019.剣と銃
銃弾は残り2発。
リロードを許してくれるような相手では無い。
ミルフィはベンチのそばで怯えているだけ。
だが、それで良い。
下手に加勢して標的にされれば間違いなく殺される。
それにあの蛇腹状の剣。
幅広い形状は重量を増して攻撃力としているのか、それとも別に何かギミックがあるのか、よく分からない――。
「なになに? どぉーしたのぉー?」
女は剣を肩に担ぎ、見下すような視線を向ける。
「……キレイなお顔で憧れちゃうなーって」
クシードは女の顔を指差す。
「いいスキンケア用品があるのよ!」
「へぇーそうなんや!」
――インテグレイションはすでに時間切れ。
「あんたにも使わせてあげようか?」
「オレの分も使うの間違いちゃうか?」
――下手なタイミングで発動させれば、終わりだ。
「あたしは高潔なるロンイー族なのよ。遠慮はしなくていいわッ!」
女はゆっくりと剣を構え始めた。
同時にクシードはスナッチで魔力を補填する。
「これから、オトモダチになるんだしッ!!」
砂埃が立つその前。
――すでに剣の間合いに入っている。
「!」
踏み込みが一歩多い。
重心が右へずれた。
剣は水平。
クシードは腰を落とす。
足を伸ばして、女の足を刈ろうとするも、女は宙を舞った。
重力を利用した刃が振り下ろされる。
――片手。
剣の柄には右手だけ。
クシードが視認した瞬間、身体が意図せず動いた。
「痛ッ――!」
銀髪を引っ張られ自由が利かない。
銃を撃つべきか。
いや、そんな時間はない。
相手が嫌がること――。
「――ッ!」
クシードは女の服をまくり上げた。
「あっ!」
急に胸を露わにされ、女は掴んでいた銀髪を離した。
スキンケアを話題に出す。
やはりそこは女だ。
命の張り合いの中、勝つための手段。
いきなり乳房を露わにさせられれば、虚を突かれる。
驚いた女の顔。
ブラジャーもずらされ反射的に乳房を隠そうとする仕草。
――今だ。
クシードの左拳は女の腹部を打った。
身体能力で強化された打撃は女を吹き飛ばす。
さらに彼は攻撃の手を緩めない。
ルミナエルスのアイアンサイトを睨み、うつ伏せ状態になっている女に照準を合わせた。
だが、女の闘志は消えていない。
膝をつき、嘔吐しながらも眼光は鋭い。
殺るなら、今――。
クシードはトリガーを引くその瞬間。
女は剣を振った。
剣の間合いでは無い。
膝をつき、力が入る姿勢でも無い。
届かないはずの剣が、届く前提で振られていた。
これほどの技量を持った剣士が、闇雲に剣を振るうだろうか。
まさか魔法――。
いや、グリスタにそのような魔法はない。
なんだこの違和感は……。
クシードは女を注視する。
「!」
剣身が伸び、鞭のようにしなりを効かせている。
連なる刃。
どんどん迫る。
これは……。
――斬られる。
反射的にクシードはナイフを構えた。
銃声が轟き、同時に剣とナイフがぶつかる鋭い金属音が響く。
「ハァ……ハァ……」
まさか剣身が伸びるとは。
先入観を駆使した一撃だった。
「うそ……でしょ、ソードウィップ、の……一撃を捌くなんて……」
あれは奥の手だったのだろうか、女は苦しそうに息を切らして唖然としていた。
銃撃するのであれば今。
またと無いチャンス。
追撃を――。
だが、なんだ……。
視界の端が白くノイズのように揺れる。
腕が、上がらない……。
クシードの集中力は、極限まで研ぎ澄まされていたが、ついに限界を迎えつつあった。
客観的に見ても、疲弊しているのがわかる。
クシードの足元はおぼつかない。
“クシードを助けなきゃ”
と、一筋の青い光が、ロンイー族の女に向けて放たれた――。
「そういえば……、もう1人、いたわね」
