023.推察
「陣形は、デルタ・ファング・アサルト・レヴォルブよッ!」
「単純にトライアングルでええやん……」
強そうな名前にしたいというパーレットの要望だったが、呼びやすさと実用性を考えればシンプルなほうが良いのでは……。
肝心の陣形はこうだ。
白魔道士ミルフィを中心に、先頭を魔法剣士パーレットが務める。後衛に、左側を狩人(自称ガンスリンガー)クシード、右側に黒魔道士アマレティを配置。
俯瞰すれば三角形。
パーレットは鞭剣を肩に構え、クシードは回転式拳銃を構える。ミルフィは魔導銃、アマレティはメイスをしっかりと握りしめた。
各々武器を構え、全方位を確認しながら雑草が茂るケモノ道を征く――。
湿土と腐葉の甘ったるい匂いが立ちこめ、この森の視界は悪い。
陽光は密生の隙間を縫って降り注ぐも、地表までは届かず、昼間とは思えない薄暗さだ。
さらに風も強く、揺れる木々のざわめきは聴覚を鈍らせていた。
「アマレティ、『検知』」
「ずっとしてるよぉ〜」
「やるじゃん! でも魔力の浪費はしないでね」
「いっぱいあるから大丈夫ぅ〜」
「慢心は敗北に繋がるで」
“検知”
支援グリスタの1つで、周辺にある魔力物を検知できる。だが、それが何かまでは識別はできない。予め、スナッチでモノノケの魔力を吸収しておけば、その気配を探ることが可能だ。
しかし、術者の熟練度により、その精度や範囲は限定される。
「今まではぁ、何にも感じなかったよぉ〜」
アマレティの検知範囲は、約50m。
このグリスタは扱いが難しいそうで、これでも広い方だと言う。
検知の原理は不明。
だが、この手のレーダーは水面に広がる波紋と同じ原理だろう。森では木々に遮られ、その精度は落ちると思ったほうが良い。
過信は禁物だ。
「――あっ!」
アマレティは歩みを止め、“アッチ”と指を指す。
11時の方向。
クシードは跳躍し、木の上へと駆け上がる。
眼下に広がる森を見渡し、双眼鏡を覗き込んだ。
「……」
しかし、枝葉が視界を遮り、遠方までの確認は困難。
「――直接行って確かめるしかないわね」
検知した反応は2つ。
レッサーテングの気配で間違いないと、アマレティは言う。
「――ッ、――ッ……」
戦闘の準備が進む一方で、声を出そうとしても喉が詰まり、ミルフィの呼吸は乱れていた。
ルシュガルを出発する前に戦闘訓練を積んできたとはいえ、あれは開けた場所。
今は視界不良の森林。
いつ、どこから不意打ちを喰らうか分からない。
そんな見えない相手との戦い。
恐怖心に煽られるのも理解できる――。
「大丈夫よ、ミルフィ。高潔なるロンイー族の名において、あなたを守ってあげるわ」
「怖がらんでええよ。オレが側におる」
「じぁあウチもぉ〜。雷魔法で守ってあげるねぇ〜」
そのための護衛、仲間なのだから。
「さ、行くわよ」
先陣を切るパーレットに続き、ミルフィは深く息を吸い、小さく頷いた。
◆◆◆
息を潜め、木々の揺れる雑音で足音を相殺。
鞭剣を構えたパーレットは、止まれのハンドサインを出した。
彼女の先には2つの影。
小さな身体に、赤い顔。
長い鼻。
尖り耳。
異様に大きな眼球。
一見ゴブリンのようだが、違う。
これがレッサーテングだ。
粗末に編まれた籠に、何かのキノコを採取している。
まるで狩猟採集を営む原始の民のよう。
夢中になっている隙を突き、パーレットは鞭剣を握りしめた。
「さぁ! ショータイムよッ!」
大きく声を張る。
さらに落ちた木の枝を踏み、わざと音を立てて、相手に存在をアピールした。
狂人と凶刃がジリジリと迫る中、レッサーテングは視線を走らせながら腰を引く。
――あれは逃げ道を探しているのだろう。
籠を掴んで右往左往。
敵意は感じられない。
意を決し、2体は動いた。
それも同じ方向。
――もう十分だ。
クシードはルミナエルスの撃鉄を起こす。
同時に、パーレットは地を強く蹴った。
鞭剣が唸る。
小人の肩口から腰へ閃き、骨は砕け、筋が裂けると黒い血飛沫が飛ぶ。
一刀両断。
まだ動いている内臓は飛び出し、肉塊が崩れる一瞬の時。
パーレットは剣を切り返した。
そして、もう一体の首元を狙う。
刹那、レッサーテングの眼が大きく見開かれた。
鋭くも鈍い衝撃音が疾る。
森の静寂を奪いながら、レッサーテングの頭部は愉快に跳ねていった。
手に持った籠からはポロポロと、採取したキノコをこぼれ落として――。
「……コイツら、ただの食糧調達班ね」
パーレットは剣の構えを解く。
「ハズレか?」
「いや、当たりだと思うわ」
「なら良かった」
「えっ? なになにぃ〜? どぉゆぅことぉ〜?」
クシードとパーレットだけ納得し、アマレティは目の前の出来事を理解していない。
同様にミルフィも首を傾げていた。
「この2体、戦わないで同じ方向に逃げようとしたやろ?」
「もし、お買い物の途中だったら、アマレティはどこへ逃げる?」
「えぇ〜怖いよぉ……、でもぉ〜……、憲兵さんのとこかなぁ〜」
「半分正解ね」
「なら憲兵のところ行った後は?」
「あっ、そうか! お家だぁ!」
「「正解!」」
いくら地図があるとはいえ、この森は広い。
それに敵のテリトリーでもある。
調査報告書によると、レッサーテングには明確な拠点があり、そこで集団生活をおくっている。
闇雲に探すより、逃げた方向を確認してから始末した方が効率的。
その方が探索範囲も絞られる。
長時間の捜索で疲弊していては、勝てる戦いも勝てなくなってしまうのだ。
「さぁーて、コッチの方向へ行けば、目的地である岩場ね」
陽の光を拒む深い森。
どんよりと重い空気が漂う中、クシード達は歩みを進めた――。
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次話は、1月6日 22:00以降に更新します
また、次回からは、1話ずつの更新です
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