもあるのだろうか……。
いずれにしろ、パーレットにとっても初見の敵。
じっくりと観察する必要がある。
「――荷物を運んでるってことは襲撃直後。アイツらの進行方向に拠点があるわよッ!」
「よし! 一旦隠れて追跡やな!」
「何言ってんのよ! ここで迎え討つわよッ!」
「何でやッ!?」
「奇襲かけて指揮官ブッ殺して、統率取れなくするのよ!」
確かに拠点からの増援も考えにくく、理には適っている。
それに、指揮官の強さは未知数。
仕留め損ねたらどうするのだろうか……。
一抹の不安がよぎる。
「デルタ・ファング・アサルト・レヴォルブッ!」
この陣形名にツッコミを入れる余裕などない。
パーレットは勢いよく、敵陣へ突撃した――。
「ミルフィ! アマレティ! オレらも行くで!」
自信家にも程があるな、この耳長女。
後を追うクシードであるが、スナッチ&インテグレイションでワンテンポ遅れる。
戦闘初心者のミルフィと、マイペースなアマレティはさらに後方へ出遅れていた――。
パーレットは速い。
疾走。
音もなく駆け抜ける。
陣形は早速乱れていた。
これでは、単に名前を言いたかっただけじゃあないか……。
“炎系魔法・乱闘大華輪”
指先に現れた赤く煌めく魔法陣と共に、火属性の爆発魔法が炸裂。爆炎による奇襲は、レッサーテングの集団を混乱させた――。
「ガァァァァァァァァーーーーッ!!」
突如、変異体のレッサーテングが吼える。
瞬時に、狼狽えていたレッサーテング達は正気に戻り、一斉に武器を構えた。
規則正しく列を成し、陣形を編成していく。
パーレットの目論み通り、あれは指揮官で間違い無い。
……だが、何だろうか。
妙な違和感だけが残る――。
クシードの心中とは別に、パーレットは生じた黒煙に向かっていった。
こちらは風下だ。
爆炎の陰に隠れ、足元の砂利を敵陣に投げ込む。
敵の注意を逸らし、自身は上空へ跳躍。
鞭剣をしならせた。
狙いは、指揮官の首。
――しかし、甲高い金属同士の衝突音が響く。
指揮官は、鞭剣の刃を装甲の手で掴んでいた。
そして砲身型の右腕を、パーレットの腹部へ向ける。
“キュイイイン”
何かを収束する音――。
「!」
この音、この形状、この構え――。
既視感がある。
まずい。
クシードは、即座にルミナエルスのトリガーを引いた。
銃弾は、指揮官の右腕をはじく。
砲口の照準が逸れた刹那――。
空気が裂けた。
轟音は無い。
代わりに、視界を焼き潰すほどの白光が一直線に走った。
それは質量を持たない刃のように、河原の大地をなぞると、砂利が弾け、岩が溶け、地面が赤熱する。
爆発ではない。
衝撃波も無い。
ただ、通過した“跡”だけが、無慈悲に刻まれていた。
一瞬遅れて、焦げた空気の臭いが鼻を刺す。
間一髪、砲撃は免れたが、あれは粒子ビーム砲。
SF兵器だ。
唯一残った元の世界の武器、2丁拳銃“ウォード&グローサ”はレーザー武器だが、レーザーではこのようにはならない。
異様であり危険。
それを感じ取ったのか、パーレットは指揮官を蹴り、距離を取った。
「――さ、さすがの腕前じゃん!」
「いつでも狙ったるで!」
「何がいつでも狙うよ!」
本当はもっと軽口を叩いていたいが、今はそれどころでは無い。
「ッ!」
間髪入れず、敵の部下達がクシードを襲い始めていた。
――相手は6体。
それぞれ手斧と盾を構えている。
3体1組、それが2つ。
隊列を組んで前進。
後方を見遣れば、弓兵が潜んでいた。
これは囲まれている。
一体、何体いるのだ……。
「――くッ!」
視界の隅から襲来する、盾による突進。
3体同時。
まるで壁が迫ってくる威圧感だ。
クシードは体勢を切り替え側宙で舞い、ルミナエルスを向けた。
銃口から反撃の狼煙が上がる。
重厚な音と共に、敵が持つ木製の盾を砕いた。
――砕けたのは表面のみ。
下には別素材があるな。
防弾チョッキのような複層構造なのだろうか。
軟質と硬質素材を合わせていれば、厄介である。
しかし、今は接近タイプの相手をしている場合ではない。
後方の弓兵の始末が先決。
クシードは敵陣把握のため、間合いを取った――。
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