ミルフィは水の槍魔法を放ったが、女から大きく外れて地面に命中していた。
女の殺意がミルフィを掴む。
――ミルフィを守らなければ……。
「フゥー……」
クシードは呼吸を整えた。
銃がこんなにも重い……。
ふらつく銃口。
照準を早く、頭に。
――が、女はクシードがまだ動けることを見抜いていたのか、彼を見て不敵にも笑みを浮かべた。
まずい、ミルフィが……。
いや、違う。
なぜか左手をこちらへ伸ばしている。
【発、砲、砕……】
女は急に何かをつぶやく。
何をする気だ。
「――!」
【炎系魔法・乱闘大華輪ッ!!】
女の左手に赤い魔法陣が現れた。
同時に、クシードの視界が一気に白くなる。
ダイナマイトでも爆発したのか、炎と爆風がクシードを襲った。
――空はこんなに灰色だったろうか。
爆発の瞬間、クシードは身を低くして直撃を避けたが、全身に火傷を負い、黒煙と共に仰向けになって動かない。
一部始終を見ていたミルフィは、彼の元へと急いだ。
「く、く、く、くしぃ、クシー……」
呼吸を乱し、涙を流しながらミルフィは、クシードの名前を必死に呼んだ。
「……ミル……、ニゲ……」
これ以上ここにいては危険。
掠れた声で、クシードは言葉を発するも、思うように出ない。
「嫌や……、嫌や……」
こんな状態の彼を置いて逃げたくない。
ミルフィは泣き叫びながら、首を横に振っていた。
「回復薬持ってる? 高潔なるロンイー族は命なんて奪わないわ。治療が済んだら荷物とお金を置いてルシュガルへ帰りな!」
ミルフィに剣を突きつけ、女は言う。
慈悲ある女の言葉にミルフィは素直に従った。
【彼の者を、苦痛から、の、解放を望む、のは、我の願い。治癒の光よ、復活の支援をッ!!】
大切な人を助けたい。
その一心で、ミルフィが唱える回復魔法。
【二段階強化・治療の煌めき】
「すごいわね。上級の回復魔法まで使えるなんて」
白く輝く優しい光がクシードの全身を包む。
焼き焦げた細胞が活性化し、まるで時間を巻き戻すかのように元の姿へと戻っていく。
「うぅ……」
クシードが目を覚ますと、空が青かった。
泣きながら喜んでいるミルフィもいる。
だが、その背後にはミルフィに剣を突きつけている女。
「そんな怖い顔しないでよ。さっ、早く荷物とお金を頂戴!」
そうか、負けたんだ。
まだ良心的な賊で助かったが、心がスッキリしない――。
「隊長ぉぉーッ!! 先ほどの爆発は、あの休憩所からですぅーーッ!!」
「隊長ぉぉーッ!! 指名手配のパーレット・キャラルがいますぅーーッ!!」
「隊長ぉぉーッ!! あの2人は民間人でしょうかぁーーッ!!」
「隊長ぉぉーッ……」
隊長、隊長と静寂な草原に突如響く、騒がしい声。
運がいい。
あれは、見回り中の憲兵達だ。
「……どうやら年貢の納め時やで。ロンイー族の騎士さんよぉ」
「あら、そうかしら?」
「?」
強がりでも何でもなく、余裕の表情。
この女、まだ何かを隠しているのか――。
「指名手配犯を引っ捕えろぉーーッ!!」
隊長の号令により憲兵達が威勢よく、一斉に駆けつける中、女は大きく息を吸い始めた。
「アンタ達ぃぃーッ!! 逃げるわよぉぉーーッ!!」
「……えっ?」
女は大声で叫ぶと、道の彼方へと走り出していった。
「あの2人も捕まえろぉーーッ!!」
「えぇ……、うっそやろ……」
まさか囮にして自分だけは逃げる算段か。
無実とは言え、憲兵に捕まると非常に厄介だ。
そして散り散りになるのはまずい。
「ミルフィ、逃げるでッ! あの女を追いかけなアカンわ――!」
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